制度の変更
『ああ、それならそう難しいことじゃないと思うよ。いつでも一定の数を確保し続けるだけなんでしょ?』
「そうだけど、ずいぶん簡単に言うね、カイル兄さん。俺はそんな方法は全然思いつかなかったから相談したんだけど」
『あはは。いいよ、教えてあげる。っていっても、ボクも議会ってのは経験したことがないから、あくまで参考に聞いてね、アルフォンス』
バルカ党を議会で第一党にし続ける。
そんな方法がないだろうかと考えていたのだが、あまりこれだという方法が思い浮かばなかった。
なので、ちょっと人の意見を聞いてみることにした。
今回俺が相談したのはカイル兄さんだ。
アイを通して、大雪山のはるか向こうにいるカイル兄さんに状況を説明する。
グランの故郷であるオリエント国には議会というものが存在し、その議会に俺はアイを送り込んで議長に就任させることに成功したことを話した。
そして、さらにその先のことを考えて勢力を維持するための方法はどうすればいいだろうかと言った瞬間、カイル兄さんはさも簡単なことのように俺に教えてくれるという。
やっぱりすごいな、カイル兄さんは。
話を聞いたらすぐに考えが浮かんできたらしい。
『その街に住む一級市民と分類される人々によって選ばれた議員が国の方針を決定する。そのための議員は一定期間で毎回選出しなおされる。そんな議会の仕組みの中でどうやって常に多数派で居続けられるかがアルフォンスの聞きたいことであっているよね?』
「そうだね。どうやったらいいかな?」
『簡単なことだよ。とくに、今みたいに新参のアイを議長にすることができるくらいの状況ならね。というか、アルフォンスはちょっと真面目に考えすぎかな。発想を変えてみるとこの答えはすぐに出てくると思うよ』
「発想を変える?」
『そうそう。アルフォンスはどうやって今の議会の中で多数派を維持し続けるかばかりを考えているんだろうね。それよりも、自分たちが多数派で居続けられるやり方はどんなものかを考えるんだ。つまり、現行の議会の仕組みのなかで多数派になるのもいいけど、多数派になれるように議会の仕組みそのものを変えてしまうって感じかな』
「……議会の仕組みを変える? えっと、どういうこと? よく分かんないだけど」
『そうだね。じゃあ、具体的なたとえでも出してみようか。極端な例としてでいいならこうやればいい。オリエント国の議会に議員として立候補できるのはバルカ教会の信者で互助会に入っている者だけである、とかかな? これなら、議員になる者は全員バルカ党ってことになるから常に多数派になれるよ』
え?
なにそれ、インチキじゃん。
議会の仕組みを変えるって、そこまでする話なのか。
てっきり、議員の数を変えたり、任期の長さを変えたりとか、新しい役職でも作るのかと思った。
だけど、もしカイル兄さんの言うとおり、立候補者に決まりができたらどうだろうか。
それならばバルカ党が常に過半数を維持するどころか、バルカ党以外存在しなくなるんじゃないか。
実際、立候補できる者の規定というのはすでに存在している。
これは現時点では一級市民でなければならないと定められているからだ。
つまり、その規定をちょっと変えると実現できる話ではある。
「いや、けど、やっぱり無理じゃない? そんな根本的な変更は絶対反対意見が多くなるよ。いくらアイを議長にできたからって、そんな規定変更はバルカ党以外のほかの議員が全員反対してくるだろうし」
『だろうね。だから、さっきのは極端な例だって言ったんだよ』
「うーん。ていうことは、もうちょっと反対意見が出にくくて現状で仕組みを変えやすいけど、多数派になれる方法を探さないといけないのか。やっぱり難しいよ」
『そうかな? 多分できると思うよ。だって、アルフォンスはすでにバルカ教会とかいう組織票があるんだよね? だったら、それが最大限有効になる選挙制度を作ればいいよ。軽く聞いた感じだと、人口の多い都市国家全体から議員を選んでいるみたいだから、選挙区を分ける方法が考えられるかな。想定される得票数で最大の議席が得られるように変えればいいんだよ』
カイル兄さんの言うことは難しい。
が、その後、更に詳しい説明をカイル兄さんとアイに聞いてなんとなく理解できた。
制度の変更。
今はこの都市全体を一つの区切りとして選挙を行って、得票の多い者から順に規定数の議員になるまで議員が選ばれる仕組みになっている。
これを都市の中でもいくつかの選挙区に分けるのはどうかということらしい。
組織票で得られる票数から逆算し、こっちに有利に働く選挙区を作り出し、議席を確保する。
実はこの発想はカイル兄さん独自のものではなくて、アルス兄さんから聞いたことのある考えをもとにしているらしい。
カイル兄さんがはじめて自分の領地を手に入れて、いきなり知らない土地で統治をすることになったときに、アルス兄さんにいろいろと相談し、議会制の話も出たらしい。
こういうやり方も存在するとして、議会を作って選ばれた人間で統治する方法を話していたそうだ。
その時に、そのやり方の欠点も言っていたのだという。
選挙制度によっては全体の得票率が二割程度でも常に過半数を維持できると話していたそうだ。
なんでアルス兄さんはそんなことを知っているんだろう?
そういえば、政党という考え方自体、アルス兄さん発祥だとアイが言っていたことを思い出した。
フォンターナ王国や天空王国は評議会はあっても選挙で議員を選ぶ議会なんてないのにね。
まあ、何にしてもいいことを聞けた。
最初の例として言われた立候補の条件はさすがに反対が多いだろうけど、選挙区の割り振りならいけるかもしれない。
それをすることによる影響がどんなものかはすぐには分かりにくいし、人によっては自分が有利に働くとして賛成してくれることもあるだろう。
どういう方法が一番バルカ党にとっていいかを検討して、議会に議題として挙げさせてみるのもありだな。
カイル兄さんの意見を聞いて、俺はすぐにアイと区割りの調整について話し合ったのだった。
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