新年を迎えて
「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします、バナージ殿」
「これはこれは、かたじけないでござる。こちらこそ、よろしく頼むでござるよ、アルフォンス殿。ささ、こっちに来て一緒に食事を楽しむでござる」
「ありがとうございます。いただきます」
年が明けた。
新バルカ街はひとまず完成したと言ってもいいだろう。
一区切りついたところで、冬の間も作業をさせていた連中を休ませ、俺はオリエント国に来ていた。
新年のあいさつをバナージにする。
もともと、この東方では新年を迎えるときには家族で過ごすことが多いらしい。
フォンターナ連合王国ならば自身が仕える主のもとにはせ参じてあいさつをするのが常識だけど、そういうことはない。
が、なぜか今回は俺のほかにもバナージの屋敷に顔を出している人がいた。
去年よりもたくさんの人がいるのに驚く。
「ずいぶんにぎやかですね」
「はっはっは。そうでござろう。フォンターナの風習というのを聞いて、拙者から声をかけたのでござるよ。アルフォンス殿も来てくれることでござるし、よかったら新年の祝いを我が家でしないかとお誘いしたのでござる」
「いいですね。みんなでお祝いしたほうがにぎやかで楽しいですし」
「そうでござろう? さあ、もっと食べるでござるよ、アルフォンス殿。子どもはよく食べて大きくならなくてはいかん。そうでござるな、オリバ?」
「そうですね。というか、ちょっと酔いすぎですよ。もう少し、お酒の飲む速度を考えてください、バナージ議員」
どうやら、バナージは少し酔っているみたいだ。
いつもよりも若干声が大きく、よく笑っている。
ちなみに、魔法を使った農作業が土地に及ぼす影響についてはすでに話をつけていた。
ついでに渡したバルカ米の他にも、今バナージが飲んでいるお酒は俺が渡したものだ。
バリアント地方でも作られているその酒はカイル兄さんによる高位精霊を使った品種改良によってお酒用に調整されたものでもある。
どうやら、そのお酒をひどく気に入ったようだ。
さっきから次々に喉に流し込んでいるが、そのせいで酔いが回ったらしい。
「すみません、アルフォンス殿。バナージ議員はいつもはもうちょっとしっかりしているんですけどね。だいぶ気が大きくなってしまっているようで」
「いいよ。気にしないで、オリバ。っていうか、オリバはしっかり食べているの? これなんかおいしいよ」
「ああ、おいしそうですね。ひとついただきます」
酒に酔ったバナージに水を手渡したオリバと話をする。
黒塗りの箱型の器にずらりと敷き詰めるようにしていろいろな料理がある中で、俺が気に入ったものをオリバに勧める。
それを一口食べて、食事の感想などを言い合う。
その間にも次々とバナージのもとにはあいさつに訪れた人が声をかけていく。
そのそばにいた俺もついでに話しかけられたりもした。
結構知っている人も多い。
商人系が多いのだろうか。
俺が不治の病を治した人もたくさんいて、バルカ霊薬などの感謝を改めて言われたりもした。
そんな感じで、食事を食べつつも、次々と俺もあいさつされつつ、時間が過ぎていった。
「あー、ごほん。全員、聞いてほしいでござる」
俺が新しく作った新バルカ街の今後についてなどをオリバやほかの商人と話し込んでいるときだ。
すくっと立ち上がったバナージが声を上げる。
全員注目と言って話し始めた。
「ここにいる者は当然知っていると思うでござるが、今年は選挙の年でござる。この都市国家を運営する議会。その議会で発言権を持つ議員を選ぶ選挙が今年行われるでござる。その選挙、もちろん現職でもある拙者は立候補するつもりでござる。つきましては、ここにおられる皆様方には、ぜひ拙者の当選に向けてのご支援を賜りたいのでござるよ」
「選挙?」
「ん、そうですよ。知りませんでしたか、アルフォンス殿? このオリエント国では数年に一度、選挙を行って議員を決めるんです。で、それが今年あるので、それに出馬するバナージ議員が支持をお願いしているんですよ」
「ああ、なるほど。だから、新年早々に人を集めたっていうのもあるのか」
「そういうことです。バナージ議員は早めに周囲の支持を固めておきたいのでしょうね。こういう接待は意外と効果的なんです」
バナージが選挙のための支持を求めて話し続ける。
それを聞いて、集まっていた者たちが拍手をして盛り上げている。
どうやら、ここに集まった理由は参加者たちも知っていたのだろう。
「選挙か。そういえば、それって俺も投票できるの?」
「ええ、できますよ。アルフォンス殿はその権利を認められていますから」
「オリエント国に住んでいないけど大丈夫なのかな?」
「もちろん。新バルカ街は正式にオリエントが認めた土地ですから、その土地の持ち主であるアルフォンス殿にも投票権がありますよ」
へえ。
選挙ってどんなのなんだろうか。
いまだに議会とかって見たことがないから、ちょっと興味があるかもしれない。
投票ってやつに行ってみようかな。
まだ続いているバナージの話を聞きながら、俺はそんなことを思ったのだった。
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