真のお宝
「え、帰らないんですか?」
「もちろん。せっかくだし、この街は最大限に有効活用していこうと思う」
「有効活用って、それがこの街を占拠することですか?」
「そうだよ。なんだよ、ゼン。もしかして、勝利したらすぐに引き返すとでも思っていたのか?」
「そりゃそうでしょう。勝ったっていっても俺たちは二百人程度ですよ? この街の住人はこっちの数よりもはるかに多いんです。普通、誰だってそう考えますよ」
パージ街で宝物庫を物色した後のことだ。
俺がこの街を占拠しようと言ったら、ゼンが驚いて聞き返してきた。
帰らないんですか、って帰るわけないだろ。
この街ではまだまだやることがあるんだからな。
「って言っても、実際のところ、どうするつもりなんですか? まさか、俺たちでこの街を乗っ取ってやろうってわけじゃないですよね、団長? ゼンの言うとおり、いくらなんでも俺たちの人数だとそれは無理ですよ」
だが、そこにウォルターまでもがゼンに同調するようなことを言ってくる。
バルカ傭兵団がこの街に勝利したものの統治は無理だという内容だ。
まあ、それは同意しよう。
この街を俺たちのものにできればそれは素晴らしいが、多分何をどう頑張っても無理だろう。
どうしてもやりたければ、少なくとも街を封鎖できるくらいの数が必要になるからだ。
「ウォルターの言うとおりだろうな。このパージ街を今の俺たちがまとめていくのは無理だと俺も思う。だけど、何もせずに帰る気はない。他にもできることがあるからだ」
「なんですか、できることって? あとはせいぜい食料とか金目の物をぶんどって持って帰るくらいですかね。でも、それももう宝物庫のお宝で運びきれないくらいですけど」
「あ、分かったぞ、ウォルター。きっとアルフォンス団長はこの街に火をつけてぺリア国への見せしめにするつもりなんじゃないか? パージ街にいた兵の中にはぺリア国の兵もいたはずだ。俺たちと戦うつもりなら、次はお前たちの番だって行動で証明するつもりなのかも」
「な、まじかよ。そこまでするのか。えげつねえな」
「おい、なんだよ、それは。俺はどんだけ怖い奴なんだよ」
この街でのやり残したこと。
それがある、と言ったらウォルターとゼンが無茶苦茶なことを言い出した。
いつの間にやら、俺がこの街の住人すべてを殺すかのような内容になりかけたので止めに入る。
いくら何でもそんな無意味なことはしない。
「というか、そんなもったいないことはできないしな。」
「もったいない、ですか? どういう意味ですか、団長?」
「そのまんまの意味だよ、ウォルター。この街の住人は生きている。生きている人間ってのは、それすなわち魔力の塊なんだよ。で、魔力ってのは強さの源だ。それを捨てるなんてとんでもない」
「魔力……。強さの源……?」
「そうだ。グイードやグレアム、そのほかのパージ兵と戦っていて気が付かなかったか? この街にいる者のほとんどは一度も魔法を使わなかった。そうだろ?」
「……ああ、そういえばそうですね。魔法は見なかったような……」
「俺も見ていない。この街の人間は魔法が使えない。おそらくだけど、ここはまだほとんど名付けが広がっていないんだと思う。つまり、この街からは大量の魔力を回収できる可能性があるんだ」
「……はあ、そうなんですか?」
俺の説明を聞いて、しかし、ウォルターの反応は鈍かった。
それはそばできていたゼンも同様だ。
俺が自信満々に言い切るので、そうなのか、という顔をしているが意味を全く理解していない。
だが、これは仕方ないかもしれない。
なぜならば、こいつらは名付けの仕組みについて正確には知らないからだ。
ウォルターやゼンにとっては、名付けとは【命名】という呪文を唱えることで発動するものであり、他者に名をつけることでそいつが魔法を使えるようになるというだけのものなのだ。
しかし、この【命名】の効果はそれだけではもちろんない。
名を授けられた者が魔法を使えるようになるのと同時に、名付け親は名付けられた子から常時魔力を受け入れることになるのだ。
が、その量は一般人の魔力量程度ではあまり変化を感じるほど多くはない。
そのため、ウォルターたちにとってはその実感がないのだろう。
だが、一人ひとりから受け取る魔力量が少なくとも、その数が多くなればなるほど効果が高まるのがこの【命名】のすごいところだ。
フォンターナ連合王国などでは各地に教会が建っていて、その教会では一定年齢に達した子どもたち全員に名付けを行っていた。
そのため、どの教会の神父も魔力量がものすごく多くなる。
そこらの神父が騎士よりも魔力量が多いのは珍しいことではないみたいだし、【回復】を使えるようになった司教だったら、貴族を凌ぐこともある。
つまり、それだけ住人たちから魔力をかき集めるのは効果が高いということでもあった。
それを俺もしようと思う。
この手つかずのパージ街で名付けを行い、住民たちの無垢な魔力をバルカ傭兵団で吸い上げてやろう。
そうすれば、この街から出ていってもかまわない。
いちいち住民をまとめる面倒な手間をかけずとも、短期間でバルカ傭兵団を強化できるという寸法だ。
こうして、俺は勝利したパージ街から最も貴重な真のお宝を盗んでいくことにしたのだった。
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