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MVP

「ワルキューレ、壁を作れ!」


「キュイ」


「ウォルター、聞こえるか。グイードを倒した。残りの兵を殲滅しろ!!」


「了解です、団長」


 左右を高い建物で囲まれた道路上での戦闘。

 この街を治めるパージ家の中でも、おそらくは立場が高いであろうグイードを仕留めた。

 手ごたえは十分だ。

 手に握る氷精槍の感覚を確かめながらも、すぐに俺は次の動きへと移る。


 俺が騎乗しているヴァルキリーとは別の建物の壁を駆け抜けたワルキューレ。

 そのワルキューレに対して壁を作るように言う。

 それを受けて、ワルキューレの魔法が発動した。

 壁から地面へと着地したワルキューレが【壁建築】を使う。

 すると、すぐに高さと分厚さのある壁が出来上がった。


 それによって、両脇を建物で囲まれた道路が一瞬にして行き止まりの袋小路へと変化する。

 そこに、ウォルターたちが駆け付けた。

 俺と一緒に壁から飛び出してグイードのもとへと向かったウォルター分隊。

 だが、彼らはワルキューレやヴァルキリーの脚力にはかなわず、距離を開けられてしまっていた。

 しかし、追い付けないからと途中で追いかけることをやめたわけではなかったようだ。

 俺の後に続いて走り続けてくれていた。


 そんなウォルター分隊へと壁越しに声をかける。

 大声でグイードを仕留めたことを告げながら、袋小路になったその空間に残った兵を倒すように指示を出した。

 それを聞いて、ウォルター分隊がワッと声を上げながら攻撃を開始した。

 こちらからは見えていないが、おそらくは司令塔であるグイードを失った相手に有利に攻撃できていることだろう。


「キュー」


「ああ、分かっているよ。俺たちはキクのほうへ向かおう」


 俺が壁の向こう側で始まった戦いの様子に意識を向けていると、ヴァルキリーが声を上げる。

 どことなく心配そうな鳴き声だ

 それを聞いてうなずいた。

 多分、ヴァルキリーはキクたちのことを心配しているんじゃないだろうか。


 俺をグイードのもとへと送り出すために、傷を負うことをいとわずにその身を犠牲にして戦ってくれたキク分隊。

 そっちのほうには、グイードから離れた別の部隊がいるはずで、今も攻撃にその身をさらされている可能性がある。

 ヴァルキリーは俺の家にある厩舎で暮らしているからか、俺の家で生活をともにしている孤児連中とは仲がいい。

 当然、キクのことも知っているので、不安なのかもしれない。


 ヴァルキリーの頭を撫でて、そんなキクのもとへと向かおうと言うと、すぐにヴァルキリーが移動を始めた。

 ここまで移動してきた道は、先ほどのワルキューレの【壁建築】で元には戻れない。

 そのため、迂回してキク分隊がいる方向へと向かうことになった。


「頼む、ワルキューレ」


「キュキュー」


 多少の兵はいたが、ヴァルキリーの脚には敵わない。

 そのため、ほとんど邪魔されることもなく、キクたちのもとへと合流できた。

 そんな俺たちの視界に入ったのは血だらけの姿になったキクたちだ。

 それを見て、すぐにワルキューレがキク分隊の周りに壁を作る。


「出ろ、ノルン。俺を守れ」


 ワルキューレにキクたちの守りを任せ、俺が攻撃に出る。

 キク分隊を攻撃している部隊は弓を使う者が多かったようだ。

 そいつらが弓を射かけながら、黒死蝶の効果によってどんどん血を失いつつあった分隊に接近して首をはねようと動き始めていた。


 そこにギリギリで間に合った。

 俺は黒死蝶と相性が悪く引っ込めざるを得なかったノルンを出現させる。

 さっきまでは魔剣として出していたノルンだが、今回は俺の体を覆う鎧にした。

 さらに、俺の手のひらから出た血液が俺の体だけではなく、騎乗しているヴァルキリーまでもを覆う。

 人馬一体の鎧となったノルンを身に纏い、そのままの状態で相手部隊へと突っ込んでいく。


 急に現れた俺という存在に相手は驚いているようだ。

 まあ、そりゃそうだろう。

 なんせ、俺はついさっき、グイードのもとへと向かって駆け抜けていったばかりなのだから。

 どうやら、こいつらはまだグイードが倒れたことを把握できていないようだ。

 そのため、俺が再び現れて攻撃しようと向かってきていることに動揺している。


 もちろん、そんな動揺が収まるまで待ったりはしない。

 相手が混乱しているなら、その隙をつくだけだ。

 真っ赤な鎧は下手な金属よりもはるかに防御力が高い。

 いまだに混乱しつつも、自分たちに向かって進んでくる俺に対して少数の兵がとっさに矢を射かけてくるが、しかし、それらの矢はすべてノルンの血の鎧で弾くことに成功する。


「ハアッ」


 そして、そのままの勢いで攻撃を繰り出す。

 さっきまで使っていた氷精槍をそのまま使って攻撃した。

 長く突き出た氷の槍がキクたちを痛めつけていた部隊に次々と突き立てられていく。

 そこへワルキューレも合流し、別方向から突進攻撃をしてくれたおかげで、さらに楽に攻撃できるようになった。


「ん、大丈夫なのか、キク」


「だ、大丈夫、です。まだ、戦えます」


 そんなワルキューレのそばにはキクやキクの部隊の連中がいる。

 血がどろどろと流れていて、とても大丈夫そうには見えない。

 が、大丈夫だと言いながらも弓から剣へと持ち替えて、相手部隊を攻撃してくれていた。

 今回の戦いで一番働いたのはキクたちかもしれないな。

 傷つきながらも、それでも俺のために戦うその姿を見て、そう思ったのだった。

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