足場固め
「というわけで、頼んだぞ、アイ」
「カイル・リード様のおっしゃった選挙制度の改革については、私が中心になって進めていくということでしょうか?」
「そうだね。アイにお願いしたい」
「かしこまりました。さらに詳しい方法について検討し、ほかの議員と調整を行っていきます」
カイル兄さんから教えてもらった多数派工作について。
それらの一切合切をアイに丸投げすることにした。
俺も一緒になって考えるべきなのかもしれないけど、細かな数をもとにした区割りの調整なんて絶対にアイのほうが速くて確実だしね。
アイもすぐに都市内部の住民の住所や人数などをもとに、いくつかの検討案をはじき出していく。
それを見ながら、ほかにもいろいろとやっておいたほうがいいだろうかと考える。
選挙制度の改革も重要だけど、それ以外が意味ないわけではないからだ。
今後のためにも一応考えるだけは考えておこう。
まず第一に思い浮かぶのは、バルカ教会の更なる発展だろうか。
熱心な信者が増えればその分、票を集めやすくなることは間違いないはずだ。
そのためには、信者になると目に見えて得する、という状況を作ったほうがいいかもしれない。
もともと、宗教は信仰心によって成り立っているものだろう。
けれど、俗物的な損得で人を集められなくもない。
となると、今までのような依頼の受注が役に立つか。
これまではバルカ教会の互助会に入れば、金銭を払って依頼を出すことができた。
さきに依頼料を預けておく必要があるが、自分の代わりに誰かがその依頼を達成してくれる。
これに議員になった連中も関わらせよう。
つまり、互助会の依頼を現職の議員がやるのはどうだろうか。
今までならば、どちらかというと金のない貧乏人のための仕組みだった。
なので、多くの依頼は単純で簡単だが重労働なものなどが多かった。
だが、中には一般人ではかなえられない仕事というのも存在したのだ。
例として挙げれば、どこそこの町や村まで行くための新しい道を作ってほしい、とかそんな依頼だ。
【道路敷設】の魔法がつかえればできなくはないが、勝手にやれば国に怒られる。
なので、さすがにそんな依頼は受けることすら難しかった。
だが、そういう依頼も国政にかかわる議員がいれば話が変わってくる。
道を作ったりなんかは議員であれば議会に議題として持ち込むことができるだろうしな。
そういう、規模の大きな、けれど市民生活に直結する願いを叶えられるようにしていくのはいいことかもしれない。
バルカ教会の互助会に入っておけば、自分たちの要望が通りやすくなる、というのは損得の観点から言えば今までにない大きな得だろうからな。
それに、これは現職の議員にたいしても一種の圧力にもなりえるかもしれない。
バルカ教会を通して議員になれたから、あるいはバルカ教会の票があるから今後も当選するのは簡単だ。
そんなふうに思われても困るからだ。
基本的にはバルカ党の方針に従って行動してもらいたいが、だからといっていうことを聞くだけの人形が欲しいわけでもない。
もしも、互助会に寄せられた要望などを一切叶える気がないならば、次は議員として立候補させない、あるいは票を入れさせないとでもしてみてもいいかもしれない。
そうすれば、自分の今後の議員人生も考えて積極性が出ることだろう。
信者たちからどんな要望があるかを調べて、それが実現するように動く。
議員が動くことで信者の獲得につながり、信者が増えることで議席が安定するようになる。
そんな好循環を作れないかどうかも考えてもいいかもしれないな。
「というわけで、そういう調整も頼むよ、アイ」
「かしこまりました」
そして、それらのこともアイに投げる。
議長でもあり、バルカ党をまとめるアイのほうが党所属の議員たちがどれくらい頑張って働いてくれているか評価しやすいからだ。
けど、ちょっとアイに頼りっきりになりすぎな気もしないでもない。
別に疲れたりはしないんだけど、アイにしかできないことを優先してやってもらったほうがいいだろうしな。
「アイからの要望とかはなにかないかな? アイの負担が減るとか、こうしたらもっとやりやすいとかがあれば言ってほしいんだけど」
「では、生徒たちの教育指導に政治分野を組み込む許可をいただければと思います」
「生徒って、俺の家にいる元孤児たちのことか? あいつらを議員にしようってこと?」
「はい。バルカ党の議員は党是に従って行動すると誓っています。が、それでも、人によって行動基準も思想も全く違います。もう少し統一性があるほうが望ましいかと考えます」
「なるほど。先にある程度の知識と行動指針を教えこんでおいて、そいつらを議員にしたほうがアイも動きやすいってことか。いいよ。許可する」
「ありがとうございます」
今まではバルカ傭兵団の幹部候補としてアイに教育させていた元孤児たち。
どうやらその元孤児たちの一部を議員候補として教育したいというのがアイの意見だった。
といっても、貧民街出身の孤児は一級市民の権利なんてないからな。
しばらくは、育ったら現職議員の秘書にでもしてみるか。
優秀そうならアイの時みたいに戸籍をなんとかすることも視野に入れよう。
だが、どっちにしろそれを教えていくのもアイなんだよな。
いつまでたってもアイの世話になりっぱなしだな、と思うが、まあいいか。
こうして、着々と足場固めに精を出しつつ、寒い冬が過ぎていったのだった。
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