唐突な死
「それじゃ、一晩だけだけど世話になるよ」
「ええ、ええ。何もない村ですがゆっくりとしていってください」
「助かる。こっちは人数が多いから何か問題があるようなら俺に言ってくれ」
「分かりました。なに、こうして食料まで分けていただけたのです。多少のことなら村人たちも融通してくれることでしょう。ごゆるりと体を休めていってくだされ」
柔魔木を運びながら新バルカ街へと帰る。
その途中のことだった。
進みが遅いがゆえにその日のうちに帰ることができず、俺たちは道中にある近くの村に立ち寄って泊まらせてもらうことにしたのだ。
実はここはオリエント国でもなければグルーガリア国でもない、また別の小国に所属する村だ。
ただ、その村の長は俺たちが泊っていくことを快く受け入れてくれた。
それもこれも、この村にも嵐の影響があったからだろう。
大きな被害が出たところに傭兵団がやってきたら普通ならば困る。
何をされるかわからないし、村人は不安がるだろう。
ただ、俺たちが出した条件がよかったようだ。
ゼンが連れてきた商人に柔魔木をうっぱらったときの代金の一部と、自前の食料も対価にして泊めてくれないかと提案したのだ。
価値のあるお金と一緒に、俺が魔法鞄から取り出した食料は傭兵団の人数で食べる分よりも多かった。
つまり、被災して備蓄食料にも損害がでたこの村では、目の前にある食料が恐ろしく魅力的に見えたのだろう。
あっさりと許可してくれた。
まあ、きちんとした宿などあってないような小さな村だ。
傭兵全員が個室で寝るようなことなどはなく、適当な空き家などでぎゅうぎゅう詰めになって雑魚寝できるかどうかという感じか。
ただ、それでもゆっくりと体を休めておけば、次の日もしっかりと動けるようになる。
なにより、野宿しなくていいからか傭兵団の面々もうれしそうな顔をしていた。
とはいえ、わざわざこの村に泊まるのは刺客が来るのを待つためでもある。
ろくな防衛設備もない村で、村の中では一番いいとはいえしょせんはそこらの村長の家とでも言うべき建物で俺が寝ているのだ。
いつもの新バルカ街にいる俺を狙うよりも圧倒的に隙だらけに映るはず。
つまり、あえて隙をさらすことで刺客が現れてくれないだろうかと期待しての村での宿泊だった。
「ふわぁぁ。来ないね」
「来ませんね。もうお休みになられてはいかがですか、アルフォンス様? 子どもの体は寝ることで成長するので夜はしっかりと寝たほうが良いかと思います。後のことは私にお任せください」
「ん、そうか。じゃあ、アイの言うとおりにしようかな。刺客が来たら起こしてくれよ」
村長の家の一室で刺客を待っていた俺は、夜遅くまで起きていた。
が、来ない。
刺客らしき者は姿を現さず、すでに周囲は真っ暗になってから時間もかなり経過している。
どうやら、今日は来ないようだ。
早く寝るようにとアイに言われたので、それを素直に聞き、警戒をアイに任せて俺は床に就くことにしたのだった。
※ ※ ※
「おはよう、アイ。結局、刺客は来なかったのか?」
「はい。この部屋には不審な者は誰も現れませんでした」
「そっか。どうしようかな。このまま、さっさと新バルカ街に帰ったほうがいいのかどうかだけど……」
翌朝、日の光が顔に当たったことで俺は目を覚ました。
起きてすぐに、俺の視界にアイの姿が目に入った。
俺の横でずっと警護してくれていたようだ。
こういうとき、寝る必要のないアイがいるのは助かるな。
一晩中寝ずの番をしていたアイは、特に変わったことはなかったという。
それならばそれでいいのだが、今後どうするかを少し考えてしまった。
今回のようにあえて刺客が狙いやすいような隙をさらす必要が果たしてあるのだろうか。
お金のことだけをいえば、傭兵たちだけでかたまって野宿して帰るほうがいいのだろうけれど、どうしようかな。
「ま、いいか。あとのことは後で考えよう。よし、飯でも食いに行くか」
待つのは大変だ。
刺客がいつ来るのかわからないから、それに対応するためにはひたすら待ち続ける必要がある。
が、正直、俺の性に合わないかな。
やっぱり、待つよりは自分からいきたい。
「あ、おはようございます、団長」
「おはようございます、アルフォンス団長。ちょうど、朝飯の用意ができたところですよ。食いますよね?」
刺客のことに頭を悩ませながらも、顔を中心に【洗浄】をしてさっぱりしてから村長の家を出る。
傭兵たちの数が多いので、村の人も協力して全員分の食事をまとめて作ってくれているとのことだ。
村の広場で簡易のかまどを作り、そこで魔道具を使って米を炊きながら、適当な野菜を入れた吸い物を作っているようだ。
俺が顔を出したら、それに気が付いたゼンとウォルターが声をかけてくる。
ドン。
次の瞬間、そんな音が耳に入った。
俺の目の前で、今さっき俺に話しかけた二人が倒れている。
朝飯ができたといい、それぞれに米や吸い物を椀によそって手渡そうとしてきたゼンとウォルター。
その二人の頭が破裂したように飛び散り、まっかな血を流しながら地面に横たわっていたのだった。
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