狙い目
「そっちの様子はどうだ、ウォルター?」
「いい感じですよ、アルフォンス団長。庄屋みたいな金を持っていた連中からはにらまれてますけど、いろんなところで感謝されてますよ。なにせ、あの嵐の直後に救援に来た上に、暴騰している米を分けてくれるって言うんですからね。今じゃ、俺らのこの赤い制服を着ているだけで誰でも大人気になれますよ」
「そうか。そりゃよかった。しかし、そういえば、ほかの国はどうなっているんだろうな」
「ええっと、傭兵の知り合いから聞いた感じだとオリエント国以外はかなり大変みたいですね。ここらは嵐が来るかもってことで、稲を早めに刈る奴らもいましたけど、よそはそうじゃないですからね。相当あの大嵐の被害があるようです」
オリエント国内での救助活動とその後の米の回収。
まだまだ回収できていない米はたくさんある。
が、いろんな農民の保証人を引き受けていた庄屋などからはだいたい回収しておいた。
俺のほかにも各村に出向いて回収していたウォルターなどからも報告を受ける。
別行動していたウォルター分隊やほかの分隊もしっかりと米の回収を成功させ、それにより大きな儲けを出していた。
魔道具と交換で購入した米が結果的にはもとの十倍、あるいはもっと高くで回収できたのだから上々だろう。
ちなみにそれができたのは、ウォルターたちにアイを貸し出しているからでもある。
教育を受けたキクならばともかく、人生の経験のほとんどが戦場にあるというウォルターのような傭兵は庄屋などの商売に精通している相手との交渉はあまりうまくはない。
が、そこにアイがついていたことで上手く話がまとまったようだ。
アイを相手に適当なことを言ってのらりくらりと言い逃れをしてけむに巻くことはできないからな。
契約どおり、しっかりと回収しきってくれたようだ。
そして、そんな一仕事を終えたウォルターにオリエント国以外のことについても確認する。
ウォルターが回っていた村々はほかの国と接するような場所にあるところもある。
そこからの情報では、他国は相当被害が大きいらしいということだった。
オリエント国内であればバルカ傭兵団やバルカ教会の影響で、嵐が来るかもしれないと考えた者がそれなりにいた。
が、バルカ教会の影響外の他国ではそうではない。
ほかの国々でも【土壌改良】などで農業効率が上がったはずだが、さすがに米を早く刈り取るというのはそれほど多くなかったようだ。
その結果、他国はしっかりと損害を出していた。
豊作と予想していた収穫量が予想外にガクンと減ったことになる。
「それってつまり、狙い目ってことにならないかな?」
「……同感です、アルフォンス団長。ほかの国はうちみたいに救助隊なんて出してないですしね。被害を受けた街や村の復旧も時間がかかるし、食べ物もない。つまり、戦う余裕はないはずです」
「だな。どっかに攻め込むか?」
「行きましょう。今なら、どこを襲ってもまともに対応できる状況じゃないはずです。稼ぎ時ですよ」
「よし。動かせる傭兵を集めろ。バルカ傭兵団、出るぞ」
大嵐による田んぼや畑の被害。
そして、川の氾濫。
それらが大規模に、広範囲に小国家群を襲ったことで、いろんな国が大変な状況にある。
それはすなわち、動けない国が多いということだ。
動くことはできない、ということは襲いたい放題だということでもある。
というわけで、ウォルターと俺の意見は一致した。
幸い、米ならあるからな。
今なら、どこか適当な国を襲っても傭兵団が食料で困ることはないはずだ。
「でも、どこに行きますか? さすがにあんまり遠いところは無理ですよ?」
「うーん、そうだなあ。なんだかんだで、もう秋だしな。さくっと行って戦えるところのほうがいいだろうし、近場でなんかいい感じのところがあればいいんだけど」
「近くでいいところですか。っていっても、そのへんの村なんて襲ってもしかたがないってのもありますね。なんたって、今はどこもまともな食べ物すらないでしょうし。そうなると、どこか金目の物が手にはいるところがいいと思います」
「金目の物、か。そうだな……。いや、ちょっと発想を変えるか。金よりも今後も使えるものを取りに行こう」
「使えるものですか? なんですか、それは?」
「武器だよ、ウォルター。あんまり金にはならないかもしれないけど、武器の材料を手に入れよう。今後も俺たちバルカ傭兵団が戦い続けられるようにな」
「武器? どっかの街の武器屋でも攻撃するんですか?」
「違う違う。そうじゃなくて武器の材料だよ。グルーガリアに行こう。あそこの材木所は川の中州にあったはずだ。今回の大嵐で多分大混乱になっているだろう。そこを襲って、柔魔木の材木を奪ってこよう。そうすれば、傭兵たち用の弓が作れるようになる」
「弓ですか。いいかもしれませんね。アルフォンス団長が流星の動きを覚えて俺らに弓の扱いについて教えてくれましたけど、団長以外の傭兵は柔魔木の弓を持ってないですからね。普通の弓だと威力もそれなりですし、柔魔木で作った弓を手に入れられれば戦力増強になるってことですね」
「そういうこと。前にグルーガリアで手に入れた柔魔木はオリエント国のものになっちゃったからね。俺たちが自分の分を手に入れるいい機会だ」
川が氾濫しているからあの材木所は大変な状況になっていると思う。
けど、稲と違って柔魔木は確か水の中に根を張っていた。
今までもグルー川が荒れたことがあったはずだが、それでも昔からあそこで材木所として存在しているということは、水にはそれなりに強いということだと思う。
ということは、嵐の後でも柔魔木自体は手に入れられるのではないだろうか。
ほしい。
あれがあれば、傭兵たちが強弓を手に入れられる。
善は急げだ。
ウォルターとの話し合いの結果、バルカ傭兵団はすぐに傭兵を二百ほど集めて、まだ荒れたグルー川を下って材木所を目指すことにしたのだった。
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