お友達
「これで終わりっと」
最後の一人に拳を叩きこみ、意識を刈り取る。
俺に向かって武器を振るってきた奴はこれで全員倒したことになる。
それでもあたりを警戒して見まわす。
もしかすると、他にも誰かがいて、気が緩んだ隙を狙ってくるかもしれないからだ。
ただ、その心配はいらなかったようだ。
周りをみても、なにかが動く気配すら感じない。
さっきまではなんだかんだで、あちこちから人の動く気配や視線を感じていた。
多分、それらはこのあたりに住んでいる貧民街の住人なのだろう。
しかし、そういった連中は武器を持って戦う状況を見て、すぐに離れて息をひそめることにしたのかもしれない。
もう大丈夫そうだ。
これ以上は襲われる心配はなさそうだったので、俺はミーティアのもとへと向かった。
建物の壁の陰に隠すようにして、壁にもたれかかったままのミーティアの状態を確認する。
眠っているだけのようだ。
スースーと寝息を立てて、口元をむにゃむにゃと動かしているので、なにかを食べている夢でも見ているのかもしれない。
「おい、起きろ、ミー。大丈夫か?」
「……んー。だあれ?」
「俺だよ、アルフォンスだ。大丈夫か、ミー? 立てるか?」
「あー、アル様だー。うん、ミーは大丈夫だよ。……あれ、ここどこ? なんでアル様赤いの着てるの?」
「オリエント国の貧民街だな。ミーが連れ去られたから助けに来たんだよ」
「……ああー、そうだ。ミーね、知らない人にお友達を紹介してあげるって言われたんだ。それでね、あそこにいるの」
「駄目じゃないか。知らない人についていったら危ないよ。ハンナも心配するぞ?」
「ごめんなさい……。でも、新しいお友達ができたんだよ? ミーと同じで、耳と尻尾があったの」
「……へえ、そうなんだ。どこにいるの、そのお友達は」
眠っていたミーティアを揺さぶって起こした。
どうやら、本当にただ寝ていただけで大丈夫そうだ。
話をしていても問題なさそうに見える。
そのミーティアだが、どうやら声かけされた後に上手く言い含められてここまで連れてこられたらしい。
ちょっと警戒心が無さすぎる気がする。
本当にこの貧民街で暮らしていた経験があるのかと疑問に思うくらいだ。
まあ、もう当時のことを忘れて、安全な生活に慣れきってしまっていたんだろう。
あるいは壁の中の土地は安全だとでも思っていたのか。
あとでもう少し注意して言いきかせておいたほうがいいのかもしれない。
が、そんなことよりも面白いことを言い出した。
どうやらミーティアに友達ができたらしい。
しかも、普通に仲良くなっただけではないみたいだ。
耳と尻尾があるという。
耳は誰でもあるけれど、そういうことじゃないんだろな。
多分、【獣化】したミーティアと同じように獣人の血を引く者のことを言っているんじゃないだろうか。
そういえば、倒した連中が言っていた。
ミーティアのことを売れるとかなんとかしゃべっていたはずだ。
ということは、ミーティア以外にも売り物になる存在がいてもおかしくはない。
もしかしたら、奴らが拠点にしていた建物にでもそういった連中がいるのかもしれない。
そう思って、俺はミーティアに案内してもらって、そのお友達に会いに行くことにした。
ワルキューレにミーティアを乗せ、その建物へと向かう。
すぐにそこに到着して、内部をうかがう。
「ノルン、先行して中の様子を確認してきてくれ。攻撃されたら対処を頼む」
もしかするとまだ中に誰かがいるかもしれない。
それは武器を持った連中の可能性もあるので、先にノルンに入ってもらって安全を確保する。
真っ赤な鎧の鮮血兵ノルンが建物の中に入っていってしばらくすると、何度か声が聞こえてきた。
どうやら、男たちの仲間がまだいたようだ。
ただ、大声で叫びながらノルンに攻撃したようなガキンという音が聞こえた直後に、その声も沈黙するということが何度かあった。
それがしばらく続いた後、ノルンが入り口にまで戻ってきた。
「お疲れ。もう入っても大丈夫そうか?」
「多分な。動く奴は倒した」
「ありがとう。ほかに変わったことはなかったか?」
「あった。一番奥の部屋に檻がある。そこに何人かガキがいたぞ。そのガキと同じような獣人の子孫だった」
「いいね。じゃ、そいつらを見に行ってみますか」
今度は入り口にワルキューレとノルンを残して、俺とミーティアが建物内部へと進んでいく。
ノルンに聞いていたとおり、奥のほうの部屋へ向かう。
そして、そこはミーティアのお友達がいたという部屋でもあった。
少しジメジメした汚く狭い部屋だ。
そこに金属でできた檻がいくつもある。
思ったよりも小さい檻がいくつも積み上げられているその中に、人影があった。
部屋に入ってきた俺を見て、体をビクンと振るわせて身を固めている。
いくつもある檻にそれぞれ一人ずつ入れられたそいつらは、確かにミーティアと同じような子どもで、獣の特徴のある耳や尻尾がついていたのだった。
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