政党
「議員当選おめでとう、アイ」
「ありがとうございます、アルフォンス様」
緊急の選挙がオリエント国で実施された。
貧民街に巣食う犯罪組織の手によって多くの議員が殺されるという前代未聞の事態が発生したことで、失われた議席を埋めるためにも選挙をすぐに行う必要があったのだ。
そして、そこで行われた補選でアイは見事に当選した。
これはなにげにすごいことだろう。
というのも、アイに他人の戸籍を使わせることができたとしても、だからといって選挙で票を集められるかどうかは未知数だったからだ。
というよりも、いきなり出てきたどこの誰かもわからない人間だとどう頑張っても票を集めることは普通ならば難しかっただろう。
だが、アイは当確線上をはるかに超える票を集めることに成功した。
新人候補ではこれまで無かったくらい多かったそうだ。
これは、アイの今までの活動が関係していたのが大きい。
というのも、アイはすでに議員になったローラの秘書兼護衛として常にそばにいた。
ローラもはじめての議員生活だが、当選して議員となり給料を得るのが目的というような感じではなく、必死に働いていた。
それまで全く経験のない議会のことについて調べるのはもちろんのこと、議会には必ず毎回出席して積極的に意見を述べたり、あちこちの会合などにも顔を出していたのだ。
そして、そこには当然アイもついていくことになる。
お偉方や力のある組織の者たちとの話し合いでは、ローラはたびたびアイに意見を求めたりもしていたという。
なんといっても、アイはいろんなことを知っているし、一度覚えたことは忘れないからな。
ローラが少しでも疑問に思うことがあればアイに尋ね、それにたいして正確に答える。
そんな光景があちこちで見られていた。
そして、議員としてのローラに相談に訪ねてきた者は、ローラの屋敷でアイに話を聞いてもらったりということもあったらしい。
その結果、アイは非常に多くの人の信用と信頼を得ることとなった。
議員や職人組合の重鎮はいうにおよばず、一般人でもアイのことを知っていてなんでも相談に乗ってくれて頼りになる人であると思われるようになっていたのだ。
これは、バルカ教会の互助会も関係したのだろう。
オリエント国で作り上げたバルカ教会の信者同士での協力機構としての互助会にも、アイがいろんな仕事をしていたからな。
とくに、最初の人手が足りないうちは困りごとなどを受付け、それを依頼として承諾し、その依頼を受ける人を探す手配などもアイがしていたこともあるのだ。
それは当然、都市国家内でもそうだった。
人々はアイが何人分もの仕事をこなす完璧超人かつ絶世の美女として認識することとなったのだ。
人気がでないはずがないだろう。
こうして、アイは見事に多数の票を集めて当選して見せたのだ。
「今回の補選の結果、親バルカ派の数が一定数に達しました。バルカ党を結成するのがよいかと考えます」
「バルカ党? なにそれ?」
「政党です。本来議会というのは議員の数だけ意見が存在します。そして、それらの意見を突き合わせて話し合いを行い、合意点を見出し、あるいは廃案していくのが本質的なあり方でしょう。ですが、規定議員数のなかで一定の数の議席を同じ意見を持つ集団が得ることで、議論の行方を誘導しやすくなる効果があります」
「ああ、そういうことか。三人中二人がグルになっていつも同じ意見をいえば、残りの一人の意見は無視できるってことだよね?」
「そのとおりです。現在の親バルカ派はそこまでの人数ではありませんが、議会内で大きな影響力を発揮できる数であると考えられます」
議員へと当選したアイはとくにうれしそうな様子も見せずに淡々とそんなことを言い出した。
今回の補選ではバルカからはアイだけが当選できたというわけではない。
それ以外にも親バルカ派と呼べる者が当選していたのだ。
それにもバルカ教会が関係していた。
今回の議員襲撃の事件は背後にソーマ教国が関係しているかもしれない。
貧民街に巣食う犯罪組織を取り締まる護民官の俺がそんな見解をぶちまけて、さらに各地で似たような噂を流した。
それにより、ソーマ教国にたいして心理的に距離を置こうと考える者が増えたのだ。
そして、そこにつけこむ形で危険な宗教からオリエント国を守るためにも、互助会などを通じて自分たちを守ってくれているバルカ教会の人間を議員にしたほうがいいのではないかという意見を広げさせたのだ。
互助会では金銭を提供しての依頼をだしたりしているが、なかには変わり者がいるもので金が目的というよりも人助けが目的のために依頼をこなす者がいたのだ。
当然、そいつらは依頼をこなす件数が多く、互助会で作ったランク制度で上位に位置して、一種の注目を集めることになっていた。
そんな変わり者に選挙に出てさらに人助けをしてみないかと声をかけて、今回の補選で立候補させていた。
さらには、そいつらに票を集めるためにバルカ教会で積極的に投票のお願いもした。
しかも、バルカ派の議員がひとりでも増えるようにということで、アイだけではなくほかの面々にも適度に票が振り分けられるように、投票先の指示まで出したのだ。
これが成功するかどうかは賭けだった。
もしかしたら、指示したとおりの票を分け合えずに下手に分散しすぎた結果、全員が落選する可能性もあったのだから。
が、そんな心配は結局は当たらなかった。
ある程度こちらの指示通りに票が分配できたようで、バルカ教会から用意した立候補者のほとんどが当選したのだ。
アイのようにバルカ教会関係以外の人間からの票は得られていなかったが、それでも当選すれば同じ議員だから問題ない。
それにより、アイのいうバルカ党が作れるだけの数が確保できたというわけだ。
いいね。
これなら国の方針を決定づけることのできる議会と、直接的な武力を発揮できる護民官としての地位を俺が利用できるかもしれない。
議会が本格的に再開されたら、一致団結したバルカ党の力を発揮して、もっと俺が動きやすい環境づくりでもできないかどうかアイに相談してみようか。
ガロード暦10年の冬に、着々とオリエント国は俺にとってやりやすい国へと変わりつつあったのだった。
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