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樹上から

「アイ、援護する」


 幻惑の森の奥にあった大木。

 その大木のそばにはほかの木々はなく、広場のようになっていた。

 そして、その広場で交戦しているアイと数人の傭兵、そして倒れた人の姿が目に入る。


 この場にいる傭兵はアイのそばにいたのだろうか。

 そのおかげで、俺たちとははぐれずにここまで来ることができたのだろう。

 そんな傭兵たちが前に立ち、後方からアイが魔銃を構えていた。


 おそらく地面に倒れているのは刺客である影の者たちだろう。

 血を流しているが動いているようなので死んではいないようだ。

 なので、すぐに援護に入った。

 もう一人のアイは魔銃を手に構える。

 たいして、俺は魔術を発動させた。


「行け、黒死蝶」


 ちらりと後ろを見ると、俺とアイのほかにここにいるのは数人の傭兵たちだけだった。

 どうやら、そのほかの傭兵たちはまたはぐれてしまったのだろう。

 ここに来るまでの森の中を進むにはどういうわけか森を出てしまうように誘導されてしまう。

 一応、全員気を付けていたはずだがそれでも駄目だったのだろう。

 なかなかどうして厄介な森だ。


 ただ、先にいた傭兵とあわせて十人ほどがいるのがまだ救いだ。

 そして、この場で俺たちのほかに動くのは影の者たちだけ。

 だったら最初から全力でいこう。

 俺は手のひらから魔力で構成された漆黒の蝶を産み出した。


 次々とあふれるように出てくる黒死蝶が木々の間から降り注ぐ日差しの中を舞う。

 その姿はなんとも幻想的な光景だった。

 だが、それを美しいと思えるのはこちら側だけだろう。

 いきなり安全な場所であるはずのこの地で襲撃を受けた影の者たちは大きく動揺し、また警戒していた。


 森の奥にあった太い大木には、木の中ほどなどのところどころに小屋のような建物がある。

 もしかして、ここにいる連中は樹上生活でもしているんだろうか。

 そう考えるのは、騒動のさなかに木の上にある建物から人が顔をひょっこり出すからだ。

 そして、その顔が窓や扉から出てくるたびに、アイの魔弾で狙い撃たれる。

 両手で抱えるようにして保持する銃身から飛び出した魔弾は、しかし当たらない。

 地上から高さのある木の上の建物を狙っているから狙いがずれたのだろうか。

 いや、アイの狙撃力でそれは考えにくいのではないか。

 だとしたら、幻惑の森の効果かもしれない。


「回避されました」


 俺がそう思っているところにアイが告げる。

 何度か試しに撃った結果、おそらくすべての魔弾が当たらなかった。

 どうやら、地上で倒れているのはもともと木の上にはいなかったのだろう。

 命中しないことを特に気にした様子もなく、アイは事実だけを述べた。


 アイの銃撃がやんだからだろうか。

 それまでは樹上の建物からこっそりと見下ろすようにしていた人々の中から、木をつたって降りてくる者がいた。

 どうやら、この大木に取り付けられた建物は、強い奴ほど上に住むことにでもなっているのかもしれない。

 見えている範囲で一番上にある建物から出てきた人物がかなりの速度で地上へ向かって走り降りてきた。


「出ろ、ノルン。強いのがきそうだぞ」


(俺が出るのもいいが、血は飲んでもかまわないんだろうな?)


「ま、しょうがないか。相手が強そうだしな。こっちも出し惜しみなしでいこう」


 木を垂直に駆け下りるその姿から相手の強さを推察する。

 弱いわけはないだろう。

 体の動き一つひとつから高い実力が感じられた。


 もしかしたら、当主級に匹敵するのかもしれない。

 無くはない話だ。

 こんなわけのわからない場所がつい最近できたなんてことはないはずだ。

 きっと大昔からこの大木はここにあり、そして、それと共存する形で影の者たちもこの森で暮らしてきたのだと思う。


 そして、この地で生まれ育ち、刺客となって外で活動することはあれどもふたたびここに戻って生活してきた。

 その結果、アトモスの里のように強い者でも生まれたのかもしれない。

 代を重ねるごとに強い者が上階に住むようになって、現代では当主級にまでなっている。


 そうなれば、アイではあいつの相手は少々難しいかもしれない。

 アイは別に戦闘用ではないからだ。

 魔銃も強い武器ではあるけれど、その有効性はせいぜいが騎士相手くらいまでとも言われている。

 一対一での戦いで当主級と戦った場合、アイの勝率は高くはない。

 なので、ここは俺が頑張るところだろう。


 ドキドキしてきた。

 俺もだいぶ強くなってきているとは思う。

 だけど、まだ当主級といえるような相手とは戦ったことがない。

 パージ街では魔術を使いこなすグイードやその孫のパージ家当主であるグレアムなどとも戦ったけど、当主級と呼ぶほどではなかったのではないだろうか。


 今の俺の強さが通用するだろうか。

 もしかしたら、あっという間に殺されてしまうかもしれない。

 というか、便宜上当主級という言い方をしていても、別に決まった強さの証明というわけでもないしな。

 相手によってピンからキリほどに違いがある。

 イアンのような強さだったらやばいかも。


 それでも、俺の力が通じるかもしれないと思えるのは魔剣ノルンの存在があるからだ。

 魔剣そのものが強い武器であるうえに、相手の血を吸うことで力を取り込める。

 もし、今回の相手が本当に当主級なら、その力を取り込めれば俺もそれに到達できるかもしれない。


 わずかな時間だった。

 そんなふうにあれこれ考えている俺の前に、樹上から駆け下りてきた男が地上へと降り立ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 速攻で、降伏態勢って事は無いよね。 [一言] 逸れず追って行ってる傭兵が居る。 一部には、優秀な傭兵も居るのか? 単にアイさんの側居たかっただけかな?
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