長との話
幻惑の森の正式名称はトラキアの森というらしい。
この森で影の者と呼ばれる一族と接点を持つことに成功した。
こいつらは俺に対して刺客を送り、命を狙ってきた相手だ。
だが、交渉の結果、これ以上の戦闘は無しということに落ち着いた。
このことについてはいい結果だと思う。
なんせ、相手が俺よりも強かったからな。
血の霧を使えばうまく戦えるとは思うけれど、あれそのものにはさほど攻撃力もない。
一般人なら周囲にばらまいた細かな粒子となった血の霧で攻撃しても傷を負わせられたかもしれないが、魔力量の高いあの男には到底効かなかっただろう。
持久戦で粘りつつ、どうにか血を吸い取っていく、くらいしか勝機はなかったかもしれない。
ちなみに、その後男性の長とかいうやつにやった血の楔も実力者相手には効果が薄いのか、誓いを破ろうとしてもちょっと胸が痛いという程度らしい。
村人とかなら失神してもおかしくないはずで、これだと牽制程度くらいに考えておく必要があるかもしれない。
とはいえ、なぜだかわからないが向こうから降伏してきてくれた。
普通ならばあまりそんなことはしないんじゃないかと思う。
こんな森で生まれて暮らしてきた一族というならば、一族全員が家族みたいなものだろう。
俺の命を狙ってきたゼンとウォルターに擬態した二人をこっちは倒しているんだ。
それを聞いたら到底許せないと考えてもおかしくはなかった。
が、さすがに暗部の連中ということでもあるらしい。
仕事中に命を落とすことはあると割り切って仕事を受けているようだ。
俺との対話の中でも、二人の死を蒸し返すこともなく冷静に話し合いが進むこととなった。
そして、その結果、俺は影の者に依頼を出すことになった。
俺の命を狙ってこいつらに依頼を出した議員連中。
そいつらのことをシオンたちに頼んだのだ。
「人数が多いので、報酬もその分高くなりますがよろしいですか?」
「もちろん。こういう依頼の相場ってどのくらいか知らないけど、ちゃんと払うよ。もしあれだったら、食料も提供してもいいし」
「あら。それは助かりますね。最近は大嵐で食費も高騰して困っていたのです」
「こんなところにあえて住んでいるのに外から食料は買ったりするんだ?」
「もちろんです。森の資源は豊富にありますが、お米などはどうしても採れませんから。仕事で稼いだお金やこの森で採れる薬草などで外から購入することも多いのですよ」
「へー。でも、その割にはこないだの嵐の被害ってあんまりなさそうだよね。こんな木の上に建物を建てたりしているのにさ」
「ふふ。私の趣味が占いなんです。その占いで大きな嵐がくると出ていたので、事前に風で物が飛ばないようにくくりつけたりしていたんですよ」
占いか。
そういえば、昔貴族院でも女性に人気だったような。
なんでか夢中になる人が多かったが、この森ではその占いによって実際に被害を防げたということか。
案外当たるのかもしれないな。
「それはそうと、今後のことは考えているのですか?」
「うん? なんのこと?」
「今回のあなた様の依頼の後のことです。この依頼ではオリエント国の現議会の議員の名が多く並んでいます。そして、その依頼を我らはきっちりと遂行する実力と実績があるつもりです。すなわち、任務達成がなされた場合、オリエント国の議会は大混乱することとなるでしょう。いえ、それは議会にとどまらず国全体に影響するでしょうね。その混乱にどのように責任を持つつもりか、聞いてもよろしいでしょうか?」
「うーん、そうだな。単純にもう一回選挙でもすればいいじゃんとは思うけど、いい機会だしね。積極的に動いても面白いかも。っていうか、シオンの占いだとどう? 今後、オリエント国がどうなるか、占ってみてくれない?」
「……もう占っています」
「え、そうなの? いつやったの全然わからなかったけど、もしかして俺の目の前でなにかやってたりしたのかな?」
「違います。実は以前から私の占いにはこの事態が示されていたのですよ。オリエント国は大混乱し、そこであなた様が登場する、と。ですので、私はあなた様のもとへと刺客を送り込むことには反対していたのです」
「んん? シオンは反対してたんだ? でも、どういうことかよくわからないんだけど、俺に刺客を送る前からシオンの占いには俺が登場していたとかそういうことなのか?」
「はい。そのとおりです」
……本当なんだろうか。
もしかしたら、「実は前からあなたのことはよく知っていました」みたいな話術だったりしないだろうか。
実際はそんなことはないのに、話を即興で作っているとかそういう感じだったりしないかな。
見た感じはあんまりそんなことをしそうな人には見えないけど、よくわからん。
「アルフォンス殿。我が妹のシオンの占いは断じて趣味のような遊びの行為ではない。トラキア一族の持つ力は多様であり、シオンは未来を見通す占いを得意としているのだ」
「……もしかして、大嵐が来るのを占ったってのも、未来が分かっていたってこと?」
「然り。シオンの言うことであるからこそ、俺たちは事前に対処ができた。だが、オリエント国の混乱とその後にアルフォンス殿が出てくる話は聞いていなかった。言ってくれれば、アルフォンス殿へと刺客を送ることもなかったかもしれないが……」
「いえ。兄はこう言っていますがしょせんは占いです。当たるも八卦当たらぬも八卦。未来が必ずしも見えるというわけでもありません。それ故に、不幸な未来であれば回避することも可能なので」
なるほど?
どうやら、シオンの占いというのは遊びの域を超えた的中率があるからもう一人の長である兄貴のほうも信頼を置いているようだ。
だが、絶対にその占いが当たるというわけでもない。
むしろ外れることもあるがゆえに、悪い未来を回避するために動いたりもするようだ。
そんな占いに、以前から俺のことが出ていたらしい。
シオンの占いによると、混乱が訪れたオリエント国で俺がなにやら暗躍する、という未来が示されていたようだ。
面白いね。
どんな未来を予想したのか聞いて動くのもありかもしれない。
興味をそそられた俺はその占いについて詳しく聞いていったのだった。
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