救出
「みんなー、アル様が来たよー」
檻に入れられた子どもたち。
それを見て、ミーティアが声をかけながらトテトテと檻に走り寄っていった。
ふたたび檻の中の子どもたちの体がビクンと跳ねる。
お友達になったというが本当なんだろうか?
「……その人、誰なの?」
「アル様だよ。ミーを助けに来てくれたんだって。悪い人、アル様がみんな倒しちゃったんだ」
「……あの人たち、もういないの?」
「うん。だからもう大丈夫だよ」
だが、どうやら本当に檻の中の子とミーティアは仲良くなっていたようだ。
駆け寄った檻にいた女の子に声をかけると、普通に話し始めた。
すごいな。
よくこんな状況でお友達を作れるなと思ってしまう。
……友達か。
そういえば、一緒にブリリア魔導国に留学していたあいつって今どうしているんだろうか?
俺がフォンターナ連合王国を追放されてから会っていない友達のことを思い出していると、ミーティアが近くにやってきていた。
「アル様、この子たち、出してあげてもいい?」
「いいよ。俺がやるからミーは下がってて」
「はーい」
ミーティアが檻に入れられた子どもたちを出してほしいと言う。
それを聞いた俺は、魔装化を解いて鎧を魔剣に戻した。
それを一度、二度と振って金属製の檻を壊していく。
檻の中にいたのは五人の子どもだった。
全員がその身に動物の特徴を持っている。
「あ、あの……、助けてくれてありがとうございます、アル様?」
「ああ。ミーを助けるついでだったからな。別にいいよ。それはともかく、君らの話を聞かせてくれないか?」
「え、はい。私はいいですけど……」
「ミーは誘拐されてここに連れてこられたみたいなんだけど、君もそうなの?」
「はい。仕事があるからって言われて、それで話を聞いていたら、いつの間にか眠っちゃって」
檻を壊した中から出てきた子どもたち。
その中でも、最初にミーティアと話をしていた子が一番年上だったのか、俺にお礼を言ってきた。
ミーティアよりもだいぶしっかりした女の子だ。
頭にある耳はウサギっぽいな。
ただ、その耳を隠そうと必死に両手で頭を押さえながら、俺と話をしている。
もしかしたら、自分の身体的特徴が目立つのが怖いのかもしれない。
そんなウサギ耳の女の子にいろいろと話を聞いていく。
「えっと、君の名前は?」
「ユーリです」
「家はどこなの? 貧民街、じゃあなさそうだね。汚れてるけど着ているのはちゃんとした服だし」
「あ、そうです。今は壁の中で住んでいるんです。前は別の村だったんですけど」
「へえ、じゃあ二級市民ってところか。ミーの時といい、結構広い範囲で連れ去られてきたのかな? まあ、ほかの子はだいたい貧民街っぽいけど」
ウサギ耳の女の子はユーリという名前だそうだ。
彼女は都市国家であるオリエント国の外壁の中の土地に住んでいる。
そこで、子どもでもできる仕事があると言われて話だけでも聞かないかと誘われて、いつの間にかここにいたそうだ。
多分、耳を見て声をかけられたんだろう。
ちなみに、ユーリも以前までは頭にウサギの耳は無かったそうだ。
成長して大きくなっていく過程で、いつの日か頭に耳が現れたのだとか。
だが、それを隠すために普段は帽子をかぶっていた。
声をかけられた日はたまたま街の中で風が吹いて帽子が飛んでしまったのだという。
運が悪かったのだろうか。
それとも、獣人の血を引く者を普段から探して誘拐している奴がそこら中にいるんだろうか。
もしそうなら意外ととんでもない街だなと思ってしまった。
まあ、とにかくそのウサギ耳を見られてここに誘拐されたということで間違いないだろう。
「ユーリは家に帰れるか?」
「えっと、その、できたらおうちまで連れていってほしいです」
「んー、わかった。後で連れて行ってやるよ。ほかの子はどうだ? お前らはみんな貧民街に住んでいるんだろ。帰るところがないなら、住む場所くらいは用意してやるぞ」
まだおびえてあまりしゃべらないほかの子へと声をかける。
ただ、さすがにこんなところに閉じ込められていたのだ。
助けられたといっても、急に現れた子どもの俺が住む場所の話をしても、全員が警戒しているのか断ってきた。
まあ、しょうがないか。
これでよく知りもしない俺についてくるようだったら、さすがに無警戒すぎるしな。
「じゃあ、一応、全員家まで送っていってやるよ。案内しろ」
ただ、獣人の血を引く、獣耳や尻尾の持ち主をそのまま放置するのはもったいない。
今のところ、ミーティアの猫耳がなにかの役に立ったわけでもないが、なんとなくつながりは持っておきたかった。
そこで、全員を送り届けると提案し、それぞれの家を覚えておくことにした。
つかまっていた子どもたちを連れて建物を出る。
そこにいたワルキューレを見て、子どもたちが歓声を上げた。
ミーティアと一緒にワルキューレの体を撫でてうれしそうな声を上げている。
いつから閉じ込められていたのかは知らないけれど、建物を出たことで緊張が少し解けたのかもしれない。
おとなしく体を触らせているワルキューレとそれを囲む子どもたち。
一通り、それを楽しんで落ち着きを取り戻した後、それぞれの家へと送り届けていった。
そして、貧民街を回った後、最後に外壁をくぐり、ユーリの家に向かう。
そこで、俺は知った顔と再会したのだった。
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