マッチポンプ
「で? 結局、俺が暗躍するっていうのはどういうことなの?」
「分かりました。お話しいたしましょう。我々トラキア一族がオリエント国議員にたいして刺客を放ちます。そして、それは国全体に混乱をもたらす結果となるでしょう。そのとき、その事態を治めるためにあなた様が動きます。暗殺者を捕まえることによって」
「……えっと、どういうことだろう。突然、複数の議員が暗殺される。で、その暗殺犯を俺が捕まえて事態の解決を図るのか? けど、それはもちろんシオンたちを捕まえるってわけじゃないんだよね? もしそうなら、こんな話をシオン自らがしないだろうし」
「そのとおりですね。影の者とは別の者たちを犯人として捕まえることになるというのが私の占いで出ておりました」
たしかにそれならできなくはないだろう。
実際には俺も刺客を送り込まれているのだから。
話の流れとしてはこんな感じになるだろうか。
まず、最初に狙われたのは俺だった。
グルーガリアの材木所に攻撃を仕掛けて、そこから帰る途中で刺客に襲われた。
そして、その数日後にオリエント国でも刺客が暗躍して何人もの命が失われる。
そこに、最初に狙われたものの危機を脱した俺が登場する。
刺客に狙われながらも無事だった俺がオリエント国に駆けつけ、議員を殺しまわっている犯人を捕まえて事態収拾に動くっていうのはどうだろう。
もちろん、そこで真犯人である影の者を捕まえることはしない。
そんなことをする必要はないし、今は協力関係にあるしな。
だったら、誰を犯人にしたてあげるのがいいだろうか。
誰でもいいとはいえ、あんまりにも無関係な人を巻き込むのもどうかとは思うし、都合がいい相手はいないだろうか。
「……シオンたちトラキア一族ってさ。実際は暗殺よりも情報収集の仕事のほうが多いんだったよね?」
「そうですね。むしろ、ほとんどの場合はそれが主な仕事になります」
「だったら、知っていたらでいいんだけど情報がほしい。オリエント国に入り込んでいるソーマ教国の連中っているだろ? 不治の病を患う人にたいして延命薬を売りつけたり、化粧品を売ったりだとかオリエント国にいろんな影響を与えている連中がいると思うんだけど、そいつらのことを教えてくれないか?」
「分かりました。同業でもあるので、ある程度の情報はこちらでも掴んでいます。情報料をいただくことになりますが、構成員の数や潜伏場所を提供いたしましょう」
「ありがとう。じゃ、議員殺しの犯行はそいつらが裏でからんでいるってことでよろしく」
どこかにいい生贄がいないだろうかと考えた時、頭に浮かんだのがソーマ教国のことだった。
あそこは延命薬やなんかで小国家群に影響を持っている。
が、本国はかなり遠い場所にあるからな。
オリエント国にいる連中はあくまでも息のかかった末端くらいだろう。
そいつらを消すことにどのくらい意味があるかどうかは分からない。
むしろ、大国であるソーマ教国から更に俺が嫌われちゃったりするかもしれない。
まあ、それは別にいいだろう。
どうせ、延命薬という高価で長期的に売れる品をここらで売れなくしたからすでに嫌われているっぽいしな。
最近はオリエント国以外の周辺の小国でもソーマ教国製の化粧品は危険性が認識され始めて売り上げが落ちてきているみたいだし、いまさらだろう。
というわけで、議員を狙う真犯人はソーマ教国の末端組織員ということになった。
犯人に仕立て上げるのはものすごく簡単だ。
なにせ、この場には実行犯である影の者の長と犯人を捕まえる役を担う傭兵団の団長がいるのだから。
犯行現場に真犯人につながる証拠を残しておくこともできるし、言い逃れさせずに悪即斬でいこう。
「それでは不十分かと思います。議員暗殺の犯人を捕まえるだけでは混乱は収束しないと考えられます」
だが、俺とシオンの話し合いに割って入った者がいた。
それはアイだ。
俺の隣にいたアイが声を上げる。
「やっぱ駄目かな? まあ、結構な人数の議員を狙うことになるから当たり前と言えば当たり前か。一応、議員が減った後の議会はローラたちに任せようかなと思っているんだけど」
「それでは混乱を抑えられるかどうか不確定であると考えます。一時的にでもいいので、混乱を強制的に収める存在が必要でしょう」
「議会の混乱を強制的に解決する、か。難しそうだね」
「いえ、それ自体はそれほど難しくはないかと思います。権力を持つ武力があれば、それは可能です」
「武力で? ってことは、オリエント軍を使えるやつなら無理やり混乱を抑えることができるっていうことになるのかな?」
「そのとおりです。そして、それはアルフォンス様にも可能です」
「え、なんで? 俺は私設のバルカ傭兵団を持っているけど、オリエント軍とは関係ないぞ? バルカ傭兵団だけで都市国家の混乱を抑えるほどの人数はいないから無理じゃないのか?」
「可能です。議員の数が減ることで、それは可能となるでしょう。今のうちにローラ様やバナージ様にアルフォンス様の護民官就任を打診しておくことをお勧めいたします」
護民官?
なんだっけ?
確かそんな役職がオリエント国にはあったような気がするが、フォンターナ連合王国にはなかったので聞きなれないやつだった気がする。
議会の推薦で選ばれる役職で、議員資格がなくてもなれるんだったっけか。
それならば確かに議員になる年齢にすらなっていない俺でも法律上では可能と言えば可能なのかもしれない。
平時であれば俺が役職に選ばれるなんてありえないだろうけど、たくさんの議員が殺されて、その犯人を捕まえるという実績を引っ提げていけばなんとかなる、のか?
護民官になれば、軍の一部を動かす権限もあるから、それを使って強引に混乱を治められる、と。
アイをローラのそばに置いておいてよかったなと思ってしまう。
あんまりこの国の仕組みを把握しきれていないが、アイができるというなら制度上は問題ないだろうし大丈夫だ。
なら、それでいこう。
合法的に権力さえ握ってしまえば、あとはどうにでもなるだろうしな。
こうして、俺は影の者をオリエント国に送る手はずを整え、その犯人を作り出しつつ、その後の権力を握る算段もつけてから、それを実行することにしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





