今後の問題
「結構完成してきたな」
バルカ傭兵団の入団試験を終えてからしばらくしてのこと。
俺は新バルカ街を見ながら、呟いた。
最初は廃村だったこの場所は俺が土地を得たことでバルカ村となった。
そして、【アトモスの壁】に囲まれたそのバルカ村を新バルカ街として拡張し始めたのだが、それがいい感じに進んでいる。
試験があったときにはまだ最低限の建物と外壁だけが完成していたのだが、そこからさらにいろんな建物ができていた。
「本当ね、アルフォンス君。人手が増えたのが一番の理由かしら?」
「まあそうだろうね。結局、試験で不合格になった奴らも多くがここに残って働くことになったから」
「貧民街で暮らすよりは仕事があるからでしょうね。その分の人手を魔道具製造に回せているのは大きいわよ」
着々と完成しつつある街を見ながら、クリスティナと話す。
入団試験をしたときは、正直なところ手が足りなくなるのではないかという意見もあった。
もともと傭兵が二百人程度しかいないバルカ村だったのに、その住人数以上の新人傭兵を受け入れて訓練までしようというのだから当然だろう。
しかも、訓練だけをしているわけにもいかない。
街を作り続ける必要もあるし、財政的にも魔道具を作って売る必要があった。
どう考えても、それらを既存の人数でやりくりするのは不可能だった。
なので、傭兵団の入団試験に落ちた不合格者たちに声をかけることにしたのだ。
ここで働いていかないか、と言って。
仕事は主に単純労働だ。
この新しく造りつつある街で、建物などを作る仕事だ。
建築技術などが無くても荷物を運ぶだけでもありがたい。
もともと、バルカ傭兵団に入ろうと思って入団試験を受けに来た者たちだが、その中に多くいた貧民街出身者は別にどうしても傭兵になりたいというわけではなかった。
とにかく、仕事があると聞いたからやってきたという者も多くいたのだ。
そのため、傭兵ではなく安い肉体労働の話であっても飛びついてきた。
なので、ありがたくそいつらを使って街づくりに励んでいるというわけだ。
この傭兵ではない一般住人たちにももちろん儀式を受けてもらっている。
教会で一人ひとり儀式を行うのはさすがにハンナも大変だったので、儀式用の魔石をもう何個か用意することになった。
その魔石を使っての血の楔という縛りがあるからか、今のところ街で大きな問題は起きていない。
まあ、多少のことなら無いわけではないので、特に慣れない最初のころは喧嘩をした者たちが双方ともに胸を押さえて道でうずくまっている、なんてこともあったがそれも減ってきた。
そんなこんなで街の建設にもともといた傭兵たちの手を取られなくなったので、訓練をしつつ、魔道具などを作ることができるようになっている。
その魔道具でお金を稼いで、そのお金でさらに街の建物を作る。
そうしていると、喜んだのは商人たちだ。
安全な街で、しかも冬になって寒くなってくる時期にもかかわらずこの新バルカ街は寒くないときている。
その話が広がったのか、さらに土地を買いたいという商人も出てきた。
最初のころに売り出した土地はまだ残っているので、それを売る。
もちろん、売る相手は見定めて、入団時に間諜を送り込んできた商人が関係しているようなところはなるべく除外しておく。
そんなことをしながら、新バルカ街は完成に近づいていった。
「しかし、気を付けたほうがいいですよ、アルフォンス様」
「ん? エルビスか。気を付けたほうがいいって、どういうことだ?」
「街づくりのことについてです。今のところは非常に順調に進んでいると思います。ですが、いずれ限界が来ます。受け入れられる人数にはどうしても限りがありますから」
「ああ、街としての受け入れられる人数の話か」
「そうです。かつて、アルス様がバルカ騎士領を作ったときもそうでした。私もそのうちの一人でしたが、仕事がある、食べ物があると聞いた者が各地から集まってくるのです。そして、そういう相手は受け入れられないと言われても帰りません。帰る場所がすでにない状態だからこそ来ているのですから」
クリスティナと話していると、そこにエルビスも参加してきた。
訓練を終えた直後なのか動きやすそうな姿をしている。
そんなエルビスが昔あった話をしてきた。
アルス兄さんがバルカニアという街を造り、騎士領の領主になった直後くらいの話らしい。
各地からやってきた移住希望者の数が多すぎて問題になったそうだ。
その時は、移住者はお金があるかどうかなどの移住のための条件を満たせないとバルカ軍に放り込まれたようだ。
で、恐ろしいほどに厳しい訓練を受けさせられた。
今の状況はそのときに似ているというのがエルビスの意見だった。
ただ、全く同じというわけではない。
周囲の状況が違うから、同じようにはならないと思うけれどどうだろうか。
「アイはどう思う? 今以上にこの街に人が押しかけてくると思うか?」
「その可能性は否定できません。しかし、そうならないように対処は可能であると考えられます」
「どうするの? どうしたらいいかな?」
「魔法を活用した農作業の方法について、情報を拡散すべきかと思います」
エルビスの心配について、アイに相談してみた。
すると即座に答えが返ってくる。
が、魔法を使った農作業の方法ってどういうことだろうか。
あちこちに現れ始めている【土壌改良】を使うことができる者が勝手に農業するかと思うが違うのだろうか。
いまいちピンと来なかったので、さらに詳しく話を聞くことにしたのだった。
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