柔魔木の使い道
「やっぱり金目の物ってのはここにはないみたいですね」
「そりゃそうだろう。なんたってここは材木所だからな。伐採した柔魔木を切って置いておくための場所であって、ここに商人が買い付けにきたりはしないだろうし」
グルー川の中州にある材木所。
そこにいたグルーガリアの弓兵たちを倒したバルカ傭兵団は【アトモスの壁】で囲まれた材木所を調べ回った。
以前のパージ街のように、お宝さがしをしていたのだ。
が、今回は金銀財宝が手に入るということはなかった。
まあしょうがないか。
ウォルターにも言ったが、ここはあくまでも柔魔木を置いているだけなのだから。
グルーガリアの国としての機能は別の場所にあるので、ここは本当に材木所として存在している。
といっても、この場所でしか手に入らない貴重な木材にして、グルーガリアにとっては象徴ともなる大切な代物なので、ただの木こりたちによる木の保管場所というわけではなかったが。
ため込んだ財宝とは言わないが、警備兵のために必要なのだろう金貨や銀貨はあったので、それを手に入れることに成功した。
「つっても、これはおまけだな。本当のお目当てのお宝は目の前で地面に転がっているこいつらだ」
そうだ。
ここには別にお金を拾いに来たわけではない。
それよりも、もっといいものを手に入れに来たのだ。
当然、それはこの中州でしか生息していないという柔魔木だ。
木材というには硬く、しかし、魔力を通すと柔軟性が増すというかわった木。
それこそが、この材木所にあるお宝だ。
グルーガリアのように弓にするのもよし。
オリエント国のように魔石と魔法陣を組み合わせて魔弓オリエントという弩を作るもよし。
とにかく、これまで剣が主流だったバルカ傭兵団にも強い遠距離武器を作る材料が手に入ったことになる。
「アルフォンス様、弓兵たちの弓を集め終えました」
「ご苦労様、キク。一応、その弓はここにいる傭兵たちに回しておいて。すぐに使うこともないだろうけど」
「分かりました」
「お願いね。ウォルター分隊のほうは、この材木を運び出すぞ。俺の魔法鞄に入る分以外は紐にくくって川に浮かべろ」
「了解です」
俺やウォルターとは別に、金ではなく弓を集めていたのはキクだ。
しっかりと部下を率いているキク分隊長が生き残ったグルーガリア兵を一か所に集めた後、そいつらが使っていた弓などを回収してきてくれた。
これはありがたい。
柔魔木は変わった特性を持つ素材なので、ちょっと加工には気を遣うのだというのをバナージに聞いたような気がする。
それが実際に戦いで使うために調整された弓ならば使いやすいだろう。
とはいえ、それをすぐに使うのは無理だろうけれど。
普通の弓と違って、弦を引く前に弓に魔力を送りこまないといけないのでちょっと扱い方が違うのだ。
【魔力注入】で弓に魔力を送ることもできるが、自分の魔力操作で自分の筋力にあった量を送れるような練習は必要かもしれない。
「けど、この柔魔木は基本的に弓にするんですよね? あんまり大きすぎる丸太はいらないですか?」
「いや。大きいのもほしい。使い道があるからな」
「わかりました。もう何に使うかは考えてあるって感じなんですね」
「もちろんだろ。そうじゃないとここまで来ないさ」
キクが弓を傭兵たちに配り、俺の隣ではウォルターがほかの傭兵たちに指示を出して材木所の木材を運び出させている。
一通りの指示がいきわたったところで、ウォルターが確認のために聞いてきた。
いくつかの寸法で切り分けて保管してある材木について、長さのある丸太はどうするのかというものだった。
あんまりでかいのは川まで運ぶのだけでも大変だからな。
きっと、必要ないのであれば丸太は放置でもいいんじゃないかと言いたかったのではないだろうか。
だが、そんなもったいないことはしない。
というのも、大きいものももちろん最初から使い道を考えていたからだ。
イアン用だ。
アトモスの戦士であるイアンは高さ五メートルほどの巨人になることができる。
その巨体とみなぎる魔力から振るわれる圧倒的な膂力。
それだけで、戦況を一気に変えることができるほどの強さがある。
そんなイアンは、すでにほかのアトモスの戦士にはない武器を持っていた。
自在剣だ。
これまで、この東方でのアトモスの戦士は基本的には徒手空拳で戦うか、あるいは丸太をぶん回すくらいしか戦法がなかったらしい。
それでも十分強かったが、俺が手に入れた大きさの変わる自在剣を持ったイアンはこれまでのアトモスの戦士たちよりも強い存在だと言えるだろう。
普通の人間だって剣を持つだけでも攻撃力が上がるんだ。
巨人が剣を持ったら、当然、剣を持たない巨人よりもはるかに強くなるのが道理だろう。
が、そこからさらにイアンを強化するための武器を持たそうというのが、この材木所の攻略の目的でもあった。
つまり、大きな柔魔木の丸太から巨人となったイアンが使える大型の弓を作ろうというのが俺の考えだ。
子どもの俺が使える大きさの弓でも強力な一射を放つことができるのだ。
アトモスの戦士の体に合わせた大きさの弓なら、たとえ【流星】が使えなくてもそれと同等か、もしくは上回る攻撃力を持たせられるかもしれない。
まあ、それもこれも、イアンに名付けが行われたからこその発想でもあった。
生まれた時から戦いばかりの生活をしているアトモスの戦士だが、あんまり弓を使うことがなかったらしいからな。
頑張れば大きな弓くらいなら作れそうなものだけど、聞いた話ではアトモスの戦士が生まれ育つアトモスの里は岩山みたいな大渓谷だって話だ。
あんまり木が生えていない環境が原因で、弓を使うようにはならなかったのだろう。
なので、成人して各地で傭兵として活動するようになった巨人たちも、大人になってから弓を使うようにはならなかった。
弓は習熟するのに時間がかかるし、それならば拳で殴ったほうがはやく決着がついたからだと思う。
が、イアンは魔法を使えるようになった。
それはつまり、【見稽古】が使えるということでもある。
これまで徒手空拳ばかりであったイアンも、今は剣を扱えるようになっている。
ということは、【見稽古】さえ使えば弓術も同じくらい上達が早いということを意味しており、それはこの世でもっとも弓の扱いがうまい巨人の誕生が約束されているということでもある。
楽しみだな。
運び出される丸太を見ながら、イアンが弓を射る姿を想像し、それと一緒に戦う自分の姿も頭に思い浮かべて、思わず笑顔を浮かべてしまったのだった。
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