植物紙
「うーん、かみがねえ」
「どうした、アルス。そんな若いうちから髪の毛の心配でもしてるのか?」
「誰がハゲやねん。って、違うよ父さん。髪の毛じゃなくて、紙のことだよ」
バルカ騎士領の検地について進めているときに新たな問題にぶつかった。
せっかく、土地の広さを調べる基準を作り出して、さあ調べましょうと思ったのだが、それを記録できる紙がないのだ。
この地では昔から羊皮紙を使って記録をとっているらしい。
だが、その羊皮紙を俺は持ち合わせていなかった。
というか、このあたりに羊なんているんだろうか。
ジンギスカンがあるなら食べたいのだが。
俺が紙というと全員決まって羊皮紙、もとい獣皮紙をイメージするらしい。
そうして、俺が紙をほしいというと、たいがいの人は「ヴァルキリーの皮を剥ぐのか」などと言ってくるのだ。
だが、そんなことをするわけにはいかない。
ヴァルキリーは俺にとって非常に大きな戦力になり得るのだ。
そのヴァルキリーの皮を剥ぐようなことはできない。
しかし、どうも羊皮紙はそこまで大量に流通していないようで、結構バカにならない金額が紙代となってしまうという計算も出てきた。
正直、もったいないと思うのは俺だけだろうか。
だいたい、羊皮紙など本にしたら分厚くなりすぎるという問題もある。
電子書籍というペーパーレスを経験したことのある記憶を持つ俺にとって、そこまで幅をとる記憶媒体というのはちょっと勘弁してほしい。
というわけで、俺は紙作りに着手することにした。
まあ、現状そんなにたくさん必要なわけでもない。
主に俺が使う分だけでもいいから自分で作ってしまおうと考えたのである。
※ ※ ※
俺が作るのは当然羊皮紙ではなく植物紙だ。
実は以前から森の開拓をしていて、バルカ村にある森は意外と多様性があることが分かっていた。
魔力茸の原木となるものもあれば、木炭として使いやすい木もある。
だが、そのどちらにも不向きな木というのもあったのだ。
その木を利用して紙づくりをしてみることにする。
前世の記憶を参考にしながら作業を進めていく。
まずは紙の材料となる木を細かく削り、さらに叩いて砕いていく。
かなり細かく砕いてから煮詰めていく。
煮詰めるのに使うのは、いろいろ試して最終的に魔力回復薬にした。
木を煮詰めると繊維がとれるのだが、その繊維の量は魔力回復薬で煮詰めるとよく取れたからだ。
そうして煮詰めて出てきた繊維にのりを混ぜていく。
これは森に自生していた山芋もどきを利用することにした。
食べると毒があるという山芋もどきで村の中では森で拾っても絶対に口にするなとさえ言われているものである。
が、その山芋もどきは煮るとすごくネバネバしていて、簡易的な接着剤として利用できるということは昔から知られていたのだ。
木の繊維をのりと一緒にさらに煮た液体。
それを容器に移し替えて、用意しておいた木枠にはめ込んだ網ですく。
そうして、何日か乾燥させると見事に紙が出来上がった。
現地にある材料を組み合わせて作るために、いろいろと苦労したが、なんとか紙が完成した。
とくに魔力回復薬を利用したのが良かったのかと思う。
それまではうまく繊維が取れず、取れてもボロボロでのりとの相性がよくなかったのが、一気に改善したのだ。
戦略物質になりえる魔力回復薬を使うのもどうかと思ったが、まあいいだろう。
自作したとは思えないほど、なめらかで、書き心地のいい紙が出来上がったのだった。
俺はこの植物紙にいそいそと検地したデータを書き込んでいったのだった。
※ ※ ※
「坊主、お願いだ。この紙を売ってくれ」
「どうした、おっさん。俺が木から紙を作るって言いはじめたときは、そんなの無理だとかなんとか言ってなかったっけ?」
「う……、いや、俺が悪かった。まさかこんな紙を作るとは思ってもみなかったんだよ」
「素直でよろしい。で、なんだっけ? 紙が欲しいのか?」
「そうだ。この紙を売りたい。こんなに薄くて、字が書きやすい紙は今まで見たことがない。行商しているときにあればと思うくらいだよ」
「ああ、行商するときはできるだけ商品にスペースを取りたいだろうしな。記録用の紙は薄いほうがいいか」
「ああ、それにここまできれいな紙なら街でも絶対に買い手がつく。これは売れるぞ、坊主」
「いいね。ならバルカ騎士領の新しい特産品になるように紙作り専属のやつでも用意してみようか」
そういえば、俺がフォンターナ家と戦ったときに戦死してしまった人がいる。
彼らの中には当然妻帯者もいて、残された家族は男手が減って大変になってしまったという話だった。
一応金銭を渡してはいたが、それでは一時しのぎにしかならないだろう。
なら、未亡人たちでも集めて紙作りをやってもらおうか。
そう考えた俺は、戦死者を調べ上げて、2つの村で紙の生産を始めたのだった。
材料に魔力回復薬を使うこともあり、別に植物紙が安いわけでもない。
出来上がった植物紙が意外と良い収入になり、結果的に戦死した兵の家族から俺はあまり恨まれずにすむことになったのだった。
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