救助隊
「よ、無事だったか、クリスティナ?」
「ええ。それにしても本当にすごかったわね。大嵐が来るとは聞いていたけど、あんなにすごいのだとはね。外の音が怖くて全然眠れなかったわ」
「俺もだよ」
嵐が去った。
すでに一晩が経過して、翌日の昼になっている。
今は雨が降ってはいるがだいぶ小降りになってきていて、強風も落ち着いてきていた。
そんな中、俺の家にクリスティナもやってきた。
どうやらどこも怪我をしたりはしていないみたいだ。
ただ、何度も怖かったと言っていた。
そんなクリスティナを迎え入れて、ちょうど用意ができたみたいなので一緒に昼食を食べる。
俺の家に泊まっていったガリウスなどとともに温かい食事を口にしたことで、ほっと一息つけたようだ。
「今日はまだこの家を一歩も出ていないんだけど、街の中の様子ってどうだった?」
「すごかったわよ。あちこちに、どこから飛んできたのか分からないものが落ちていたり、ガラスの破片や折れた木が倒れていたりしているのを見たわ。しばらくは復旧作業をしないといけないんじゃないかしら」
「ああ、それなら拙者も見たでござるよ。昨日、この家まで来る途中でも強風で木がへし折れていたでござる。木があのように折れるものなのかと驚いたのでござるよ」
「ガリウスさんって昨日のあの大嵐の中をここまで来たんですか? 危ないことしますね」
「マーロンがここにいたでござるからな。それに、来てしまえばここにいるほうが自分の家にいるよりも安全でござったしな」
「それもそうですね。ただ、一度家に帰ったほうがいいかもしれませんよ。窓とかは割れているでしょうし、確認しておくことをお勧めします」
「む、確かにそうかもしれないでござるな。分かったでござる。様子を見に戻ってみることにするでござるよ」
どうやら、外はなかなか大変な状況になっているようだ。
というか、ここも窓ガラスなんかは割れているしな。
しばらくは片付けなんかをしないといけないかもしれない。
「でも、これからは大変になるわよ、アルフォンス君」
「ん? なにが?」
「なにがって、互助会よ。ほら、あれって信者同士で助け合うっていうものでしょう? きっとあそこにはいろんな人から今回の大嵐のことで依頼が舞い込んでくるはずよ」
「そういえばそうだね。今回のはみんなが被害にあっているからな。依頼の仕事を引き受ける人よりも、依頼を出す人のほうが増えるかもしれないな。傭兵を効率的に派遣できるようにしておいたほうがいいかも」
「そうしたほうがいいと思うわ。あと、なるべく早く村のほうに人をやったほうがいいと思うの」
「村に? 依頼の数は人の多い街のほうからが多くなりそうだけど?」
「もちろん、数を比べれば新バルカ街やオリエント国といった街からのほうが助けを求める依頼は増えると思うわ。けど、今回はちょっと話が別でしょう。村の人たちとはお米の先物取引をしているのだから」
「米の状況を確認する必要があるってことかな?」
「それよりも、農民の安否確認が先じゃないかしら? 取引した相手が生きているかどうかを確認しておかないといけないと思うの」
なるほど。
クリスティナからは商人らしい意見が出てきた。
こんな緊急事態であっても、頭の片隅には常に商売のことがあるようだ。
今回の大嵐で米が不作になることを見越して米の先物取引を各村で行っていた。
だが、その取引相手が無事なのかどうかを考えていなかった。
昨日は雨風の音だけでもすごかったのだ。
もしかしたら、この街から離れた村などでは川の氾濫などでもっと被害が出ているかもしれない。
だったら、街中での助け合いはそこにいる信者同士でなるべく行ってもらって、村へは傭兵を派遣したほうがいいかもしれない。
どう考えても住人数の違う街と村では助け合いできる範囲が変わってくるからだ。
そうと決まれば、なるべくはやく動いたほうがいいか。
新バルカ街から動けそうな者を集めて、俺は村の様子を見に行くことにした。
「いいか、二人とも。お前たちの分隊にはそれぞれアイをつける。現地ではアイの指示に従ってくれ」
「了解です、アルフォンス団長。アイさんは遭難した人を見つけられるんでしたよね?」
「そうだ、ゼン。つっても、アイがわかるのはこの魔道具の腕輪をしている人だけだけどな。これから回る村にはバルカ教会の信者がいるから、そいつらが腕輪をつけてくれてさえいれば、水に流されたとしても見つけられるはずだ」
「でも、見つけた場合、どうするんですか、団長? 村がどんな様子かわかりませんけど、家も被害にあってそうですけど」
「とりあえずはなるべく命を助けてやってくれ、ウォルター。ひとまず雨風を凌げるだけでもいい。最悪は、村にある要塞みたいな教会に保護するだけでもいいよ。で、後でちょっとだけど米を支給してもいいと思っている」
「炊き出しですか。それはいいですね。嵐の被害にあった連中も喜ぶと思いますよ。わかりました。それじゃ、さっそくウォルター分隊、出ます」
「俺も行ってきます、アルフォンス団長。行くぞ、ゼン分隊」
「頼んだ。けど、気を付けてくれよ。助けに行った傭兵が被害にあうのだけは避けるようにな」
そして、こういうときにはやっぱり組織の力が必要だろう。
俺はバルカ傭兵団からいくつかの分隊を村の救助に出すことにした。
そのなかにはアイの姿もある。
いつもは俺の家での活動が主なアイだが、この時ばかりは人を探すのに必要だろうということで貸し出したのだ。
こうして、オリエント国を襲った大嵐の翌日にはバルカ傭兵団は救助隊を派遣することとなったのだった。
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