貧民街での戦い
「あそこか……」
追尾鳥による追跡の結果、貧民街の中でもさらに治安の悪そうな場所へと来ることになった。
明らかにガラが悪い連中がいて、地面に座りながらこちらを値踏みするように見てくる。
そんな中を突っ切るようにして移動し、たどり着いた先に建物が見えてきた。
ボロ家が多い貧民街だが、どうやらその建物はそれなりにしっかりとした造りに見える。
いや、見た目は十分ぼろいか。
だが、ほかの建物が今にも崩れそうな雰囲気の中、そこだけはなぜか崩れそうな感じに見えないのだ。
「おい、何だお前。ここは坊主のような子どもが来る場所じゃないぞ?」
そんな建物に近づいていった俺に対して、前を塞ぐようにして男が現れる。
のそりのそりと、気がついたら何人もの男たちが出てきて、こちらを取り囲んでくる。
「ここに小さな女の子がいると思うんだけど? そいつ、俺の身内なんだ。返してくれない?」
「ああん? 何言ってんだ。そんなガキは知らねえ。さっさと帰んな」
「あ、そう? お前、嘘ついたね」
「なに? ガッ……」
俺に話しかけてきた男に、一応聞き込みをした。
ミーティアのような女の子を知らないか、と。
だが、知らないと答えた。
もちろん、そんな答えを信じる気はない。
なにせ、ここにいるのは追尾鳥のおかげでわかっているのだから。
嘘つきに対して、魔剣を振る。
スパッという音すら聞こえないくらいの鋭さで、俺の魔剣はそいつの胴を斬り裂いた。
だが、突然の凶行のはずなのに、周囲にいる男たち慌てる様子がない。
ほかの男たちはそれを見て叫ぶようなことはせずに、それぞれが武器を手に取ってこちらを見てくる。
こういうことに慣れているのだろうか。
「おい、そいつを取り押さえろ」
「分かってる。こいつあれだろ。賞金首だ。持っていけばいい値段になる」
「あのガキと一緒に売れば、一生遊べる金が手に入るかもな」
むしろ、目の前で男を斬った俺のほうこそが獲物だと言わんばかりだ。
というか、賞金首?
俺のことで合ってるのかな?
「俺に懸賞金でもかかっているのか?」
「おうよ。お前あれだろ。傭兵団のガキ大将だな。最近調子に乗っているみたいじゃねえか。にらまれてるぜ、お前」
「へえ。知らなかった。けど、あんたたちは俺には勝てないよ」
「調子に乗るなよ、ガキ。それにいいのか? 俺らをこれ以上攻撃してみろ。あのガキがどんな目に合うかわからないぜ?」
男の一人が俺に脅しをかけてきた。
あのガキというのはミーティアのことだろうか。
が、それを確かめる間もなさそうだ。
というか、その会話も俺の気を引き付けるためだけのものだったのかもしれない。
俺と話をしていた奴とは別方向から攻撃が仕掛けられた。
だが、それに反応できないなんてことはない。
初めての実戦として迷宮街で魔装兵複数と戦ったこともある。
それに戦場でも何人もの相手に対して同時に戦った経験がある。
それをもとにして、背後からの攻撃にもしっかりと反応できた。
後ろから斬りかかってきた男に対して、即座に振り向きながら攻撃を避け、そして反撃する。
魔剣を振って横なぎの一撃。
だが、その攻撃のさなかにもさらに別の攻撃が来る。
さっきは取り押さえろとか言っていたような気がするけれど、もしかしたら賞金首というのは死んでいてもいいのかもしれない。
男たちが血走った目で俺に斬りかかってきていた。
こいつら、躊躇なさすぎだろ。
明らかに俺のことを一人の人間ではなく、金の入った袋のように見ている。
結構な金額が俺の首にかかっているのだろうか。
一人二人と俺が斬り倒しているにもかかわらず、そこかしこから人が現れ、そして、俺を狙ってきた。
意外と強い奴もいるようだ。
ときおり、俺の攻撃を躱して反撃される。
そのたびに剣と剣が打ち合い、つばぜり合いになるのだが、そこで他からの攻撃がやってくる。
何度か貧民街に来たことがあるが、こんなところにここまで戦える奴がいたのかとちょっと驚いてしまった。
だが、それでも問題なく対処できていた。
魔剣を片手に暴れまわり、地面には血の海を作っていった。
次第にその勢いも収まってくる。
どうやら、ようやく数が減ってきたようだ。
「おい、動くなっつっただろ。本当にこのガキを殺すぞ」
だが、そんな戦いに変化が現れた。
さっき俺と話していた奴か。
どうやら、そいつは俺に攻撃してこずに、一度この場を離れて奥にある建物へと向かったのだろう。
そして、一人の子どもを担いで戻ってきた。
ミーティアだ。
「ミー!」
「はっ。いいか、それ以上暴れるなよ? もしそうしたら、こいつはここで殺すからな」
「……いいのか? わざわざその子を攫ってきたんだろ?」
「ああ。つっても、俺らは急な出物を仕入れただけだけどな」
「出物?」
「そうだ。このガキ、獣人だろ? 世の中には変態がいてな。獣人、とくに女の獣人ってのはいい値段で買い取る奴がいるのよ。そういうのに高く売れるんだな、こいつは。だけど、まさかそんな掘り出し物にお前みたいなのがついてくるとはな」
「獣人を売り買いしているのか?」
「ああ。つーか、よく見ればお前もきれいな顔してるじゃねえか。どっかの変態にお前も売りつけてもいいかもしれんな」
「……もういい。黙れ」
いい加減、気分が悪い。
人を売り買いしている奴がいるのは知っているけど、そういう奴からそんな目で見られるのは初めてかもしれない。
あまり気分がいいものではなかった。
「やれ、ノルン」
「ニャー」
だから、ノルンへと命じた。
俺が持っている魔剣ノルンではない。
ローラについていた子猫の姿をしたノルンだ。
俺と一緒についてきていたその猫型ノルン。
そのノルンはすでに男やミーティアの側にまで近づいていた。
「な、なんだこいつは」
そして、その子猫姿が変化する。
真っ赤な鎧の鮮血兵ノルンとして、その場に姿を現した。
形勢逆転だな。
ミーティアのことを人質代わりにして余裕ぶっていた男が慌てる姿を見つつ、俺も魔剣を手にそいつに近づいていったのだった。
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