グランの提案
「アルス殿、ここに城は造らないのでござるか?」
「城を? ここに?」
「そうでござる。せっかく南の川のそばに城を建てたというのに、今はほとんどここバルカにいるではござらんか。であれば、ここにも城を建てたらいいではござらんか」
俺が冷蔵倉庫を建てたのを見て、建築欲が出てきたのかグランがそんなことを言ってきた。
確かに川北の城はフォンターナの街との境に建てたものの、カルロスとの停戦合意によってその存在意義が薄れてしまった。
というのも、もともとカルロス側としてはあの城を俺に持たせたくなかったからだ。
だが、せっかく造った城をすぐに奪われてしまうというのも嫌で俺も素直に渡したりはしたくなかった。
そこで、交渉の結果、俺が城を所有することを認める代わりに、兵員を常駐させるのは必要最低限に抑えるようにと制限をつけられたのだ。
その結果、今ではほとんど街とバルカ村との関所兼宿場町のようになってしまっていた。
「でも、そんなこと言って結局はグランが城造りをしたいだけなんじゃないのか?」
「それは違うのでござるよ。城を造るというのにはいろいろな意味があるのでござる。その一つが権力を示すということにもあるのでござるよ」
「権力? わざわざ俺がそんなもんを示しても調子に乗ってるとか思われないか?」
「そんなことはないでござる。むしろ絶対に必要でござるよ。アルス殿の強さはあの戦場にいたものならみんな知っているでござる。しかし、逆に言えばそれ以外のものは知らないということになるのでござる。なかにはまだ子供であるアルス殿に税を払うのを嫌がるものも出てくるはず」
「……なるほど。つまり、税の取り立てを滞りなく行うためにも、見た目でわかる権力の象徴をつくろうってことか」
「そういうことでござるな。なので、ここバルカは川北の城のように防御力だけを考えず、装飾にも気を使ったほうがよいでござろう」
ふむ。
一理あるかな。
ただ、やはりグランが城造りをしたいという気持ちが大きいのではないかとも思ってしまう。
4kmも壁で囲った土地を持ち、フォンターナ軍と直接戦って勝った俺に今更税を払いたくないとかいうやつもそうはいないだろう。
城造りが急務だというわけではないはずだ。
だが、このままでいいというわけでもない。
他の作業が一段落ついたこともあるし、ここらでひとつ、この地に手を入れておこうかと考え始めたのだった。
※ ※ ※
まずは、現状を確認しよう。
もともと俺が生まれた村であるバルカ村。
このバルカ村の北には広大な森が広がっていた。
その森を俺がガンガン開拓し、その土地を壁で囲ってしまった。
その面積は一辺4km四方もある広さだ。
だが、開拓地だけではなく、開拓地から北東方面は木こりたちのための林業区として森林の管理地区として設定している。
まあ、端的に言ってしまうと村から北側はバルカ騎士領となる前からほとんど俺の管理下にあったといってもいい。
バルカ村からまっすぐに南に進むとフォンターナの街があるが、その中間地点に川があり、その川北に城を建てた。
そして、バルカ村から南西へと進んだところにバルガスたちのいた隣村が存在する。
この3つをつなぐように敷設した道路を上空から見ると、二等辺三角形みたいにみえるのではないだろうか。
ここがバルカ騎士領として今、俺が治めている土地だ。
だが、考えてみればバルカ騎士領で一番の建物はなにかといえば川北の城になるだろう。
俺の土地に長い城壁があるとはいえ、完成された城のほうがインパクトがあると思われてもおかしくない。
もしかしたら、よそから来た商人なども城の方に土地を治める主がいると考えるのではないだろうか。
そう考えると、バルカ騎士領のトップがここにいると示す場所をつくるという意味でも新たに城を建てるのはありかもしれない。
しかし、それならばもう一歩踏み込んでいってもいいのではないだろうか。
バルカ騎士領の中心地をつくろう。
現状ではバルカ騎士領の中核となる場所が存在しないことが気になる。
せっかく自由市を開いているのに、まだそこまで商人が集まってきていないというのもそこらへんが関係しているかもしれない。
そうだ。
いつフォンターナ家に呼び出されて使い潰されるように戦場へと送り込まれる可能性がある俺にとって、真面目に土地を治めているだけでは刻一刻と死の確率が増えるだけだ。
戦力を増やすためには、よそからも人を集めて定住させるほうがいいだろう。
ならば、人が自分からやって来たくなる街をつくろう。
こうして、俺は新たに土地の再開発を行うことに決めたのだった。
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