でっち上げストーリー
「アイ、各村にある教会、およびそこにいる者たちに命じて噂を流させろ」
「どのような噂でしょうか?」
「オリエント国議員、特に俺のことを刺客を使って消そうとしている奴とそいつにかかわる利害関係者が、自分の利益のために俺の命を狙っている。とにかく、善良無垢な俺が金目当ての権力者から危険にさらされていることを大々的に広めておいてくれ」
刺客が来たら倒す。
これは絶対条件だ。
どういう手合いの者かは知らないが、あっさりと俺がやられたらそれでおしまいだからな。
いつ、どこで、どういうふうに襲ってくるかわからないが、現れた刺客を撃退する必要がある。
が、それだけで終わらせる気はもちろんない。
というか、終われないだろう。
人々によって選ばれた議員によって行われる話し合いの場の議会で、俺の命を狙った刺客を送ることを正式に決められたのだ。
その刺客を倒したらそれでおしまいなどということはあり得ない。
落とし前をつける必要がある。
だが、問題はその刺客をどれだけこちらが利用できるかはわからないという不安がある。
バナージも正確にはよく知らないという影の者と呼ばれる刺客だ。
きっと、現れたそいつを倒したところで、得られる情報はそう多くはないんじゃないだろうか。
つまり、そいつが誰からの依頼で俺の命を狙ったのかを俺には証明する手立てがないということになる。
多分、議会の議事録なんかに今回の命令が残されていないだろうしな。
もちろん、別に証明なんてなくてもオリエント国と一戦交えることは可能だろう。
ただ、そうなると新たな問題が出てくる。
オリエント国と戦った後のことだ。
もしも、刺客がオリエント国と関係しているという証明もないままに国と戦い勝ったとしても、周囲から見ると俺はいきなり雇い主であるオリエント国に襲い掛かった傭兵団の頭領として見られるだけなのだ。
その場合、オリエント国に住む者やその周囲の国から見て、俺やバルカ傭兵団は信用性ゼロの存在としてしか映らない。
それだと、今後の活動がやりにくくなるだろう。
なので、せめてオリエント国と戦うための理由が必要になるわけだ。
ようするに、大義名分というやつだな。
正当な理由があって俺はオリエント国と戦い、自身の正しさを証明した。
そういうふうに話を持っていく必要がある。
そのためには、今からでもできることをしておこう。
とりあえずは噂を流すことから始めようか。
現在、大嵐が襲った村などからはバルカ傭兵団の信頼が厚い。
これを利用しない手はない。
被災し、大変な状況にあった村を救ったバルカ傭兵団。
そのバルカ傭兵団を私利私欲のために手に入れようと、オリエント国が動いている、とするのだ。
とくに、俺に刺客を送ることを賛成していた議員とその関係者が狙い目だ。
そうだな。
グルーガリアに逃げた債権者が実はもともとグルーガリアと内通しており、そいつと今回俺を糾弾した議員は裏でつながっていた、とかいう話はどうだろうか。
俺を殺そうとしたのはオリエント国のためではなく、グルーガリア国のための行動だった。
つまり、真の裏切り者は議会に入り込んだ不穏分子である議員たちであり、俺たちバルカ傭兵団はオリエント国のために立ち上がって戦うのだ、という内容にでもしてみようか。
「お待たせしました、団長。ゼン分隊、到着しました」
「お、ご苦労様。さっそくだけど、この柔魔木を運ぶから積んでいってくれ」
「了解です」
そんなことを考えて、アイに指示を出しているところにゼンの部隊が到着した。
俺がウォルターやキクと一緒に川を船で下ってきたのに対して、ゼンは別行動をしていたのだ。
それは、材木所で手に入れた柔魔木の輸送手段のためである。
本来ならば重さのある木は川の水に浮かべた状態で運ぶのが一番楽だろう。
だが、水量の増えたグルー川を遡上していくのは難しかった。
そこで、手に入れた材木に関しては陸路で運ぶことを予定していた。
そのために、馬が曳く車や荷車などをゼン分隊には用意してもらってここまで向かっておいてもらったのだ。
そのゼンと一緒に新バルカ街でよく取引している商人などもいた。
こいつらには、水に浮かべた際に水気を吸って重くなった材木を中心にこの場で売る。
乾いた木材とイアン用の大型弓として使えるものだけを持ち帰るつもりだ。
あとのものはこの場で処分して、商人たちが方々に売りに行くことになるだろう。
柔魔木はグルーガリアが独占して、ほかの国はあまり手に入れられなかったみたいだからな。
適当な国に持っていけばそれなりに高値で買い取ってくれるだろうから、商人たちもニッコリ笑顔だ。
そんなふうに、持ち帰る分の柔魔木と処分する分をわけて、帰路につく。
その前に、もう一度主だった面子を集めて現状についての説明を行った。
「ウォルターは一緒の船に乗っていたから知っているから、キクやゼンはよく聞いてくれ。さっき情報が入ったんだけど、オリエント国から俺に向かって刺客が放たれたみたいだ。影の者とかいう刺客でオリエント議員からの信頼が厚く、実績もある奴みたいだ。これから新バルカ街に帰るまでに襲われる可能性があることを知っておいてほしい」
「本当ですか、それ? 大変なことじゃないですか」
「嘘なんて言わないよ、ゼン。実際、この情報は議員であるローラやバナージ殿からもたらされたものだからな」
「分かりました。それじゃあ、アルフォンス様を守りながら柔魔木を運んで帰ることになるということですね? 優先順位はアルフォンス様の警護になりますが、それでいいですか?」
「ああ、それで頼むよ、キク。ただ、影の者ってのがどういう奴らかよくわかっていない。だから、ある程度普通に仕事をしていてくれたほうがいいかもしれないな。相手もまさかこんなに早くこっちが刺客の情報を手に入れているとは思っていないだろうし。俺たちが警戒していることを悟らせないほうがいいと思う」
「了解です。ここにいる傭兵たちには手に入れた柔魔木が奪われないために十分警戒するようにと言っておきます。そうすれば、アルフォンス様を守ることにもつながると思いますので」
「それでいい。じゃ、新バルカ街に帰ろうか。出発するぞ」
今やれることはやった。
あとはもう刺客が来るのを待つだけだ。
いつ襲ってくるかは分からないが、刺客の側からしても俺が新バルカ街に戻るよりも外に出ている今が絶好の機会だろう。
帰るまでに襲ってくる可能性は高いと思う。
今か今かと刺客が来るのを待ちながらも、俺たちは新バルカ街に向かって材木の詰まった車を曳いて帰っていったのだった。
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