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パージ街その後

「それで、結局、何か用事でもあるんですか?」


 ローラの拠点で各所への手続きなどをしつつ互助会のために働く俺を見ているバナージへと訊ねる。

 今の俺もたいがい忙しいが、バナージだって暇ではないだろう。

 この街の議員としていつも仕事をしているはずだしな。

 それなのにここに顔を出したということは、なんらかの用事があるはずだと思って確認する。


「ああ、そうでござったな。まあ、ここに来た一番の目的はアルフォンス殿の顔を見るためでござるよ。忙しそうにしているのを見ただけで充分でござる」


「どういうこと?」


「ふむ。議員の中には心配している者もいるのでござるよ。アルフォンス殿がまた急にどこかの街と戦ったりしないか、と。パージ街のその後の顛末を知っているでござろう?」


「パージ街ですか。あそこは結局オリエント国の準支配領域みたいになったんですよね?」


「そうでござる。一応、対外的にはオリエント国には属していないことになっているでござるが、もともとのぺリア国の支配を脱してこちらについたことになるでござるな」


 バナージと向き合って話し合う。

 その話の中でパージ街のことが出てきた。

 オリエント国の北東にあるぺリア国。

 そのぺリア国に属していたパージ街は、バルカ傭兵団の攻撃を受けてパージ家が壊滅し、そして傀儡組織が残された。

 だが、一応、その時点ではまだ傀儡組織はぺリア国から独立などはしていなかった。


 なのに、今は独立した、といいながらもオリエント国とつながるようになっているらしい。

 というのも、ぺリア国がその後さらに別の国から攻撃を受けたからだ。

 どうも、パージ街が敗北して、そこにいた千人規模の軍が戦力を失ったことを察知した別の小国が即座に動いてぺリア国を攻撃し、そして勝った。

 一応、負けたとはいえぺリア国が消滅したわけではない。

 が、多くの村などを奪われ、かなりの消耗をしてしまったのだという。

 そのため、傀儡組織が作られたパージ街に手を回す余裕がなくなったのだそうだ。


 そして、そのことをすぐに組織の連中がバルカ傭兵団へと伝えてきた。

 後ろ盾が欲しかったのだろう。

 ぺリア国がパージ街に手出ししてくる余裕がなくなったとはいえ、ならば代わりの別の国が襲ってくるとも限らない。

 そして、もしそんなことがあればまともに対応できる戦力はパージ街にはない。

 自分たちの身を守るためにも、助けてくれる存在が喉から手が出る程ほしかったようだ。


 だが、バルカ傭兵団も動く余裕がなかった。

 俺が教会の教えを広げようなどと考えてしまったからだ。

 もしも、ここまで早い動きが待っていると分かっていれば、傭兵団をいつでも動かせるように待機しておいたのにと思わなくもない。

 が、そうは思ってもその時には残念ながらパージ街にまで手が回らなかった。

 しかし、だからといって完全に無視するわけにもいかないということで、その話をそっくりそのままオリエント国の議会に手渡したのだ。


 結果的に、それはうまくいったみたいだ。

 オリエント国は助けを求めるパージ街に手を差し伸べるだけでよかった。

 それだけで、街一つが手に入ったことになる。

 ただ、今まであまり領地を広げることなく外交で周囲の国と渡り合ってきたオリエント国はここでも慎重だったらしい。

 あくまでも独立したいというパージ街の意志を組んで手を差し伸べたのだ、という話を作り上げ、援助を申し出ることにしたのだ。

 実質的にはすでにパージ街はオリエント国に属しているようなものだけれど、外交上ではそうではないのだということになっているらしい。


 はたしてそれになんの意味があるのかは俺にはよくわからなかった。

 が、とにかくオリエント国の議会はそういうふうに対処したらしい。

 そして、それは議員たちにとっても納得のいく結果だったようだ。

 多分、議員たちの懐も何らかの形で潤ったんじゃないだろうか。

 おかげで、それ以降は俺が勝手にパージ街と戦ったことに対してはおとがめなしになっている。


「まあ結局はお金が重要ってことですか。バルカ傭兵団がどこかと戦っても、議員が儲かれば多少は許してくれる、と」


「そんなことはないでござるよ、アルフォンス殿。本当にこの国のことを思う議員であれば、議会を無視して他国と戦うような行為は許さないでござる。……まあ、なかにはそうではない議員もいる、ということでござるが、ゆめゆめそのことは忘れないでほしいのでござるよ」


「やだなあ、バナージ殿。あれは正当防衛ですよ。バルカ傭兵団から派遣した傭兵たちから敵発見の報告を聞いて向かった先で戦闘になっただけですって。議会のことは無視していませんよ。何度もそう説明したじゃないですか」


「……その言葉、嘘ではござらんな、アルフォンス殿?」


「もちろん。そんなに心配なら、バルカで行われる裁判で証言でもしましょうか? あの裁判は嘘をつくと痛みを感じるので、俺が真実を言っているのが分かってもらえると思いますけど」


「いや、いいでござる。アルフォンス殿を信用するでござる。だが、万が一ということもあるでござるからな。拙者もアルフォンス殿がむやみに戦いに向かったりできないように一計を案じてきたのでござるよ」


「……なんですか、これ?」


「互助会に対しての依頼でござる。どうやらアルフォンス殿は教会の互助会で手がいっぱいなようでござるからな。そちらが忙しい間は戦場にでることもできないでござろう。そう思って追加の仕事を用意してきたのでござるよ」


 そう言ってバナージが渡してきたのはものすごい数の紙束だった。

 ぱらぱらとその紙を見ると、互助会に対しての依頼が書き連ねてある。

 どうやら、議会から互助会に対してということらしい。


 やられた。

 俺が勝手に戦わないようにということで、バルカ傭兵団に対して各村の警備を依頼したら戦闘を始めたことを警戒したのかもしれない。

 ならば、バルカ傭兵団への仕事ではなく、互助会のほうへと仕事を回してやろうということのようだ。

 結構な勢いで信者数なども増えてはいるが、互助会での依頼処理は今もまだ傭兵たちが請け負っている部分が多い。

 現状では互助会に入っても仕事を引き受ける人数はそれほど多くなかったからだ。

 そこに、オリエント国の議会からといって大量の依頼が舞い込んできたらどうなるだろうか。

 まだまだ仕事を引き受けようという一般信者が依頼をこなす速度は遅いので、傭兵たちがそれらを処理していく必要がある。

 ということは、バルカ傭兵団は戦場に出る余裕がさらになくなるということだ。


 この分じゃ、俺が戦いに出られる日はもっと遠くなってしまいそうだ。

 恨めし気にバナージのほうへと目を向けると、してやったりという顔を見せつけられたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あきらかに戦闘狂なボスが率いる集団に首輪つけないわけにいかないですもんね…檻に入れたら大暴れで破壊されそうだし、できるだけ長いリードに繋げとかないとな…いつか自力で引き千切られる日まで。
[一言] 時は戦国・・・! まぁあっちもこっちも強かですこと。
[一言] 首輪を付けたって事で 次は、鈴も付けるか?
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