オリエント国議会にて
「これは由々しき事態でござるよ」
「然り。アルフォンス・バルカの行動は目に余る。あまりにも勝手な行動が多すぎるのでござる」
「そのとおりでござるな。あのパージ街への侵攻も大きな問題となっていたのでござる。それを一部の議員がとりなしたことで大目に見たがゆえに、あの者はつけあがったのでござる。自分は何をしてもよいと思っているのでござるよ」
「このまま放っておくことはできないでござる。特に此度の行動は擁護しようもないでござるからな。グルーガリアへと攻め入るなどと何を考えているのでござるか。一度ならず、二度も攻められたグルーガリア国がこちらを放置することはあるまい。報復に出てこられるぞ」
「戦になるでござるな。大きな戦になるでござろう」
「まったく、いらぬことをしてくれたものでござる。しっかりと責任を追及しなければならぬでござるよ」
オリエント国にある建物の一室。
そこは大きな部屋でした。
何人もの人が入ることができる部屋の中には、この都市国家でも名の通った人ばかりが集まっています。
オリエント議会の議員たち。
この部屋で発言している方々は、この街で代々技術と魔力を受け継いでこられた職人でもあり権力者でもあります。
選挙によって議会へと選出されているとはいえ、名門中の名門の家の方々ばかり。
そんな議員たちが議会で議題にあげているのは、アルフォンスくんのことでした。
アルフォンス・バルカ。
まだまだ幼さの抜けない少年でありながら、新バルカ街という街を作ってしまい、そして、バルカ傭兵団という組織を動かす人物。
私をこの議会に送り込んだ張本人で、そして、いきなりグルーガリア国に攻め入った人です。
私も驚きました。
このオリエント国に大きな嵐がやってきて、その嵐によって大きな被害があちこちで出たのです。
それにいち早く対応したのがアルフォンスくんでした。
バルカ教会とその互助会を利用して、都市や村などで救助と援助を行ったのです。
おかげで、オリエント国はほかの地域よりも断然早く各地へと対応できたと思います。
ですが、その救助が終わるか終わらないかという時に、アルフォンスくんから連絡が入ったのです。
いい機会だからグルーガリアの柔魔木をとってくるよ、と。
まるで、そこらの森で薪になる枝を集めに行くとでもいう気楽さのような報告でした。
が、それがただの少年の言葉ではないのが問題です。
その言葉通り、彼は有言実行したのですから。
あっという間に傭兵たちを編成し、グルー川付近の村で船をかき集めて、川を下っていったのです。
そして、そのままグルー川の中州にある材木所を急襲しました。
材木所はバルカ傭兵団がたどり着いたときには嵐の影響で大変な状況だったようです。
そのおかげか、そのままあっさりと勝利して、柔魔木を手に入れたとのことです。
この知らせを事前にアイさんを通して聞いていた私はすぐに動きました。
同じく議会にて議員の仕事をしているバナージ殿に話をしたのです。
バナージ殿はこの議会の中では若手でありながらも、強い影響力を持っています。
そして、バルカ傭兵団やアルフォンスくんとは蜜月の関係です。
きっと助けになってくれるはず。
ですが、今回はそれでもうまくいっていません。
多くの議員がアルフォンスくんの行動について問題視する発言を続けており、それを止められなかったのです。
今はバナージ殿も発言をする機会すら与えられず、議会の成り行きを私とともに見守ることしかできていません。
「罪を問うべきでござろう。これ以上、勝手な行動をされてはかなわん。このままでは、あちこちに勝手に攻め入り、最後にはオリエント国を滅亡の危機に陥れるに違いないでござるよ」
「同意でござる。厳罰に処すべきでござるよ」
「……しかし、大丈夫でござるかな?」
「どういうことでござるか? 咎人を罪に処すのは当然でござろう」
「……それは拙者とて同じ意見でござるよ。ですが、お忘れではござらんか? アルフォンス・バルカのそばにはあのアトモスの戦士がいるのでござるよ」
「確かに。そうでござったな。あの巨人は相当な実力を持つのでござる。罪を問おうとした際に、あの巨人をけしかける可能性があるというわけでござるな。ですが、それなら巨人をこちらで雇うのはどうでござるか? やつらは傭兵でござる。金さえ積めばこちらにつくのではござらんか?」
「いや、そうとは限らないでござるよ。これまで誰もそうしなかったと思うのでござるか? オリエント国だけではないのでござる。あのアトモスの戦士イアンがこの地に現れてから、いくつもの国や組織がイアンを雇おうと動いたのでござる。だが、奴は首を縦には振らなかったのでござる」
「そういえばそうでござったか。えらく義理堅い巨人もいたものでござるな。普通ならばアトモスの戦士は金払いのいいところへ敵味方の区別なく渡り歩くものでござるのに」
「……ということは、真っ向から動くとアトモスの戦士がオリエント国を襲う可能性があるということでござるな? ならば、あれを使うのはどうでござるか?」
「あれ、でござるな。ふむ。致し方なし。かの少年にも功績はあろうが、身から出た錆でござるからな」
「拙者もその意見に賛同するのでござる。アルフォンス・バルカには消えてもらうでござる。残った傭兵団やアトモスの戦士、そしてあの街のことはオリエント国が引き継ぐのがよいでござろう」
「うむ。そうでござるな。では、悪いがそちらのお二方には謹慎していてもらうでござるよ。なに、すぐに終わるのでござる。ゆっくりとお茶でも飲んで待つといいでござるよ」
どういうことでしょうか?
アルフォンスくんのことを罪に問うて裁こうとしたら、アトモスの巨人であるイアンさんと敵対してしまう。
それを危惧して回避した、ということでしょうか。
しかしそうなると、先ほどの「あれ」というのはなんでしょうか。
もしかして、アルフォンスくんの命を狙った刺客?
オリエント国からアルフォンスくんを狙った刺客が放たれる。
それを伝えられないように、私やバナージ殿はしばらく動きを封じるために軟禁でもされるのかもしれません。
隣に顔を向けると、バナージ殿の顔色が非常に悪くなっています。
それほど危険な相手ということに違いありません。
逃げてください、アルフォンスくん。
私はまだ遠くにいるであろうあの子の顔を思い浮かべて、心の中で念じることしかできませんでした。
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