互助会
「順番にこちらに並んでください。困りごとを解決してほしい方はこちらの列に。仕事を探している方はまず向こうの机で所定の書類に必要事項を書き込んでくださいねー。文字が書けなければ代筆します」
新バルカ街に新しい建物を建てた。
最初はバルカ教会に人が次々と集まってきていたのだが、あまりに人が来るためにいっぱいになってしまったからだ。
そこで、街の中の一角に新しく専用の建物を用意し、人を受け入れるように変えた。
バルカ教会ではなにか困ったことがあれば助ける。
ただし、お金を取るが。
そんな風に後だしで条件を変えたのだが、それを知らずにこの街までやってきた人もいる。
案内された建物に入ってからそのことに気が付いて、愕然としている者もいた。
だが、反対に仕事がなくて困っている、みたいな内容でここまで来た連中は仕事にありつけるかもと喜んでいるようだ。
当初の予定とはだいぶ変わってきているように思うが、なんとか少しずつ軌道修正できつつあるのではないだろうか。
新バルカ街にあるバルカ教会に助けを求める者は、バルカ教会傘下にある互助会に入ることになる。
そして、互助会ではなにか困ったことがあれば、信者同士で助け合いをすることとした。
なにか依頼があるならば、お金を出して頼むのも自由で、その依頼をほかの信者が引き受けて解決し報酬を得ることもできるという仕組みが基本となる。
ただし、最初は特例を設けることにした。
いきなり、依頼解決にお金を要求するのもいいが、今のところ一つも実績がないのだ。
そんな互助会で誰が依頼を出すだろうか。
というわけで、互助会発足に際して、俺がパージ街から手に入れた金塊、銀塊を組合費として提供したのだ。
このお金を使って当面は補助を出す、ということにして依頼料を割安に設定した。
もちろん、無料にはしない。
なんせ、お金を取るというのは依頼数の激増を抑えるための策なのだから当然だろう。
少しでもお金がかかると分かれば、割安になる補助があるといっても依頼を躊躇する者もいるだろう。
しかし、それでもなおお金を出してまで助けを求める者に対してはしっかりと対応することにした。
こうして、互助会に持ち込まれた依頼は同じ互助会所属の信者たちが引き受ける。
が、もちろん、これも最初はこっちがいろいろすることになるだろう。
仕事を求めてここに来た連中にも互助会に入らせて、そこから依頼を受けさせようとは考えているが、それがそいつらの依頼をきっちり完遂できるのかどうか俺たちにもわからないからだ。
なので、最初のうちはバルカ傭兵団の面々を派遣して依頼をこなし、互助会としての実績を作ることにした。
いずれは傭兵とは別に持ち込まれた依頼をこなす人を増やしていきたい。
そのために、この互助会でも血の楔を使う。
血の楔とは、対象の体に俺の血を送り込むことで、その血に含まれるノルンが相手に誓約を守らせるものだ。
これは教会にある魔導迷宮で取れた魔石を利用して、儀式として行えるようにしてあるが、それをこの互助会入会者にもやらせることに決めた。
この街での魔法のみだりな使用を禁じたりなどの取り決められた条件を破ると、死ぬほど痛い思いをすることになる。
それらの条件に加えて、他にも互助会を円滑に回すための細々とした決まりを提示する。
こうして、互助会に入った者全員に強制的にバルカ教会の規則を守らせることにしたのだ。
そして、入会者には魔法陣が刻まれた腕輪も持たせている。
これはアイの魔法陣が刻まれているもので、所有者の場所などがアイには一瞬でわかる。
もしも、依頼の仕事を受けた後にその仕事をせずに放置したり、どこか別の場所に行っていればすぐにわかることだろう。
それと同時に、遠いジャングルの地にある冒険者組合の仕組みも使うことにした。
それは、依頼をこなすほど評価が高まるというものだ。
ジャングルでは俺たちは見たこともない魔物なども多数いるらしい。
そんな危険な土地で効率的に仕事を振り分けるために、依頼をこなした回数や、依頼の難易度にあわせて、その人の評価付けを行うようになっているのだという。
これはアルス兄さんの発案で、S〜Fまでといった謎の記号を使うらしい。
直感的にわかりにくい記号分けに思えるが、なにか理由でもあるのかもしれないので、これはそのまま使うことにしてみた。
あんまり分かりにくいと言われたら変えることもあるかもしれない。
そんなこんなで、仕事を求めて互助会に入った者はF級として簡単な仕事から始めてもらう。
基本的には、F級の依頼はなんでこれを金を払ってまで頼んできたんだと思えるような雑用ばかりだ。
そして、それ以降のだんだんと難しくなる依頼内容はバルカ傭兵団が人を出して対処する。
とりあえずはキクやウォルター、ゼンといった分隊長に仕事の割り振りを任せてみよう。
キクはこの街に、ゼンはオリエント国に、ウォルターはほかの村々に詳しいので、持ち込まれた依頼者の場所によってやりやすいことをしてもらおうかな。
「でも、こうなるとますます傭兵団が動けなくなったな」
この互助会という仕組みを整備していくことで、ひとまずはなんとかなりそうな雰囲気を感じる。
だが、こうなると当分の間は傭兵団も動けそうになくなってしまった。
もともと、オリエント国からの仕事である各村の警備などもあるのだ。
そこに加えての互助会の仕事で傭兵たちが忙殺されてしまったことで、俺が戦場に出られる日は遠のくこととなってしまったのだった。
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