もう一つの課題
「いいね。赤色は目立つし、かっこいいじゃん」
「気に入ってもらえたようでござるな。しかし、アイ殿の聖痕を羽織に描いたのは本当によかったのでござるか?」
「まあいいでしょ。聖痕はヴァルキリーの角をもとにして作られたみたいだし、ワルキューレの角だってことにしとこう」
「そうでござるか。では、引き続き羽織を作るようにするでござるよ。今はまだ全員の分がいきわたるほどの量ではないでござるからな」
「わかった。ああ、一応、あの服は夏用だろうから、冬に着るための冬服も作ってもらうつもりだからね。そっちも考えておいてくれたら助かる」
「冬服でござるな。承知したでござる」
ガリウスと一緒に完成した制服を着たバルカ傭兵団を見て、感想を言い合う。
赤の模様が入った羽織。
比較的薄手の服で、傭兵たちがバサッと羽織っている姿はなかなかかっこいいのではないだろうか。
オリエント国では統一された同じ様式の服を着ている人なんて見たことがないので、かなり目立つと思う。
ちなみに俺も作ってもらった。
ただ、俺のは特別製だ。
俺の羽織はバリアント地方で生息している錦芋虫からとれる希少な生地を使って作ってもらったので、ほかのものよりもさらりとした肌触りで光沢もあるものとなっている。
着ていても一切の不快感が無いいい仕立てだ。
もちろん、赤で染められているのでバルカ傭兵団の一員であることは一目でわかるだろう。
「ふふ。似合っているわよ、アルフォンス君」
「ありがとう、クリスティナ。っていうか、クリスティナも着ているんだね」
「当然でしょう? 私だってバルカ傭兵団の一員だもの。それより、これで派遣の準備はできたということになるのかしら?」
「うーん。そうなんだけど、ちょっとね」
「ほかになにかあるの?」
「いやー、今更なんだけど、派遣した奴らからの連絡手段をどうしようかなって思ってさ。いろいろ方法はあるんだろうけど、まだ決まっていないんだよね」
ガリウスがまだ不足している制服を作るために俺のもとを離れた後、今度はクリスティナが話しかけてきた。
そのクリスティナも羽織を着ている。
一応、作る際にガリウスとの話し合いにもクリスティナは参加していたので意見を出していた。
傭兵は男性が多いが、女性がいないわけでもない。
クリスティナだってそうだ。
そんな女性でも着たくなるような制服にするために、男女ともに似合う意匠にしようということになり、今の形に落ち着いていた。
そのためか、羽織を羽織っているクリスティナの姿もすごく似合っていて決まっていた。
そのことについて話しをした後、今後のことについても協議する。
バナージから受けた仕事のために制服を作り始めたので、それが完成したから派遣の準備は終わったのか。
そう問われたが、そうだとは答えられなかった。
それは、連絡を取り合う方法について定まっていなかったのが関係している。
バナージから受けた依頼はオリエント国に属する村々に傭兵を派遣して、その地を警備することだ。
そして、そこで何らかの異常を発見した場合には伝達を頼むということにあった。
それまでは、襲われた村から村人が救援依頼を出しに来ていたのを、傭兵に代わりにやってもらおうという意図がある。
ぶっちゃけると、傭兵団の規模的に各村に派遣できる人数には限りがあるために、警備はできても防衛はあまり望めないだろう。
そのため、仕事のほとんどは襲われそうになったらいち早くそのことを伝えることになる。
では、その連絡を今まで通り村人が走ってしていたのを、傭兵が代わりに走ればそれでいいのかという問題がある。
いや、別にそれでもバナージとしてはかまわないのかもしれない。
が、せっかくやるならもっと効率よく、素早く連絡を取れるようにしたいと俺は考えていた。
そのためには、どうすべきか。
考えられる方法はいくつかあるだろうか。
たとえば、使役獣の活用が一番最初に思いつく。
ヴァルキリーの背に乗って急報を伝えたり、追尾鳥の脚に手紙でも括りつけて飛ばすという方法があった。
それらは、これまでと比べると格段に速く連絡を取ることが可能となる。
が、問題は使役獣の数は限られているという点にある。
ただの連絡手段のためだけにバラバラの離れた地に使役獣を置いておくのはもったいない。
では、ほかに方法はないかと考えると使役獣の代わりに馬などの動物を買うというのもありだろうか。
ただ、それも高くつくのが問題か。
それに、馬の世話に慣れている奴もあんまりいないだろうしな。
あるいは、村とオリエント国をつなぐ土地そのものを変化させることも考えてみた。
それは、道路を作ってしまうという方法だ。
あぜ道しかないようなこの地で、オリエント国という都市国家に向かって進むまっすぐな道を作れば、その分人の足でも早く知らせを送ることが可能となる。
ただ、これは多分認められないだろう。
議会の存在する都市に向かって真っすぐに走りやすい道を作ると聞けば、議員たちが反対するだろうからだ。
もしも、攻め込まれたとき、自分たちが逃げる時間もなく敵軍が素早く迫ってくることにつながるかもしれない。
そう考えたら、きっと反対されるに違いない。
「ってわけで、道を作るとか、ヴァルキリーの活用以外で効率的で素早い連絡を取る手段ってなにか無いかな?」
「うーん、そうねえ。狼煙でも上げて知らせる、とかかしら?」
「それも考えたんだけどね。それだと狼煙が見える範囲の距離で人を配置しないといけないだろうからちょっと人数的に厳しそうなんだよね」
「だったら狼煙は無理そうね。それならやっぱり馬でも用意するしか無いんじゃないかしら?」
クリスティナと考える。
が、あんまりいい案が出てこなかった。
「アル様、ミーに任せて」
「え?」
だが、それをそばで聞いていた者から思わぬ意見が出た。
ミーティアだ。
今はクリスティナに体を引っ付けて、猫耳を出した状態でゴロゴロと喉を鳴らしていたミーティアが急に声を上げる。
しかし、任せてとはどういうことだろうか。
もしかして、ミーティアが連絡係として走るとでも言い出すのだろうかと思いながらも、とりあえず話を聞いてみることにしたのだった。
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