仕事の依頼
「仕事がほしいです、バナージ殿」
「仕事でござるか? いや、しかし、傭兵団に任せるような仕事と急に言われても困るでござるよ」
「そこをなんとか。バルカ傭兵団としても実戦経験が積めないと強くなれないので」
「ううむ。だが、そうは言ってもでござるよ、アルフォンス殿。すでにバルカ傭兵団は十分強いのでござるよ。それは春に行った軍事演習で皆が理解しているでござる」
「いやいや。まだまだでしょう。教国や帝国が攻めてきたらどうするんですか。圧倒的な軍事力を持つ大国がきたら、この国は終わりなんですよ?」
むむむ、と言いながらうなるバナージ。
俺が連絡を送ってどこかと戦いたいと言ってから、少し時間が経過していた。
だが、いつまで待っても色よい返事が来ない。
今はまだ早いだの、内政に力を入れる時だと理由をつけて引き延ばしているように感じた。
なので、こうしてオリエント国までやってきて、バナージに直接話しているというわけだ。
だけど、バナージはあまり戦いたい雰囲気ではなさそうだった。
「そうでござる。ならば、こうしようではござらんか」
「お、なにかいい相手がいるんですか?」
「違うでござるよ。どこかに攻め込むのは駄目でござる。そうではなくて、バルカ傭兵団には仕事を依頼するのでござるよ」
「仕事の依頼? どういうことですか?」
「守りの仕事でござるよ。知ってのとおり、オリエント国は小国ではござるが、周囲にいくつもの村を持っているのでござる。その村々の警備や緊急事態のときの伝令の仕事を頼みたいのでござる」
「……警備と伝令、ですか? それって戦いがあるわけじゃないですよね」
「そうでござるが、重要な仕事でござるよ。どうでござるか、アルフォンス殿。オリエント国を守るためには絶対に必要な仕事をバルカ傭兵団に依頼したいのでござる。受けてはもらえないでござるかな?」
確かに、仕事としては大切なものだと思う。
オリエント国はたまに村が襲われてから軍を派遣するということがあった。
が、それはどう考えても効率が悪い。
襲われて被害が出る前に事前に察知したり、それを知らせたり、あるいはその場にとどまって戦ったりできるんなら国としては大助かりだろう。
だけど、バナージの言い方はそれとはちょっと違う気がする。
重要な仕事をぜひ任せたい、と言ってはいるが、むしろそれは言い方を変えれば大切な仕事を任せるからこれで満足してくれという雰囲気を感じた。
「わかりました。なら、その仕事、引き受けます」
「おお。そうでござるか。ありがたい。では、どの村にいくらの人数を派遣するか、後で詳細を伝えるでござるよ」
バナージがそう言って、面談が終わった。
ひとまずそれで納得し、俺も引き上げていったのだった。
※ ※ ※
「って感じで、バナージ殿にあしらわれたんだけど……」
「やっぱりそうですか。私からお話を通した時も似たような感じでしたからね」
「バナージ殿はあんまりバルカ傭兵団に戦ってほしくないってことかな?」
「端的に言ってしまえば、そうなるかと。ですが、それはバナージ殿のご意見というわけではなく、むしろ議会の意見のようです」
バナージとの交渉を終えた後、俺はローラの活動拠点へときていた。
そこにいたローラにバナージとの間にあった話の内容を説明したところ、そんなふうに言われた。
議会の意見、か。
「バルカ傭兵団が活躍しすぎたらまずいってことかな?」
「はい。なにせ、オリエント国の軍よりも強いですからね、バルカ傭兵団は。実際にそれは大衆の面前で軍事演習という形で証明されてしまっています。そんなバルカ傭兵団が、どこかと戦いたいという理由だけで他国と争ったら困るのですよ」
「ローラの力でどうにかならないの? 訓練ばっかりじゃつまらないってみんな言っているんだけど」
「ふふ。一番そう思っているのはアルフォンスくんなのではないですか? ですが、私も議会と同意見です。むやみに自分たちから戦いにいくものではないと思いますよ。それに、いずれ大きな戦いというのは絶対にやってきます。それまでは力をためるつもりで行動するのがいいと思いますよ」
「大きな戦い? そんなのがありそうなのか?」
「今はそのような兆候がなくとも、オリエント国は小国であることに変わりないですから。いずれ攻め込まれるときがやってきます。それは間違いない未来だと思います」
うむむ。
せっかく議会に送り込んだローラだけど、基本的にはバナージと同じような意見だった。
自分たちから攻め込む必要がない、か。
本当なんだろうか。
どのみち遠くない未来でどこかの国が攻めてくるんなら、自分から向かって行くのもありだと思うんだけどな。
まあ、しょうがない。
二人から駄目だと言われたんなら今回は我慢しよう。
その代わり、任された仕事をやりこんでやろう。
オリエント国に属する村の警備と伝令だったっけ?
どこかが攻めてきたら、いち早く察知してバルカ傭兵団が迎え撃てるように完璧な警備網でも作ってやろう。
そう気持ちを切り替えた俺は、オリエント国警備の仕事に力を入れることにしたのだった。
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