推薦人
「というわけで、どうかな、ローラ。議員に立候補してみないか?」
「議員にですか? 私が? ごめんなさい、アルフォンスくん。そんなこと考えたこともなかったので……」
「駄目? できれば、新バルカ街がうまくいくように、この街から議員が出てくれれば助かるんだけど」
「……そんなことを言われても困ります。議員様っていろんな人がいるけれど、やっぱりすごい人が多いのですよ。私がその中に入っていって相手になるかどうか」
「大丈夫。ローラならできるよ。それに、優秀な助手もうちから出すし」
「助手? この街に議員の仕事を手伝える人がいるのでしょうか?」
「うん。今ならなんとアイを貸し出しちゃうよ。どうかな? アイと一緒なら、議員の仕事もできると思うけど」
新年の祝いでオリバから聞いた話。
それをさっそく新バルカ街に戻ってきた俺はローラに話した。
バナージ以外の俺に協力的な議員を作るために、ローラに立候補してもらう。
そんな計画を説明すると、さすがのローラも面食らったみたいだ。
とんでもない、という風に腕を振って答える。
が、なおも説得する。
議員としての仕事ができない、というローラの主張はあらかじめ想定していた。
なので、その質問への返しとして用意していたアイの貸し出しを提示する。
アイも議員の仕事というのは経験したことがないだろうけれど、多分それなりにこなせるんじゃないかと思う。
そんなアイがそばにいれば、ローラもやれるのではないか。
「いいじゃない。やってみたらどう?」
「あなたまでそんなことを言うの、クリスティナ。確かに娼婦をしていた女性の中にはかつて議員に立候補した人もいたわ。けれど、今まで当選した人はいなかったのよ?」
「それがどうしたの? 別にいいじゃない。立候補して当選すればそれでよし。落ちちゃったら、それはもうしかたがないわよ。そうよね、アルフォンス君?」
「もちろん。落ちたらしょうがないよ。別にそのことでローラに文句を言ったりはしないから安心して」
「分かったわ。分かりました。それなら、私、ローラはオリエント議会の議員に立候補いたします。どこまでできるか分からないですが、微力ながらアルフォンスくんのために力を尽くしてみようと思います」
「ありがとう。じゃあ、さっそく推薦人を集めるよ」
躊躇していたローラだが、クリスティナも一緒になって説得すると折れた。
気が変わらないうちにさっそく立候補に必要な推薦人を集めよう。
それで、ささっと必要な手続きを済ませてしまおう。
こうして、多少強引にローラに議員を目指してもらうことになったのだった。
※ ※ ※
「それで、アルフォンスくんにはなにか考えがあるのでしょうか? 議員としての仕事を全然経験したこともない私をどうやって当選まで導こうというのか、聞いてもいいですか?」
「あら? 思ったよりもやる気になったのね、ローラ。てっきり、落ちてもいいと思って行動するつもりなのかと思ったわ」
「そんなこと、できないに決まっているでしょう。話を聞いたこの街の商人の方々も私を推薦してくれたのよ? それなのに適当なことはできないわよ」
「そうね。確かに、この街に来た商人たちもみんなローラのことを応援してくれているものね。やるならしっかりやるのが当然ね。私もローラのために力を尽くすわ」
推薦人集めは思った以上にうまくいった。
最初はローラと同じく、この街に身請けした元娼婦たちから推薦人を集めるつもりだった。
だが、そんなことをしなくとも集まってしまった。
どこから話を聞きつけたのか、街にいる商人が言ってきたのだ。
自分たちも推薦人になろう、と。
商人たちにもいろんな思惑があるんだろうと思う。
ひとつはこの街の今後についてだ。
俺が作ったこの街が、これからもずっと続いていくかどうか不安もあるのかもしれない。
だが、もしもこの街から議員が輩出されれば状況は変わる。
少なくとも、議会とつながっている人間がいる以上、オリエント国から手を切られる心配はグッと減るだろう。
それに、この街のことについて俺以外に陳情先ができるというのも商人にとってはうれしいことかもしれない。
街で起こった出来事や改善点などの要望、その他いろいろと意見を言いたいことが出てくるかもしれない。
そんなときに、毎回武力を持った傭兵団の団長に言いに行くのと、自分たちが推薦した議員に言いに行くのでは気持ちの面でもだいぶ違ってくるのだろう。
なんなら、これからは俺よりも議員になったローラを頼りにするかもしれない。
あとは、俺に対する心象をよくしておこうという下心も多少あるのだろう。
傭兵募集の際に、オリエント国にいる商人からも人が送り込まれてきていたことを心配している商人は多い。
直接関係なくとも、商人に対して厳しい対応がされれば困るからだ。
もともと、なにかを生み出す仕事ではない商人というのは扱いが軽いことも多い。
せっかく新しい街で新たに仕事をしようと土地まで買ったのに、不遇の扱いをされては困る。
そんな風に、いろんな理由からなんだかんだでローラはそれなりの推薦人が集まった。
となれば、立候補自体には問題がない。
ならば、あとは票の確保ができるかどうかか。
その問題をどう解決しようか、しばらく俺は考えることになったのだった。
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