食料保存
「よし、そろそろあれも作っておこうかな」
ヴァルキリーの装備のひとつである硬化レンガ製の蹄鉄を作り上げ、それを呪文化し終えた俺は次の行動に移ることにした。
それは食料庫についてである。
これまで、バルカ村ではごくごく普通の倉庫で食料を保存していた。
だが、この食料保存についてずっと気になっていたのだ。
前世の記憶を持つ俺は、1年を通して常に潤沢な食材に囲まれる生活をしており、それが当たり前だと思っていた。
だが、どんな食べ物にも収穫できる時期というのは決まっており、それ以外の時期ではその食べ物を口にすることはできないものだという自然の摂理が存在する。
旬に関係なくいつでも食べ物を食べられるというのは異常な状況だったということに、この世界に転生してから気がついたのだ。
俺もこのバルカ村で生まれてから、常に食べ物のことを考えて生活してきたと言ってもいい。
前世で夢に見た魔法を食べ物を食べるために常に進化させてきたほどだからだ。
だが、いくらたくさん食べ物を収穫できるように【土壌改良】という呪文を作り出したとしても、保存する期間を伸ばすことはできなかった。
せいぜい、地面に穴を開けてそこに保存するという方法をとったくらいだが、それでも常温保存よりも少しマシ程度で、収穫してしばらくすれば食べられなくなってしまう。
保存食にするにしても、できるものとできないものがあり、そこまで成果が上がらなかった。
だが、それももう終わりだ。
俺は新たに保存する手段を手に入れたのだから。
※ ※ ※
新たな保存庫。
俺は自分の土地にそれを作り出した。
といっても、特に変わったものを作ったわけではない。
ただのデカイ倉庫を作り出したのだ。
だが、その倉庫の壁の厚みはかなりぶ厚めにした。
一切の日光と風が入らない、隙間一つない空間を作り出したのだった。
「氷槍」
その倉庫の中で魔法を使う。
使用するのは俺がフォンターナ家当主のカルロスから名付けられて手に入れた氷魔法だ。
これまでいくら頑張っても自分の肉体を強化するか、土に関する魔法しか使えなかった俺だが、新たに名付けを受けてから使えるようになった【氷槍】という魔法。
本来、戦場での攻撃魔法であるこの呪文をなにもない倉庫内へとひたすら繰り返していったのだった。
【氷槍】はだいたい成人男性の腕の太さと長さ程度の氷柱を生み出し、それを発射するものだ。
その氷柱がゴロンゴロンと倉庫内に転がり落ちていく。
以前フォンターナ軍と戦ったときもそうだったが、魔法で作られた氷は別に一定時間が経過すると魔法が解けてフッと消えたりするわけではない。
俺が土魔法で作ったものがその後も残り続けるように、氷柱も残り続けるのだ。
だが、当然その氷は土とは違って時間が経過すると溶けてしまう。
そこで、俺はある程度氷が貯まると、上からおがくずをばらまいていった。
そう、俺が作った倉庫は氷室と呼ばれるものだった。
本来は池などに張った氷を氷室と呼ばれる地下室などに保存しておくのだが、その際、氷の表面におがくずなどをかけて置いておくと、氷が存在しない季節でも完全には溶け切らずに残り続けるのだ。
それを俺は新たに使えるようになった氷魔法で作った氷で保存しておくことにした。
といっても、俺だけが氷を作れるわけではない。
なぜなら、俺がカルロスから名付けを受けて以降、俺の子関係にあたるバルカ姓を持つものも氷魔法【氷槍】を使えるようになっているのだから。
こうして、バルカでは一年を通していつでも氷を作り出し、保存しておくことが可能になったのだった。
※ ※ ※
「しかし、アルス殿。この氷室は必要だったのでござるか? バルカの名を持つものなら自分で氷を出すことができるので、わざわざ保存しておく必要などないように思うのでござるが」
「何言ってんだよ、グラン。この氷は食べ物の保存のために用意したんだよ」
俺がわざわざ倉庫として氷室を作った理由。
それは最初から食料の保存にあった。
俺が作りたかったのは氷を保管する場所ではない。
冷蔵庫を作りたかったのだ。
俺は自分で使ったことはないのだが、昔の冷蔵庫というのは電気などを使用しなかったという。
木枠で作った冷蔵庫の中に氷を入れて、その氷の冷気で冷蔵庫内部を冷やすという冷蔵庫が存在したという。
それを再現したかったのだ。
だが、別に家庭用にしておく必要もない。
大きな倉庫として作り出した中に氷を保管しておき、それによって冷えた倉庫内に食料を保存しておくスペースも用意しておいたのだ。
しかし、倉庫とは別に家庭用に木製の冷蔵庫を作るのも当然ありだろう。
俺がバルカ姓を与えたと言っても、それは村人全員ではない。
氷を自分で生み出すことができない人には氷を売ることにしよう。
この氷室型冷蔵庫の登場によって、それまではあまり日持ちしなかったものもそれなりに日持ちするようになった。
今までは収穫直後にしか食べられなかった野菜などはもちろんのこと、たまに手に入る大猪の肉が保存できるようになり、俺の食生活はほんの少し改善したのだった。
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