保証人
「先物取引はすでに完了しています。契約は確実に履行されるべきかと考えます」
俺の心配を聞いて、アイが答える。
うん、まあアイならこう答えるか。
約束事は守る。
アイにとっては当たり前のことだしな。
ただ、それをほかの人がどう思うかは微妙だ。
自分が苦しいときにさらに追い打ちをかけるようなことをされたら、それがいくら事前に納得して執り行った約束であっても嫌な気持ちになるだろう。
逆恨みされたりしそうな気がする。
「それについても問題ありません。取引時には支払い不履行の際の取り決めを行っているとクリスティナ様からの報告がありました」
「あ、そうなの? ってか、そりゃそうか。生粋の商人であるクリスティナがただの口約束で取引をすますことはないよね」
事前に米を購入する、という取引の危険性。
それが本当にきちんと実現するのかという問題に対して、クリスティナは商人としてきちんと対応していたみたいだ。
すでに米の購入についてのやり取りを済ませた相手は魔道具などを購入している。
そんな相手がいざ米の収穫時期に入って、米を渡せませんとなったら大問題になるので、そのときの対応についても決まっていたようだ。
クリスティナが行った契約について、改めて確認する。
先物取引した相手と交わした証文をアイに持ってきてもらい目を通す。
どうもその相手と個別に交渉しているからか、人によって条件が違ったりもしている。
証文ごとに記載されている文章が違うので、全部に目を通すのはちょっと時間がかかりそうだ。
「米を渡せない時の条件……。いろいろあるんだな。けど、その中で一番多いのは保証人をつけること、か」
「そのようですね。支払いが滞った際に代わりに取り立てることになる保証人は、比較的財産が多い者を指定するようにしていたようです。取り立てるのはそちらからになるかもしれません」
クリスティナが取り決めた取引内容についてみていると、いろんな項目があった。
支払えなかったら財産没収。
家財や土地などもそれに含まれているものもある。
が、それを回避したければ支払いできない場合に代わりに保証してくれる相手を用意すれば、そちらに請求を回すことができるともあった。
それが保証人だ。
当然のことながら、その保証人はある程度お金を持っていなければならない。
そんな相手がいるのだろうか。
そう思ったが、どうやらいたようだ。
それは村の中でも特別な存在だ。
オリエント国ではその支配領域にある村から税として米を取り立てている。
土地の広さなどから事前に決まった量の米を納めさせているのだが、そのときに村と国をつなぐ相手がいた。
それはその村をまとめる役目を担う者。
庄屋と呼ばれる連中だ。
村でできた米は農民が一人ひとり国に納めるのではなく、一度庄屋が回収し、そこから国へと渡していたのだ。
当然のことながら、その時に庄屋はあの手この手で自分の財産を増やそうとするらしい。
村人から納められた米の一部を隠して、今年は不作だったからこれ以上は出せない、減税してくれ、などと国と交渉する。
少しでもそれがうまくいけば、自分で米を作るよりもはるかに身銭を増やせるというわけだ。
そんなことがどの村でも行われているので、当然のことながら庄屋はどの村人よりも金を持っていた。
そんな庄屋にいざというときの保証人になってもらった人が多かったようだ。
庄屋もただではそんな保証人にはなれない。
なので、この取引の際には農民にいくつかの魔道具を購入させ、そのうちの一つを自分たちに渡すようにさせたりもしていたらしい。
これは、米が豊作のままならば問題なかっただろう。
もし、なにもなく米が収穫できていれば保証人となるだけで高級品である魔道具が手元に転がり込んでくるからだ。
村の中では富裕層である庄屋でも、魔道具は魅力的な品に見えていたらしく、危険性のある保証人になっていたのだそうだ。
だが、それは今年の場合はどうだったのだろうか。
何事にも危険はある。
豊作ならばタダで魔道具が手に入る代わりに、不作ならば自分が代わりに支払いを担当しなければならないことをどこまで真剣に考えていたのだろうか。
とはいえ、農民よりもそれらのことには敏感だっただろうとは思う。
にもかかわらず、いろんな村で各村の庄屋が保証人になっているところをみると、今年の豊作予想によほど自信があったのだろう。
「なるほど。つまり、俺たちはこの庄屋から取り立てればいいってことか。で、だいたいの庄屋ってのは強欲に金をため込んでいる。そこから厳しく取り立てても、村人からするといい気味だって感じに映るのか」
取引通りの請求額を農民から強引に取り立てると恨まれるかもしれない。
が、庄屋はどちらかというと嫌われている者が多かったようだ。
国に対して収穫量をごまかして私腹を肥やすくらいだ。
それを村人に還元するのではなく、むしろ逆に村人からはしっかりと米を取り立てていたようで、もともと印象が良くない者が多い傾向にあるらしい。
そんな庄屋ならば取り立てても村人からのバルカ傭兵団の印象が悪くなることはないだろう。
ならば、しっかりと代金を回収しにいくことにしよう。
災害に見舞われた村のことを思いつつも、アイの言うとおり契約通りの金額をしっかり手に入れるべく行動することに決めたのだった。
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