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街の中央に向かって

「大丈夫ですか、団長?」


「ああ、問題ないよ、ウォルター。【慈愛の炎】が回復してくれているみたいだ」


 ワルキューレに乗って移動する俺の横で、ウォルターが心配そうに声をかけてくる。

 俺はそれに平気だと答えたが、実際のところは結構疲れていたりする。

 【流星】の効果だ。

 この弓矢での強力な一撃を放てる【流星】という攻撃は非常に攻撃力が高く、俺も気に入っている攻撃方法だ。

 だが、これには大きな欠点がある。

 それは、体力消費が激しいという点だ。


 柔魔木の弓を引き絞るために魔力や肉体の力を求められるのとは別に、一撃放つと大きく体力を消耗し、ぐったりとなってしまう。

 それは今回も同じだった。

 いや、攻撃力を上げての攻撃だったためか、いつも以上に疲れてしまったようだ。

 ワルキューレの上で疲労困憊になってしまっている。


 ただ、それでもパージ街の攻略の最初の一撃でこの【流星】を使ったのは、【慈愛の炎】があったからだ。

 新バルカ街を出る前に教会でハンナにかけてもらった【慈愛の炎】。

 その効果は今も持続している。


 【流星】を放つ際には、俺の肉体を強化してくれたその魔法は、今は体力回復に役立ってくれていた。

 自然回復力が上がる効果が消耗した体力も癒してくれるからこそ、最初に全力で攻撃できたということだ。

 それでも少しの間、疲労で無防備になってしまうので、ウォルターをそばに置いて万が一の備えをしつつ、イアンを追いかけて壁が崩れた街へと向かう。


「戦況はどうなっているかな?」


「イアン殿の猛攻でパージ街側は大混乱の様相を呈しています。現在、その後に突入した小隊がイアン殿の周りで交戦中。こちらが押しています」


「わかった。そのまま、街の内部に侵入して中央へ向かえ。一気に突っ切って中央を抑えて勝利宣言するんだ」


「分かりました」


 疲れていても、この場で休むことはできない。

 ワルキューレの上から指示だけは出し続ける。

 その中でも、最終目的だけはもう一度はっきりと伝えておいた。


 【流星】の一撃とイアンの攻撃によって、こちらが優位に立てていると思う。

 が、だからといって油断はできない。

 なにせ、ここは街なのだ。

 オリエント国を狙ってと詰めていた本隊が千程度だとしても、戦える人間がそれだけであるとは限らない。

 この街が襲われたことで、街を守ろうと一般人が抵抗してくる可能性ももちろんあるからだ。

 もしそうなら、数千、あるいはもっと多くの人間が手に武器を持って襲ってくるかもしれない。


 そうなれば、さすがにイアンがいようとも総勢二百人しかこの場にいないバルカ傭兵団は不利になる。

 なので、勝負は短期決戦で決着をつける必要があった。

 素早く勝利を決定づけて、相手を降伏させる。

 そのためには、街の中央を抑えるのが手っ取り早いだろう。


 このへんは、多分普通の傭兵団と違う行動かもしれない。

 普通だったら、傭兵は街に入った瞬間に人から獣になるからだ。

 戦いの目的が勝利から利益に変わってしまう。

 つまり、略奪が始まることが多い。


 もともと、傭兵として戦っている奴のほとんどは金が目的だ。

 命を懸けて戦うのはお金のためであり、それ以上ではない。

 なので、金をもらって戦場に出るが、その戦場で略奪を行うのも自然な流れだった。

 その略奪で得る品も最初から目的として含まれているからだ。


 ただ、バルカ傭兵団はそれをしないように訓練時に何度も徹底して教育していた。

 街に突入した直後に、各自が自分の利益だけを求めて勝手にそこらの家に入り込んで金目の物をあさりだしたら、まともな戦いにならないからだ。

 ゆえに、略奪行為は厳禁と規定されている。


 が、それでも他で傭兵として活動していた経験があればあるほど、体は無意識に金目のものに引き寄せられてしまうかもしれない。

 それを防ぐためにも、目的だけははっきりと提示する。

 街の中央を目指す、と。

 そうすれば、少なくとも勝手にあっちこっちに散らばることはないだろう。


 それがうまくいっているのか、バルカ傭兵団はばらけることなく、中央を目指して進んでいった。

 この街は壁で囲まれてはいるが、外壁以外の内壁などというものはないようだ。

 崩れた壁の中は小さめの家が多く、中央に行けば行くほど立派そうな家が増えていった。

 そんな建物の間を通りながらも、中央にある一番大きな建物が見えてくる。


「お、結構強そうな奴らがいるね」


「そうみたいですね。パージ街を治めるパージ家の連中っぽいですね」


 そんな中央の建物の前には多くの兵が待ち受けていた。

 ここまで進んでくるまでにもたくさんの兵はいたが、それらはイアンやほかの傭兵たちが蹴散らしている。

 が、目の前に現れたのはそこらの兵よりもはるかに強そうな連中だった。


 どうも、このパージ街はパージ家というのが治めているみたいだな。

 いわゆる貴族や騎士みたいな感じなのだろう。

 オリエント国では議会があって議員が選ばれていたが、この街では違うみたいだ。


 そんなパージ家の連中は見た目でもほかの者とは力量が違うことが分かった。

 古くからある家として婚姻を重ねて魔力量を上げてきたのだろうか。

 それをみて、俺も前に出る。

 ここまでウォルターに護衛してもらいながらワルキューレに騎乗して進んできたことで、体力はだいぶ回復していた。

 街の中での戦闘をイアン任せにしておくのもどうかと思うし、俺ももうひと働きしておこう。


 こうして、パージ街の中央で、俺はパージ家の連中と対峙することになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 慈愛の炎が傭兵団にとって欠かせなくなってきましたが…さすがにむりやり神様製造法はアイには情報非公開設定にしてあるのかな~
[良い点] 団長、御苦労様です。 処変われば、制度も変わる。 街の成り立ちも変わるのだろう。
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