制御の魔法陣
「制御? 制御の魔法陣でござるか?」
「そうです。それ単体ではあまり意味がないかもしれませんが、組み合わせることでこれまでにない効果を発揮することができることとなるでしょう」
「……よくわからんでござるな。もう少し詳しく説明してくれないでござるか、アルフォンス殿?」
集まった職人たちに組合に加入しないかと提案した。
そして、その見返りとしてこちらが提供するのが魔法陣の技術についてだ。
だが、制御の魔法陣という言葉だけを聞いてもあまりすぐには理解できないのだろう。
そこで、実物を持ってこさせて、それをバナージたちの前で使って見せることにした。
「これは、箱型の魔道具でござるな。以前からアルフォンス殿が作っていた食品を加熱するためのものでござる。これは、拙者もすでに何度も使ったことがあるでござるが……」
「いえ、こいつは今回のために新しく作った新型です。まあ、目的とする機能は同じようなものなんですけど。箱の中に入れた食べ物や飲み物を温める。それだけの魔道具ですが、これまでと違って改良しているんです。制御の魔道具を使ってね」
新バルカ街で作っている魔道具の主力は主に二つある。
土鍋で米を炊く魔道具と、この箱型の魔道具だ。
ほかにも魔道具は作ることはできるが、これらは攻撃性のない魔道具であり一般に流通させても大きな問題がないというところが気に入っている。
そのうちの箱型魔道具は箱の内部に熱を加えるという効果があった。
火が出るわけでもないのに、内部のものが温められるのだ。
加熱時間も短く、火を使わないという点が気に入られて、今では結構な数の家庭に普及しつつある。
そんな箱型魔道具はバナージにとって見慣れたものだった。
なので、俺が目の前にこれを持ってきたときにはちょっとがっかりしたような顔をしていた。
が、実演して見せると今までとは似て非なる性能が備わっていることに気が付いたようだ。
「アルフォンス殿。今、何をしたのでござるか?」
「箱の中に入れたお茶を温めました。はい、どうぞ。適温になっていますよ」
「……ふむ。本当でござるな。ちょうど飲みやすい温度に加熱されているようでござる」
「違いがわかりましたか?」
「もちろんでござる。アルフォンス殿は確かにその魔道具で茶を温めた。だが、それをどのくらい温めるかについて自分で調節していなかったでござるな。もしや、自動で最適な温度になるようにでも制御されているのでござるか?」
「そのとおりです。制御の魔法陣を組み込むことでそれが可能となりました。あるいは、バナージ殿の言うように最適化や自動化の魔道具とでも言えるかもしれませんね」
俺とバナージの言葉を聞いて、ほかの職人もこの新型魔道具の凄さについて気が付いたようだ。
職人たちが立ち上がってわらわらと魔道具のもとに群がってくる。
そして、実際に自分でも使ってみようと、適当なものを箱の中に入れて温め始めた。
その結果、この魔道具が今までのものと比べていかに使いやすくなっているかについて理解できたようだ。
箱型魔道具というのは、もともとブリリア魔導国で作られていたものだ。
あの国も武器などに使える魔道具は一般販売しておらず、日常品として使えるこれらを販売していた。
俺がしたのはブリリア魔導国の真似だったというわけだ。
その箱型魔道具に備わっている機能もだいたい同じものだった。
箱の中に温めたいものを入れて、箱を閉じる。
そして、箱の外側に取り付けられた突起を押すことで加熱が始まる。
それだけで内部のものを温められるというのは画期的であり、だからこそ売れていた。
が、この改良版の魔道具を手にしてみたら、今までのものがいかに使いにくかったのかがわかるのではないだろうか。
というのも、基本的には箱は使用時には閉じられて内部の状態が見えないのだ。
すなわち、箱を閉じ、突起を押して加熱を始めると中の様子が一切わからない。
下手をすると、加熱しすぎて料理が食べられなくなるということもあったのだ。
ごくまれにだが、加熱しすぎていて箱を開けた瞬間にパンと中のものがはじけて火傷したり、手に持ったものすごく熱くなっていて火傷したりという事故もあったりする。
なので、魔道具購入時には各自で適宜様子を見ながら、場合によっては何度か中の状態を確認しながら加熱するようにと伝えていた。
要するに、簡単に加熱できるけれど、気を付けて使わないといけない商品とも言えたのだ。
だが、この新型は違う。
箱を閉じて加熱を始めると、あとはほったらかしでもいいのだ。
こいつは内部の状態を把握して自動的に加熱を終えてくれる制御がされている。
お茶だとすぐに加熱が終わるし、別の料理などであればもう少し長めの時間の加熱を自動的にしてくれるのだ。
制御の魔法陣。
それが組み込まれたことによって、圧倒的に便利で失敗のないものへと生まれ変わった新商品なのだ。
「魔道具そのものが独自に判断して加熱時間を調整しているのでござるか? どうやってそのようなことができるというのでござる。魔導文字を組み合わでそのようなことが本当にできるというのでござるか?」
「普通は無理でしょうね。だから、この制御は本家のブリリア魔導国でも持っていない技術であると思います。ね、面白いでしょう? この魔法陣があればほかにもいくらでも応用が聞くと思いますよ。組合に加入すれば、その知識を得られるのです。さあ、どうしますか?」
「……入るでござるよ、アルフォンス殿。拙者、魔道具組合に加入するでござる」
「ありがとうございます。あ、言い忘れていましたけど、加入の際にはバルカ教会で儀式もしてもらいますから。組合以外で勝手に魔道具を売らないとか、ほかにもいろいろ条件があるので。ここにその条件が書いてあるので読んでおいてください」
どうやら、バナージはこの制御の魔法陣の有用性についてすぐに理解したようだ。
魔道具組合に加入すると言ってくれた。
そして、そのバナージの加入をきっかけにして、ほかにもこの場に集まった職人たちの多くが加入を決めた。
こうして、オリエント国が誇る良識ある有能な職人たちが組合に集結し、新たな魔法陣知識を得ることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





