救助活動
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
オリエント国の各村を回っていく。
そして、それぞれの村で救助作業を行った。
今も何人かを保護したところだ。
どうやら、この村のいくつかの家は近くの川の水が氾濫したことで、屋根まで浸水したようだ。
水はかなり引いてきたが場所によっては今も水位が高くなっていて、地面に濁流が流れている。
そんな中での救助作業だった。
だが、この人らはかなり機転が利いたらしい。
急激な水位の上昇に気が付き、これはまずいと考えた。
そして、即座に取った方法でなんとか一命をとりとめたのだ。
それは、【壁建築】を利用したものだった。
このあたりの家は基本的には木でできている。
嵐の後に残されたいくつもの家を確認すると、柱となっている大黒柱が折れたりして、家が傾いているものなども散見した。
だが、その中に大きく分厚い物が建っていた。
それは【壁建築】で建てた壁だ。
この壁はアルス兄さんが作った魔法で、呪文を唱えれば丈夫な壁が出来上がる。
高さは十メートルと高く、そこらの家の壁をはるかに超える高さだ。
そして、その壁の厚みは五メートルもある。
家が浸水して命の危険を感じた者が、とっさにこの魔法を使った。
最初は水から家を守るためのものだったのかもしれない。
が、いくらこの壁が丈夫であっても幅が五メートルしかないので、浸水を防ぐことはできなかった。
その時ばかりは、もうどうしようもないと諦めたりもしたようだ。
だが、さらにどんどんと増していく水位が別の発想をもたらしたらしい。
それは、出現した壁の上に避難する、という奇想天外な方法だった。
この呪文は地面に手をついて唱えると発動するが、そのときに魔法の使用者の前方に壁が出来上がる。
それを利用して、出来上がる壁の上に乗ったのだそうだ。
おかげで、高まる水位からは逃げることができた。
が、もちろんのことながら、この日は風がすごかった。
強風、あるいは暴風とでも表現したらいいのだろうか。
当たり前だが、壁の上には雨や風を遮るものなどない。
壁の上の避難民たちは、ただひたすらに身を寄せ合い、風に飛ばされないようにうつぶせて、耐えていたのだそうだ。
よくもまあ、無事だったと思う。
普通に考えるとそんな方法では確実に死んでいると思うのだが、なんとそいつらは奇跡的に生き延びた。
とはいえ、きっと助けが来なければ死んでいただろう。
高さ十メートルの壁の上は降りることも難しいからな。
ここに、巨人になれるイアンが現れなければ助かることはなかっただろうと思う。
絶望的な状況で、雨と風で体力と体温を奪われ、意識もうろうとしていたところを救助されてからは、ひたすら感謝を述べ続けるようになってしまった。
そいつらをこの村にある教会に押し込み、おかゆを食べさせた。
「ひとまず、この村での救助はこれくらいかな?」
「そうですね。けれど、全員見つかっているわけではないですが」
「それは仕方がないさ。村人全員がバルカ教会の信者だったわけじゃないからな。腕輪がなければ居場所を探しようもないし。それに、ほかの村ではまだ助けを待っている人もいるだろう。そっちを回って、一通り助けたらまた戻ってくるかもしれない」
「わかりました。もしなにかあればアイ先生に連絡します」
「おう、頼んだ」
この村にある教会は被害らしい被害というのはなかったようだ。
きちんと、場所を考えてから作ったし、教会の周りを【壁建築】の壁で囲っていたからな。
というか、建物そのものが高い壁になっている。
そんな堅牢すぎる教会で、この教会の管理を任せている元孤児の一人と言葉を交わす。
もともとはオリエント国の貧民街で食うものもなく生活していた孤児たちだが、きっちりと勉強したおかげか教会でしっかりと働けているようだった。
てきぱきと救助者たちに対応してくれている。
そんな元孤児たちだが、こいつらの存在は非常に助かっている。
それは、ほかの傭兵たちと違ってある程度の魔力の操作ができたからだ。
傭兵として雇っている連中は基本的には戦うことが主な仕事だ。
あるいは、バリアントから連れてきた連中は魔道具作りなどもさせていた。
だが、それらとは違って更なる教育を施したこの元孤児たちは、ほかの連中とは違って連絡手段を得ていたのだ。
救助者の位置を特定した魔法陣が描かれた腕輪。
これは着用者の魔力を感知しているのだが、その魔力をうまく使ってやるとアイに自分の意志を伝えることができる。
俺やミーティアほどではないが、あれから元孤児たちには腕輪の暗号通信を学ばせておいたおかげで簡単な連絡ならば取れるようになっていた。
ほかの傭兵たちだと、【敵発見】などの決まった意味の魔石に魔力を通すことでしか連絡を取れないが、それだとこういう非常事態には対応しづらいからな。
こいつらがここにいるおかげで定型文以外のやり取りも可能となり、そこそこ効率的に救助が行えている。
もしなにかあれば、いつでもアイに連絡を入れろと言って、次の村へと向かうことにした。
アイが言うには、そちらの村は倒木の被害が大きいようだ。
またイアンの力を借りることになるかもしれない。
こうして、それから何日も俺たちバルカ傭兵団は村々を走り回って、生き残った者たちを保護していったのだった。
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