ワクワク
「あれ? なんか飛んできましたよ、団長。あれって団長の飼っている鳥じゃないんですか?」
「ん? ああ、本当だな。追尾鳥だ。どうしたんだろう」
材木所から柔魔木を奪い取ったバルカ傭兵団。
俺たちは、その材木を背負える分は背中に背負ったうえで、大きめの丸太や角材などはいかだのように紐でくくってグルー川の水の上に浮かべていた。
そして、そのいかだとこれまで乗ってきていた船で川下に下る。
その途中で、俺たちを追いかけるように追尾鳥が飛んできていたのだ。
ちなみに、帰りの方向としては逆方向に進んでいることになる。
オリエント国があるのは材木所よりも川上だからだ。
以前は材木所から帰るときに相手を引き付けるためにいったん下りはしたが、そのまま引き返すように川上に向かって進んだことがある。
が、今はそれができない。
もともとこのグルー川というのはかなり川幅の大きな川で、その水の流れは穏やかだった。
なので、通常時であれば必死に漕げば水の流れに逆行して帰ることができた。
が、今回は嵐で水の勢いが増している。
一時のことを考えればその水流もだいぶ落ち着いてきているだろうが、それでもまだまだ流れが早い。
というわけで、柔魔木のいかだという荷物もあり、俺たちはそれを水に浮かべてグルーガリア国のある方角とは別の川岸に向かっていた。
「なにか急用でもあるんですかね?」
「かもね。追尾鳥の脚に手紙が巻き付けてあるし」
そんな川の上で俺の肩に止まった追尾鳥の脚には伝令用の小さな紙が巻き付けられていた。
それを見つけて、すぐにその紙の中身を確認する。
そこには短く、刺客出たり、と書かれていた。
「刺客が送られてくるってさ」
「え? 団長にっすか? 見せてもらってもいいですか。……いや、読めないですね、これ。ここいらの文字じゃないから分からないですけど、刺客が送られてくるってことはあれですかね? 前にちらっと言っていたソーマ教国から団長がにらまれているってやつが関係してるんですかね?」
「さあな。分かんないよ、そんなことは。直接話を聞いたほうが早いかもね」
「直接? ここに来る刺客に話を聞くってことですか?」
「んなわけないだろ。手紙の送り主からだよ。出ろ、アイ」
さすがにいくら何でも刺客に話を聞くなんてことは俺でもしない。
そうではなく、この手紙を書いたであろうアイに話を聞くことにした。
アイの字はカイル兄さんや【念写】での字と同じ筆跡だから一目でわかる。
これを書いたのは間違いなくアイだ。
ちなみにウォルターのようにこの小国家群生まれの奴だとフォンターナ連合王国の文字はわからない。
これもある意味暗号だな。
そんなことを考えながら、魔法鞄に手を突っ込んで魔法陣が描きこまれた精霊石を探す。
そして、それを取り出して魔力を込めて起動した。
するとその精霊石から人の姿が現れる。
神の依り代に宿るアイが船の上に現れた。
「お、おお。いつ見てもすごいですね、それ」
「でしょ? で、どうしたんだ、アイ? 刺客がくるって手紙が来たけど何か情報を掴んだのか? ソーマ教国が動いているのか?」
「違います。刺客はオリエント国から放たれました。影の者と呼ばれる暗部に所属する存在です」
「オリエント国が? 材木所を襲ったことを怒ったのかな?」
「そのとおりです。現在、その件について議会での議論があり、アルフォンス様に刺客が送られることが決定しました。そして、バナージ様とローラ様のお二方は身柄をとらえられ、軟禁状態にあります」
どうやら、刺客はオリエント国から来るらしい。
穏やかじゃないね。
けど、これはおかしい。
「ちょっと待ってください。おかしいじゃないですか。材木所を攻撃する話は事前に説明していたんじゃなかったんですか? 先物取引をした相手が逃げ込んだんだって」
そうだ。
今回の行動は思い付きと勢いではじめてはいるけれど、通すべき筋は通している。
攻撃する前に事前にそのことを伝えたはずだ。
「議会でもそのことについてローラ様は問題提起されておられました。ですが、報告を受けたはずの担当者が知らない、報告を受けていないと主張し平行線をたどることとなりました。結果、連絡は無かったものとして片付けられ、バルカ傭兵団は許可なく戦端を開いたと認定されています」
「なるほど。なんかこっちが全面的に悪いってことになっているのか。で、肝心の俺がいない状態で議会での話し合いが終わっちゃったってことね。ローラたちは大丈夫なのかな?」
「今のところ、ローラ様がたに危害を加えられる気配は見受けられません。バナージ様がおっしゃるには、狙いはアルフォンス様亡き後のバルカ関連の利権ではないかとのことです」
「ふーん。そっか。いきなりで驚いたけど、これは前から狙われてたっぽいね」
「ど、どうするんですか、団長? 影の者ってのがどういう奴らか知らないっすけど、やばいんじゃないですか?」
「……そうだな。とりあえず、売られた喧嘩は買うよ。まあ、まずは刺客から生き延びることを考えないといけないけどね」
なんか面白くなってきたな。
ここ最近はあんまり戦いがないからうっぷんがたまってたんだ。
それが、身近な存在が戦う相手を用意してくれた。
影の者、か。
どんなやつなんだろうか。
俺はアイの報告を聞いて、ちょっとワクワクしてきたのだった。
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