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イアンの強化

「っふ」


 俺の硬牙剣が空を切る。

 振り下ろした硬牙剣をスッと横に避けながら、こちらへと拳を放ってくるのはイアンだ。

 そのイアンの拳を、剣を振り下ろしたばかりの俺が体勢を崩しながらもなんとか回避する。

 ギリギリで避けることに成功。

 しかし、イアンの拳はわずかに俺の体に掠っていたようだ。

 ほんのわずかに触れただけで、皮膚は赤くなり、痛みを感じる。


 だが、その痛みもすぐに治る。

 【慈愛の炎】の効果だ。

 体の奥に灯った炎が熱を持ち、俺の体を癒してくれた。

 この程度のかすり傷ならすぐに治る。

 もっとも、それ相応の魔力を消費するのであまり攻撃を受けるのは得策ではない。

 もっとしっかりと回避していかないといけないと反省しながらも、次の行動に移る。


 その後に繰り出されるイアンの拳を回避し、硬牙剣で受け流しながら反撃の糸口を探す。

 大丈夫だ。

 今までよりもイアンとの戦いは互角に渡り合えている。

 これも、【慈愛の炎】の効果のおかげだろう。


 ハンナの作った【慈愛の炎】という魔法は対象の胸に炎を灯す。

 その炎に自身の魔力を流し込むと、その魔力量に応じて身体機能が向上するという効果があった。

 そのおかげで、俺は自分の力を強化し、イアンと互角に渡り合えるようになっていた。

 といっても、イアンは【慈愛の炎】を使っていないので、本当の意味で互角というわけではないのだけど。

 それでも、模擬戦で強さを一定にして戦えるというのはありがたい。

 それは俺にとってもそうだし、イアンにとっても同じだろう。

 今までは、俺がイアンと模擬戦をしても、全然相手にならないくらいには力の差があったのだから。


「ふう。どうだ、イアン?」


「いいな。悪くない。【見稽古】というのはなかなかいいな」


「だろ? 結構自慢の魔法なんだ」


 さらに、この模擬戦をイアンが喜んでいるのは力が同程度に合わせられるからだけではなかった。

 それは、イアンが魔法を使えるようになったことが関係している。

 俺がイアンにスフィアという姓を授けたことで、俺の使える魔法をイアンも使えるようになった。

 そのおかげで、イアンも【見稽古】などの魔法を使えるようになったのだ。

 さっきまでは剣の動きを学んでいたイアンだが、今度はアイから拳を主体とした戦闘技術を学んでいた。

 それを俺との模擬戦で使って動きを確認していたのだ。


 正直なところ、徒手空拳での戦いをイアンがアイから学ぶ必要があるんだろうかと思うくらいイアンは拳での戦いに慣れている。

 それは、アトモスの里での経験があるからだそうだ。

 アトモスの里で生まれた子どもたちは幼少時から同じ年代の子ども同士て拳を交えて成長していくのだそうだ。

 喧嘩をするという話ではなく、本当に相手を殴り殺す勢いで戦うのだという。

 そうして、肉体を鍛えて、実戦に近い戦闘訓練を積んで大きく成長したアトモスの戦士は最後に試練を受けることになる。

 それが、アトモスフィアの前で行う決闘だ。


 若きアトモスの戦士候補たちは大地の精霊が宿りし偉大なる石の前で、命がけの決闘を行う。

 文字通りの本気の戦いで、本当に命を落とす者もいるのだそうだ。

 なぜ、そんな危険なことをするのかというと、巨人化が関係していた。

 アトモスフィアの前でその決闘を行うことで、若者たちは巨人化できるようになるのだとか。

 正直、意味がよく分からない。

 なんでそんな方法で巨人化できるようになるのかさっぱりだけど、実際にアトモスの里ではそうして巨人たちが誕生してきたのだ。


 なので、アトモスの戦士が使う巨人化は魔法ではないらしい。

 そのため、たとえイアンがほかの人に名付けをしたところでそいつが巨人化できるわけではないと思う。

 イアン以外のアトモスの戦士の生き残りがバルカニアに移住したのはその関係だろうな。

 アトモスの里にあったアトモスフィアをアルス兄さんが天空王国のバルカニアへと持って行ってしまったんだから、ついていかなければ二度と巨人は生まれない。

 それがみんなにはわかっていたんだろう。


 まあ、そんなわけでイアンもその里で育ったおかげで拳を使った戦いには慣れていた。

 だけど、アイの動きからまだ習うところがあると言って、【見稽古】を使っていたのだ。

 戦いに関しての向上心がすごいなと感心してしまう。


 だが、ぶっちゃけ徒手空拳の上達はそんなに重要ではない。

 やっぱり一番大きいのは、イアンが剣の動きを覚えたということだろう。

 生まれた時から里の子どもたちで殴り合いの成長をしてきたイアンは、逆に言えば剣をあまり使ってこなかったともいえる。

 だってそうだろう。

 どうせ、アトモスの戦士として一人前になったら巨人化するのだ。

 普通の人間とはかけ離れた巨人の体で使うことのできる剣などそうそうない。

 ならば、拳か、あるいは丸太でも利用した棍棒のようなものが使えればよかったのだ。


 しかし、自在剣を使うようになったイアンは剣の動きをもっとしっかりと覚えたいと思っていたようだ。

 だからだろうか。

 俺の名付けを受けて使えるようになった魔法の中では一番【見稽古】の評価が高かった。

 そして、実際その効果は大きい。

 【見稽古】を使えるようになったイアンは、それまでの見よう見まねの剣術ではなく、本物の、剣聖の剣術が使えるようになったのだから。


 剣聖が使った理論的で効率的な動きを体系化した剣術を巨人が使う。

 もはや、反則級に強いのではないだろうか。

 いや、だろうか、なんて言葉はおかしいな。

 イアンの強さは名付けを受けて魔力量が下がったものの、総合的に見れば上がったのではないかと思う。

 それだけ、剣術を修めたイアンは強くなった。

 なので、どうして今更徒手空拳まで習いなおしているのかわからないくらいだ。


「どうする、イアン? まだやるか?」


「そうだな。だが、いつまでこうしているつもりだ、アルフォンス?」


「ん? なにが?」


「最近、訓練ばかりだ。いい加減、実戦でこの力を使ってみたい」


「……だな。最近、本当に戦いがなかったもんな。ローラやバナージ殿に頼んで、どっかと戦えないか聞いてみようか」


 もう夏が過ぎて、秋に差し掛かろうとしている。

 だが、今年のオリエント国は比較的平穏だった。

 ごくまれによそからちょっかいをかけられることもあったが、バルカ傭兵団が呼ばれるほどではないといって出陣できていなかったのだ。

 どうも、アトモスの戦士がいるこの国にわざわざ手を出すより、よそで戦っているほうがいいという国が多かったみたいだ。


 そのおかげで、訓練する時間をとれたが、全然実戦に出れていない。

 いい加減、戦いに出られないかというイアンの意見には賛成だ。

 その意見を採用した俺は、模擬戦後すぐにオリエント国に連絡を取ることにしたのだった。

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また、第五巻の発売まであと五日となりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 900話更新おめでとうございます! [一言] 順調に戦力増強してますね
[良い点] 某国「アトモスの戦士居るからあの国ほっとこう!」 ある傭兵団「実践的な訓練がしたいな。行くか」 某国「絶対こっちで雇え!向こうに取られるな」
[一言] 900更新おめでとうございます
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