合格の基準
「あの、あいつらってどうなるんですか?」
「さあ、どうだろうね。とりあえず、取り調べてから判断することになるかな」
俺が行った裁判で嘘をつき苦しむ者たち。
そいつらの体を引きずって、街を作る際に用意していた詰め所へと連行していくのをウォルターと見守る。
その光景を見ながら、思った以上に血の楔がうまくいったなと感じた。
これがあれば、ひとまず内通目的でここに来る奴らを見つけることができるだろう。
ただ、戦力的にはもったいないという思いもあった。
あれだけ集まった人数の中から、俺の【威圧】に耐えられたのはここにいた数十人だけだったのだ。
それが、数人を残して脱落してしまったことを意味する。
まあ、それだけ強いやつがどの勢力にも入らずに野放しになっているはずもないということなのだろう。
しかし、連行したけどその後どうするかは考えものだな。
誰の差し金でここに来たのかを詳しく聞く必要があるだろう。
もしも、お金で雇われて来ただけとかならば交渉するのもありかもしれない。
いや、当分はいいか。
今の段階で身元の不確実な奴がそばにいるということにうまく対応できる気もしないしな。
ある程度調べたら、そのままバナージのところに送りつけてやるのもいいかもしれない。
他国の関係者なら、そこからの情報が手に入るかもしれないし。
「まあ、いいか。とにかく君たちは合格だ。おめでとう。正真正銘、これから俺たちバルカ傭兵団の仲間となった。よろしくね」
連行されていった連中が全員取り調べのための建物に連れていかれたのを確認し、残った五人にそう伝える。
まあ、みんな微妙な顔だけどな。
急展開に喜んでいいのかわからないといった感じなのだろう。
「じゃ、一回戻るか」
「えっと、戻るとは、どこに戻るのでしょうか?」
「外の試験場だよ、ウォルター。ここでやるべきことは終えた。だけど、外ではまだ試験が続いている。そっちがどうなっているのかも見てみたい」
「あ、そうですね。そうか、倒れていた奴らが起きたら試験の続きをするとか言っていましたね」
「そういうこと。エルビスが試験をしているはずだけど、どんな奴がいるか俺も実際に見てみたいからな。悪いけど、みんな一緒についてきてくれるかな?」
「わかりました」
間諜ではないとわかった傭兵は五人。
そのだれもが当初は困惑していた。
そんな姿を特に気にすることもなく、外に戻ることを提案する。
ウォルターたちもそれに同意してくれたので、引き返していった。
ワルキューレに背にまたがり、その五人を先導するようにしてさっき来たばかりの道を引き返していく。
そして、外壁の外に出ると、すぐにエルビスの声が耳に届いてきた。
「走れ。止まるな。走り続けろ」
大きく、遠くまで聞こえる声が入団希望者たちに叩きつけられている。
どうやら、集まった傭兵候補たちは走らされているようだ。
壁の外の土地をグルグルと回るように走っている。
走り始めてそれなりに時間が経っているのかもしれない。
軽やかに走る者は少なく、重たくなった足を引きずるようにして移動している者もいる。
「走り込み、ですか? 試験をしているんですよね? 訓練しているわけじゃないのに、だいぶ走らされているみたいですけど……」
「多分、やる気を見ているんだろうね。バルカ傭兵団に本当に入りたいか、気持ちの面を見極めたいって思いがあるんじゃないかな」
見た感じ、走る速度はそれほど速いわけではないようだ。
多分だけれど、いいというまで走り続けたら合格だとかそういう試験内容じゃないかと思う。
ゆっくりになってもいいから言われたとおり動き続ける。
その頑張りを見ているのだろう。
エルビスはもともとアルス兄さんのもとで鍛えられた軍人だ。
そのバルカ軍だが、それほど一人ひとりの兵を強く育てるという育成方式ではなかったらしい。
いや、育てないというわけではないかもしれないが、それ以上に優先することがあったのだ。
どちらかというと、魔銃だとか魔法を使っての遠距離攻撃を全員が意思を統一して行うことに重点をおいていた。
個としてよりも集団の強さが求められたというわけだ。
だからだろうか。
エルビスは異常に規律にうるさい。
しかも、上官の言うことに即座に従うことを重視する人間だ。
軍を指揮する者から指示された内容をわずかな遅れもなく実行する。
そのためには、個人技よりも命令に従うことこそが重要だったからだ。
走り込みをして明らかにやる気を感じられないような奴や、どう考えても戦場に行くには体力がない奴は失格になっていた。
後者は育てればまだなんとかなる気もするが、いかんせん時間がない。
今回の募集で合格にした者には冬明けの軍事演習が待っているからだ。
さすがに、それまでに体力をつけながらの訓練というのはできないだろうという判断があった。
最低限の基準を満たした者は、さらに引き続き試験が行われる。
いくつかの班に分けて、それぞれに上官が割り当てられて、行動を指示される。
それにきちんと従うかどうかを確認しているようだ。
上官との相性などがあるかもしれないけれど、人の言うことに従えない奴もまた失格にせざるを得ない。
「思ったより厳しいというか、なんというか。いいんですか? こういう試験だと、才能のある奴もはじいてしまいそうですけど」
「それはしょうがないよ、それに、即戦力になりそうな奴はすでに俺が確認しているからね。俺の試験で合格したウォルターたちがそうだ。それ以外は命令に従う奴を選ぶことになるだろうな」
俺がそう言うと、ウォルターや他の者が少し口角を上げた。
自分の才能が認められている。
そう感じたのだろう。
それは間違いではないと思う。
実際、本当に才能があればミーティアみたいに俺の【威圧】には耐えられるのだから。
そうじゃないということは、残念ながらエルビスにしごかれているあいつらはごく普通の一般人だということなのだろう。
その後も、エルビスの試験を観察していると、少しずつ数が絞られていった。
どうやら、これで試験は終わりのようだ。
合格を言い渡すエルビスの声を聴いて、最後まで残っていた者たちが喜んでいる。
まあ、あいつらも教会での儀式を受けた後に、裁判で内通者ではないかを確認することになるのだけれど。
いったい何人くらいが残るだろうか。
うまく五百人くらいになってくれることを祈ろう。
嬉しそうにエルビスの後について外壁をくぐっていくその姿を見ながらそう思うのだった。
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