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国際法違反

「貴様ら、何者だ? いや、あの巨人を見るに、オリエントにいる傭兵たちか?」


 壁に囲まれたパージ街の中央。

 そこまで進んできた俺たちを最後に待ち受けていたのは、この地を治めるパージ家の人間だった。

 その中でも一番歳をとった爺さんが話しかけてくる。

 顎に白いひげを伸ばした老人で、ぱっと見た感じでは戦えるのだろうかと思える見た目だ。

 ただ、その身に宿る魔力は多い。

 こいつがこの街で一番偉い奴なんだろうか?


「バルカ傭兵団団長のアルフォンス・バルカだ。よろしく」


「……子ども? いや、そうか。わしはこの街を治めるグイードだ。それよりも、これはどういうことだ? なぜ、貴様らはこの街を襲う」


「正当防衛だよ。オリエント国に属する村を警備していたら、怪しい奴らから攻撃を受けたんで反撃した。そいつらがこの街に逃げたから追撃をかけた。それだけだ」


「なに? それは本当か? いや、だからといっていきなり攻撃を仕掛けてくるのは国際法違反だ。このような行為は許されることではないぞ」


 国際法?

 そういえば、そんなのがあったな。

 東方には国と国の間での法として、国際法とかいうのがある。

 確か、アルス兄さんは東方の国際法を知って、それをフォンターナ連合王国などに持ち帰ったんだっけ?


 国際法によれば、国同士が戦う場合にはきちんと宣戦布告しないといけないとか、そういう決まりがあったはずだ。

 その点から言えば、今回の行動は確かに国際法に違反している。

 が、それもどこまで有効かは微妙なところだった。

 なにせ、国際法はもともと帝国や教国、そしてブリリア魔導国といった大国が作ったものだからだ。


 東方ではいろんな国があり、それが長い歴史の中で常に戦い合ってきた。

 そんななかで出来上がったのが国際法で、国同士の戦いがひどくなりすぎないようにという意味合いがある。

 ブリリア魔導国の貴族院などでは国際法についてしっかりと教える講義なんかもあったはずだ。

 が、ここは小国家群だ。

 小さい都市国家規模の国がたくさんあって、そこが周囲の村や街を勢力圏に治めている。

 そのためか、明確な国境というのは実は定まっていない。

 なので、頻繁に小競り合いが起こり、軍がぶつかり合っていた。


 それに、国際法とはいっても、それを守らせる存在というのがないのだ。

 一応、明らかな国際法違反があれば大国に願い出て間に入ってもらうこともできなくはないらしい。

 ただ、それをすると仲裁に入ってもらったことで大国に対して大きな借りができることになる。

 小国が大国に借りなんて作れば、それがどれだけの不利益をもたらすかは目の前の爺さんも分かっているだろう。

 なので、国際法違反だと叫んではいるが、そのことでどうなるものでもない。


「先に攻撃を受けたのはこっちだよ。だから、国際法違反がどうこういうならそっちが悪い。そもそも、人の土地に塩を撒いていった奴らがそれを言うなよ。塩害に対処するのに時間がかかってんだから」


 というわけで、ここでは強気に言い返しておこう。

 どうせ、こんな状態になってから国際法が理由で引き返すなんてありえないのだから。

 俺はグイードという爺さんとそんなことを言い合いながらも、周囲に気を配る。


 イアンはまだ遠くで戦っていた。

 巨人化し、大きくした自在剣を使って派手に暴れまわっている。

 ここに来るまでに着ていたバルカ傭兵団の制服は巨人化した際にあっさりと破けてしまっているが、その下に着ていた鬼鎧は体の大きさにあわせて変化している。

 その鎧姿で戦う光景はまさに圧巻だ。


 ただ、イアンのほうにも魔力量の多い奴らが何人か向かっていったようだ。

 パージ家の人間だろうか?

 婚姻関係を結んで魔力量の多い者が生まれやすいということで、一族の人間ならば総じて魔力量は多めなのだろう。

 それでも、アトモスの戦士と比べると差は大きいだろうが、人数差があるからイアンがここに来るまでには少し時間がかかるかもしれない。


 そのほかに、イアンとは少し離れた場所でも傭兵たちが戦っていた。

 そっちにはゼンもいる。

 パージ街にいた本隊を抑えるために対処しているが、そっちはちょっと苦戦気味か。

 なにせ、数が違うからな。

 いくら傭兵たちを鍛えているとは言っても、地の利のある相手に数でも負けていたらそうそう勝てないだろう。

 ただ、一応そちらには鮮血兵ノルンを出していた。

 真っ赤な鎧姿のノルンが前に出て戦っている。

 ノルンならば相手の血を吸いながら戦えるので、多少の数の差は埋めることができるだろう。


 ただ、そうはいってもゼンたちには大きな負担がかかっている。

 あんまりここでのんびりとおしゃべりしているのはよくないだろう。

 どうせ話し合いで決着がつくものでもないだろうし、戦いでけりをつけよう。


 そんな俺の意志が伝わったのか、グイードやそのほかにいるパージ街の兵も構える。

 それを俺の周りにいるウォルターたちも見て反応した。

 一気に空気が変わる。


「ふむ。どうやら話し合いが通じる相手ではないようだの。あちらにはあのアトモスの戦士もいる。なるべく早くそちらに向かってやらんといかんな」


 グイードがそんなことを言いながら、右手を握って前に差し出した。

 何をするつもりだろうか?

 その動きに全員が注目する中で、グイードがしわの刻まれた右手をゆっくりと開く。

 すると、そこから蝶が飛び出した。


「ゆけ、黒死蝶」


 真っ黒い蝶がグイードの手から次々とあふれ出す。

 黒死蝶と呼ばれた不気味な蝶がひらひらとこちらに向かって飛んできたのだった。

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