裏の社会
「ガキどもを連れてくるのは、いろいろだ。尻尾持ちが売れるってのは、知っている奴は知っているからな。で、俺たちは連れてこられたガキどもを買い取って、別の奴に売る。この貧民街ではそれぞれの地域ごとにそういうのを取り仕切っている組があるんだ」
ガラの悪い男がウォルターの尋問に対して、おとなしく話し始めた。
どうやら尻尾持ちというのが獣人の血を引く者のことを指すらしい。
ゼンなんかは知らなかったみたいだが、尻尾持ちを売れると知っている奴はいて、そういうのが見つけたら確保して売りに来るらしい。
こいつらは、それを受け取って横流しにするということになる。
一応、無法地帯の貧民街だが、秩序が無いわけでもないらしい。
ここの地域はどの組が仕切るというのが決まっているのだとか。
で、ときおり、その組同士や新しい成り上がりをもくろむ者との抗争があったり無かったりするとのことだ。
そういえば、ハンナやキクのような孤児たちも似たようなことを言っていたように思う。
キクなんかは縄張り以外で残飯あさりをしたら、その縄張りを持つ奴らに袋叩きにされたんだったか。
もしかしたら、孤児が大きくなったらそのままその辺の地域の組に入っていたのかもしれないな。
「で、売り先は?」
まあ、今は貧民街の事情より聴きたいことを聞いていこう。
俺は思いついたことを尋ねていく。
「知らねえ。本当だ、信じてくれ。俺たちは確保したガキどもを受け取りに来る別の奴に売るだけなんだ。そいつらが、どこに尻尾持ちを持っていくかは聞かされねえんだよ」
「変態趣味を持つ奴が買うとかなんとか聞いたけど?」
「それも本当かどうかは分かんねえよ。多分そうだろうって言われているだけだ。実際、売り払ったガキを都市の中に連れていったりするやつもいる。ただ、別の国に連れていかれることもある」
「別の国? ほかの小国、たとえばグルーガリア国とかか?」
「いや、もっと遠い国じゃねえかとも言われている。この辺の訛りじゃない奴もいたりするからな」
ほかの国にも売られたりするのか。
ミーティアが連れ去られたときにすぐに見つけることができたのは不幸中の幸いだったな。
あんまり遠くまで連れていかれたら追跡できなかったかもしれない。
なんせ、この小国家群はあちこちに氾濫するような規模の大きな川がある。
船で移動されたらにおいをたどれないこともあるかもしれない。
「わかった。じゃあ次の質問だ」
「な、なんだよ。知っていることは答えたぞ。嘘は言ってない。もう勘弁してくれ」
「いや、さっきの話とは別件だ。お前、俺に賞金がかかっているって聞いたことあるか?」
「……あ、ああ。あんたあれだろ。子どもなのに傭兵団をまとめているって聞いた。その首を獲ったら一生遊んで暮らしても余る金が手に入るって聞いてる」
「誰に? 誰が俺の首に賞金なんてかけたかわかるか?」
「そ、それなら分かるぜ。教国だ。ソーマ教国が賞金を懸けたんだ」
「ソーマ教国が? それは確かな情報なのか?」
「ああ。報酬を教国の金貨で受け取ることができるって話だったからな。多分、間違いないだろ」
教国か。
ちょっと驚きだ。
もしかして、不治の病を治したこととかが関係しているんだろうか。
治す方法のない心臓の病でも延命できると言って、ガリウスに薬を売っていたソーマ教国。
しかも、その病の原因はこれまたソーマ教国の作った化粧品だということも分かっている。
そして、その化粧品の代わりに同等以上に効果のあり、かつ安全な化粧品を俺がバルカ霊薬として売り始めた。
おかげで、このオリエント国でのソーマ教国の一連の稼ぎは確かに減ったんだと思う。
ただ、それはこの国の中の話だ。
小国家群には他にも国が乱立している。
そして、そのほかの国ではソーマ教国製の化粧品は今でも売られているはずだ。
あくまでも、流通禁止にしたのはこのオリエント国での話であって、ほかの国では違う。
それにバルカ霊薬もまだまだ数が少ないから、ほかの国まではそこまで販路が無い状態だし。
言うなれば一地方での売上が落ちただけとも言える。
それくらいで、その原因となった俺に賞金を懸けたりするものなんだろうか?
ちょっと大げさなような気もするけどな。
「もしかすると面子の問題かもしれませんね」
俺が男の話を聞いてソーマ教国の対応について考えていると、横からウォルターがそう言ってくる。
面子か。
確かにそっちのほうが理由としては大きいのかもしれない。
商売のタネをつぶされたことそのものよりも、ソーマ教国の製品などを通して国の印象が悪くなる事実を突きつけたことが相手を怒らせたのかな。
「でも、教国って大きい国なんだろ? そんな大国がいちいちそんなことで子ども相手に賞金出したりするのかな?」
「さあ。けど、実際出しているってことはそういうことなんでしょうね。それより、気を付けたほうがいいかもしれませんよ、団長」
「気をつけろって、なにをだ?」
「刺客ですよ。団長が貧民街にいるようなやつに後れを取るとは思いません。けど、賞金を懸けてまで団長を狙っているんです。教国から強力な刺客が送られてくるかもしれませんよ。もしくは、賞金に引き寄せられた強い奴とかですね」
「なるほど。それはあるかもね。分かった。気を付けるよ」
ウォルターの意見に頷く。
確かにそれはあるかもしれない。
それに、強い相手だけが強敵というわけでもないしな。
前みたいに変わった効果のある魔道具を使う相手が出てきたら、それも十分脅威だ。
あるいは、今まで見たことのない魔法や魔術の使い手が来る可能性もある。
教国には呪いなんてものもあるって話だし、何がどうなるかわからない。
警戒して、しすぎるということも無いだろう。
「よし。聞きたいことはだいたい聞けたし、今回はこれで帰るか」
「こいつらはどうしますか?」
「そうだな。せっかくだし、利用しようか。助けてやる代わりに尻尾持ちが見つかったら報告させよう。そのほうが集まりがよさそうだし」
俺がそう言うと、手足を拘束されていた男がほっとした表情をする。
今後は俺たちと取引することを条件に見逃すことにして、貧民街を出ることにした。
それにしても、刺客か。
戦場以外でも襲われることがあったりするんだろうか。
そう考えると、もっと自分自身も鍛えていかないといけないだろう。
まだ見ぬ敵を想像しながら、帰ったらイアンに訓練でもつけてもらおうかと考えたのだった。
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