釣り
「久しぶりだな、ゼン」
「ウォルターか。バルカ傭兵団に入ったとは聞いていたよ。調子はどうだ?」
「いいぜ。といっても、ここはいっつも訓練しているからな。毎日くたくただよ」
この街に新しくやってきたゼン。
そのゼンがウォルターと話している。
ウォルターは以前、バルカ傭兵団の傭兵募集でここにやってきて俺が合格を出したやつだ。
もともとの魔力量が多く、一般人よりも強いが、それでも訓練は厳しいみたいだ。
きっとエルビスがビシビシ鍛えているんだろう。
「二人は知り合いなのか?」
「知り合いというか、傭兵仲間みたいなものですかね。ウォルターは前から評判の傭兵だったんで俺のほうがよく知っているって感じですけど」
「俺はゼンから話が回ってきて、このバルカ傭兵団の入団試験を受けに来たんですよ、団長。結構、ゼンが声をかけて試験を受けた奴って多いですから」
「そうか。そういえばゼンには宣伝をお願いしていたもんね」
どうやら、ゼンとウォルターはよく知っている間柄というよりは、お互い戦場でともに戦い合った傭兵同士の知り合いという感じらしい。
同じ徒党を組んで動いていたわけではないが、同じ仕事をする者同士として微妙な仲間意識があるのだという。
傭兵は戦場に行ったらそこでほかの傭兵たちと情報共有しあうからな。
どこの雇い主がいい雇い主か、あるいは悪いかを常に話しているので、ある程度の付き合いがあるみたいだ。
二人はそんな感じの知り合いらしい。
「まあいいや。それより、仕事だぞ、ウォルター」
「了解です。どこに向かうんですか、団長?」
「オリエント国の貧民街だ」
「貧民街? ほかの国と戦うわけじゃなくて、オリエント国に向かうんですか? なんでまた?」
「最近、子どもを助けたんだ。だけど、その助けた子がまた攫われたって情報が入ってね。もう一回、それを救出に向かおうってこと」
「ああ、そういえば最近ウサギ耳の子がバルカ御殿に入ったとかなんとか聞いたことがありますね。なるほど、ほかにも獣の耳を持った子がいたってことですか。でも、それならなんで一度目に助けた時に、ここに連れてこなかったんですか?」
「決まってるじゃん。他にもいるかもしれない獣人の血を引く者を集めるためだよ」
ウォルターは今、傭兵団で働いている。
新人だが、魔力量の多さゆえにすぐに分隊長となったので、二十五人の兵を指揮する立場になっていた。
そのウォルター分隊がここにいる。
俺はこの分隊と一緒に、再度オリエント国に向かうつもりだ。
それは、ミーティアやユーリを助けた時に、一緒に救出した別の子が、ふたたび攫われたという話を聞いたからだ。
前回のはその場にいた者はすべて倒したはずなので、ほかにも獣人の血を引く者を取引するようなやつがいるということだろう。
それを助けに行こうというわけだ。
「そうか。ユーリのときはミーティアちゃんがいたから救助を優先させただけってことですね。で、アルフォンス団長は追尾鳥って不思議な鳥を持っている。ほかの子が何度攫われても、それを追いかけられるってことですか」
「そういうことだよ、ゼン。追尾鳥からは逃れられない。誰もね」
獣人の血を引く者を集めるのはローラにも頼んでいる。
だが、それ以外にも集めるための方法があった。
それは釣りだ。
貧民街にいる子を囮にして、そこから手掛かりを得ようというものだった。
獣人の血を引く者は希少価値があるからこそ、連れ去られて売られてしまう。
ただ、いきなり変わった特徴を持った人を連れ去っても、普通はそう簡単に売れはしないだろう。
売るための人脈がある者とつながりがないと駄目だ。
だが、前回はそのつながりを調べる余裕がなかった。
俺が一人でミーティアの救助に向かったからだ。
ノルンやワルキューレがいたとはいえ、基本的には一人だったわけで、あの場にいた男たちから話を聞く余裕はあまりなかった。
なので、貧民街にほかにもいるかもしれない誘拐犯たちをあぶりだすことにしたのだ。
ミーティアやユーリと一緒に助けた子たちは、全員貧民街に住んでいる。
その子らを全員家まで送り届けたが、どう考えても貧民街にいる以上、また攫われる可能性はあった。
あえて、そんな危険性のある場所にその子らを置いておいたのは、ふたたび連れ去られるのを待っていたからでもある。
追尾鳥を使って連れ去られた先を調べよう。
そこには他にも獣人の血を引く者がいるかもしれない。
あるいは、そんな誘拐犯たちから変態趣味を持つ富豪に対して売る伝手を持った仲介人が分かるかもしれない。
その情報を得るために、ウォルター分隊と一緒にオリエント国貧民街へと向かうことになった。
今回は人を連れていくので、もう少し取り調べできる余裕もあるだろう。
それを聞いてゼンも一緒に行くと言ってきたので、それを許可する。
こうして、俺は傭兵たちを引き連れて、追尾鳥に先導してもらいながら再び貧民街へと向かったのだった。
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