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白羽の矢

「選挙ってのはいつあるんだろう?」


「今年の春ですね」


「あ、そうなんだ。それってさ、バルカ傭兵団の軍事演習の前か後、どっちなのかな?」


「たしか、軍事演習のほうが先に予定されているはずですよ。選挙はその後です」


 バナージの屋敷で御馳走を食べながらオリバに聞く。

 どうやら、選挙というのは春ごろに行われるみたいだ。

 もしかしたら、軍事演習をやることが決まったのも選挙が関係していたのかもしれない。

 春に行う選挙の前にバナージと関係の深い傭兵団がその力と統率力を証明するために人々の前で戦う姿を披露する。

 それは、上手くやればバナージの得票にもつながったりするのかもしれないと思った。


「確かにそういう意図はあるかもしれませんね。普通なら傭兵だけの街ができて、その傭兵団が都市国家のそばで模擬戦闘を行うなんてことはあり得ませんから。バナージ議員がかなり議会で説得して実現した話だと聞いていますよ」


 俺の考えを確かめるためにオリバに聞いてみると、やはりそういうことらしい。

 なんだかんだで、バナージはバルカ傭兵団のことをうまく使っているようだ。

 ただ、それが悪いわけではない。

 そうじゃないと、こっちも動きにくいことが出てくるかもしれないし。


 けど、思うところがないわけでもない。

 前から思っていたけど、バルカ傭兵団の存在はバナージの存在に寄りかかりすぎている。

 それでうまくいっているうちは別にいいけれど、万が一、バナージが死んだり、選挙で落ちたらどうなるんだろうか。

 議会との伝手が無くなったら、割と大変なことになりそうな気もする。


「そのことについて、オリバはどう思う?」


「そうですね。確かにアルフォンス殿はバナージ議員と密接な関係にありますし、仮にその連携が途絶えたら大変ですね。それはオリエント国としても損ですよ。優秀な傭兵団がよそに流れてしまう可能性も出てきてしまうわけですから」


「だよね。ってことは、今後のことを考えてもっとほかの議員とやらにも接触していったほうがいいのかな」


「それもありかもしれませんが、ほかにも方法はありますよ」


「え、そうなの? どんな方法?」


「自分で議員になるか、だれか自分の意見を言ってくれる人を議員に押し上げるか。どちらかの方法が考えられます」


「……自分で? なれるものなの?」


「言っておいてなんですが、無理です。アルフォンス殿は今年で九歳でしたよね? 議員として立候補できる年齢を満たしていないので」


「なんだ。じゃあ、誰か代わりに俺の意見を言ってくれる人を議員にするしかないってことか」


「そうなります」


「ふーん。ちなみに、オリバは議員になったりしないのか?」


「私ですか? 私はいずれ議員を目指したいですが、まだ当分は。バナージ議員のもとで学ぶことも多いので」


 なるほど。

 っていうか、やっぱりオリバは議員になりたいと思っているのか。

 もしかして、バナージが議員じゃなくなったときの後釜でも狙っているんだろうか。


 それは置いておいて、ほかの議員と付き合いを持つのはありだろうかと考える。

 悪くはない。

 けど、もともとアルス兄さんと面識があったバナージほど、俺のことを重視してくれる議員がいるかというと微妙な気もする。

 となると、俺の意見を反映してくれそうな人が議員になれば助かるということになるけど、そんな都合のいい人なんているだろうか。


「ねえ、オリバ。議員への立候補って、成人していれば誰でもできるの?」


「はい。ああ、けれど立候補するには条件があります。立候補者が一級市民権を持つことが前提で、そのうえで推薦人を一定数集めてから申請する必要があるのと、立候補時に規定の金額を選挙委員会に納める必要があります」


「それだけ?」


「それだけ、とは? 基本的にはそれくらいですが」


「えっと、じゃあ、別に男性に限るとかそんな条件はないってことだよね? 女の人が立候補して議員になってもいいってこと?」


「もちろんです。意見を発するのに男性のみに限る必要はありませんからね。もしかして、誰か女性を立候補させようと考えているわけですか?」


「うん。それもいいかもって思ってる」


 バルカ傭兵団のために動いてくれる議員。

 それをバナージ以外に確保したい。

 そのためには、俺が推薦する者を立候補させて議員にしてしまうという考え。


 それを聞いて、条件を確認した。

 結果、思い当たる候補がいた。

 ローラだ。


 もともと、この都市国家で高級娼婦として働いていたローラも一級市民の権利を持っている。

 そして、娼婦の中ではかなり有名だったと聞いている。

 有名な高級娼婦ともなれば、それなりに格式のある相手とも知り合いになっていてもおかしくはない。

 そんなローラなら、立候補したらある程度票を集めることはできないだろうか。

 バルカ傭兵団のために意見を言ってほしいというのはあるが、表向きは別の理由でもいいかもしれない。

 たとえば、この国での娼婦の扱いをよくするだとか、なんかそんな感じでバルカと関係ない人からも票を集められれば受かる可能性はないものだろうか。


 わからん。

 選挙とかやったこともないからさっぱりわからない。

 けど、別に当選しなければ死ぬってわけでもないしな。

 とりあえず、一回出てみないかと声だけでもかけてみようか。

 推薦人が何人必要かは知らないけど、うちに来た女性はみんな一級市民だし、百人分くらいの推薦があれば立候補くらいはできるだろう。

 金なら俺が出そう。


 こうして、オリバとの話し合いの中での思い付きにより、俺はローラを議員にしてみようと考えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 推薦人になってくれないと薬売らないぞ で脅せるカードも有るからなあ、たち悪いよね
[一言] 異世界版チッチョリーナ!? イタリア男なら投票確実でしょう。
[良い点] かつての、お客様にしては ちょっと待って、議員に当選したら 妻同伴で、パーティーとか針のムシロだろう。 金は、問題ないので 推薦人の確保だけど、ローラの人脈次第だな。
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