涙目のクリスティナ
「……なんかものすごいことをしているわね、アルフォンス君。本当に大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。オリエント国に説明する言い訳はいろいろ考えてあるから問題ないよ、クリスティナ」
「……言い訳って言っている時点で問題を起こしている自覚があるってことじゃない。はぁ、アルフォンス君ってもっと慎重な性格をしているのかと思っていたけど、こんな大胆なことをする子だったのね。ちょっと考え直したほうがいいのかも」
「そう? なら認識を改めたほうがいいかもね。むしろ、今まで地味なことばかりを頑張ってきたって、自分でも思うし」
俺たちはパージ街から新バルカ街へと帰ってきた。
一応、パージ街になんらかの動きがあっても困るので、最初に敵を発見した村に少し多めに傭兵を配置しておく。
そして、残った面々はお宝などを車で曳いて持って帰ってきたというわけだ。
そのお宝の鑑定などを商品に詳しいクリスティナに確認したところで、そんな風に言われてしまった。
どうやら、クリスティナの中では俺は慎重な性格をしているらしかった。
どうなんだろうか。
自分では自分の性格ってよくわからないように思う。
ただ、確かに最近はずっと慎重に行動してきていたように思う。
オリエント国にやってきてからは基本的にこの新バルカ街という拠点を作るために行動していたからだ。
傭兵団の人数が少ないこともあり、あんまり無茶はできなかった。
だから、孤児を集めて教育したり、傭兵を募集したり、街を作ったり、議員を輩出したりといった、戦う以外のことばかりしてきたように思う。
だけど、それは別に俺のやりたいことではなかった。
全部、俺が戦場で戦うために必要な準備だからやっていたにすぎない。
そして、その準備はある程度できてきたと思う。
だったら、もう行動に移すだけだろう。
戦いが俺を待っている。
「そんな過激なことしなくてもいいんじゃない? もうアルフォンス君は強いんだし、あとはこの街でいろんなものを作って売り出しているだけでお金持ちにもなれると思うわよ?」
「それじゃダメだよ。そんなんじゃ、俺は兄さんたちに絶対に勝てない。兄さんたちに勝つにはもっと強く、大きく成長しないといけないんだ」
「ううん。会ったことがないけど、アルフォンス君にとってほんとうにお兄さんたちの影響って大きいのね。でも、そうか。相手は王様なのよね。うむむ」
俺の言ったことを聞いて、クリスティナはなにやら難しい顔をしている。
だけど、王様なのはアルス兄さんだけで、バイト兄さんやカイル兄さんは貴族だからちょっと違うんだけどね。
そのことを訂正しながらも、俺の中でもいろいろと考えが頭の中によぎる。
クリスティナにはああ言ったが、やっぱり今回の行動は周囲からすると今までとだいぶ違って見えるかもしれない。
俺の中ではいずれ戦いに出ることは既定路線だったけど、それがほかの人にとってはそうではないということになるだろうか。
そして、それをいちいち周りから言われるのはちょっとめんどくさいか。
今回は、パージ街で戦ったことに村の警備を理由として使う。
それは変わらない。
が、それ以外にも今後も万能に使える戦うための方便があったほうがいいのかもしれない。
それも、できればオリエント国やその議会とは関係ない内容がいいと思う。
もしも、今回の件を問題視されて、村の警備の仕事を取り消されたりしたときに大義名分があったほうがいいからだ。
「あ、もしかして、今何かとんでもない悪だくみを考えていないかしら?」
「いやいや、悪だくみなんてそんなことを考えているわけないよ。何言ってんの」
「ええー。だって今、すっごく悪い顔をしていたわよ、アルフォンス君。それがいたずらだったら子どもらしいと言えばらしいけど、アルフォンス君の場合はそうじゃないだろうし」
「今後のことについて考えていただけだって。どうやって、いつでもどこでも戦う理由が作れるかと思ってたんだ」
「……はあ。あんまり聞きたくない内容ね。けど、聞かないわけにはいかないか。そんなの、どうするつもりなの?」
「お、聞いてくれる? いつでもどこでも戦闘に介入する方法ってことで考えたんだけどさ。人助けってどうかな?」
「……人助け? どういうこと? なんで戦う理由が人助けなの?」
「俺たちバルカ傭兵団は金で雇われて戦う集団だ。それはつまり、雇い主はオリエント国に限らない。どこの誰からの依頼でも仕事を受ける可能性はある。というわけで、俺たちに助けを求めるような困っている人がいればいつでも駆け付ける。もちろん、傭兵団らしく助ける方法は戦ったりだけどね」
「……ごめんなさい。意味が全然分からないわ。というか、オリエント国以外ってどういうこと? だれからの人助けの依頼を受けるというのよ」
「間口は広くとろう。神に助けを求める者だよ」
「駄目。全然わからないわ。お願いだからもっと分かりやすく、かみ砕いて説明して、アルフォンス君」
俺の思い付きを口にしたところ、クリスティナが涙目でそう言った。
さすがにちょっと結論だけを言いすぎたかもしれない。
そう思った俺は、考え付いたばかりの今後の方針について、クリスティナに説明し始めたのだった。
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