入団試験
「おお、結構集まったな」
「多いですね。一応、傭兵として受け入れる第一陣の人数制限は五百人としているのですが、それを明らかに超えていますね」
新バルカ街にて傭兵求む。
そんな告知を出してから一月が経過した。
満月の日という日程にしているので、貧民街の連中でもわかりやすいかもしれない。
そのためか、大勢の人が新しい街の外に集まってきていた。
千人はいるだろうか。
いや、もっといるように見える。
そんな傭兵候補たちを外壁の外の土地で待機させている。
それらを見ながら、エルビスと話し合う。
今回の傭兵募集数は五百人ほどとすることにしている。
それは、これ以上の数になると訓練に手が回らないからだ。
冬が明けたらオリエント国で軍事演習を披露するという話が決まっている。
そこでの訓練の出来によっては、俺は傭兵たちの統率ができないと判断されるかもしれない。
そうなったら、この街もどういう扱いになるかわからない。
なんとしても失敗しないために、集団の数よりもいかにまとまった動きを披露できるかに集中することにした。
そのために、人数の上限を定めたというわけだ。
しかし、ありがたいことにその数倍の人数がこの新バルカ街へと集まってきてくれてることになった。
それだけ、バルカ傭兵団が注目されているということでもあるんだろう。
……なんか悪い風評を拭うための病院づくりが目的だったのに、すでに半分くらい目的達成できていたりしないだろうか、と思ってしまう。
いやまあ、この場にいるのは目の前の利益につられてあんまり深く物事を考えていない奴らかもしれないので、引き続きバルカ傭兵団の印象向上作戦はやっていこう。
そんなことを思いながら、いよいよ集合時間の正午となったので、声を上げる。
「全員、聞け。我が名はアルフォンス・バルカ。バルカ傭兵団の団長だ」
だだっ広い土地に集められた男たち。
傭兵団の募集を見てきてこの地にやってきた者たちがあたりをきょろきょろ見渡したり、話し込んだりしてずっとガヤガヤしていた。
が、定刻になったことで俺が話を始めると、それらの雑音が止まった。
多くの人の目が俺を見つめている。
そのなかには、子どもが話していることに思うところがあるという顔をしている者もいた。
だが、俺の声がよく響いて聞こえやすかったからか、一気にしんと静まり返った。
あたりに聞こえるのは風の音と、草の音。
そして、さらに話を続ける俺の声だけだった。
「バルカ傭兵団はこの度、新たな仲間を求めることにした。さしあたっては五百人。それだけの人数を受け入れ、ともに訓練し、俺とともに戦ってもらいたい。その募集を耳にして、ここに集まったのが君たちだ。その意味では、すでに俺たちは同じ戦場に向かって動いている同志であるとも言えるだろう」
真っ赤なヴァルキリーであるワルキューレに騎乗して、そのうえで話し続ける俺に視線が集まり続ける。
ひとまずは、この場にいる全員が同じ共同体の仲間だと主張する。
しばらくそんな内容のことを口にし続けることで、聞いている者たちの意識をこちらに集中させる。
これは、この場にいるのがすべて、バルカ傭兵団に入りたいと強く思っているとは限らないからだ。
おそらくは、なにか面白そうな話を聞いたし、もしかしたら命の危険があるけれど仕事にありつけるかもしれない、という軽い気持ちで集まった者もいるだろう。
そういう奴らにもやる気を出してもらうために、気持ちを盛り上げる言葉を並べ続ける。
ついでに、のどから発する声に魔力を乗せて効果も高めておく。
「しかし、残念ながらこの場には傭兵団が求める以上の人数がいる。それはみんなにもよくわかっているだろう。本当ならば全員を受け入れ、みんなと一緒に戦いたい。だが、すべてを受け入れるというわけにはいかない。ゆえに、これから君たちには試験を受けてもらう」
俺がそう言うと、それまで静まり返っていた中からわずかに声が上がった。
試験があるとは考えもしなかった者もいれば、どんな試験が行われるのか想像もできない者もいるのだろう。
だが、その動揺は長くは続かない。
しばらくして落ち着くのを待ってから、次の言葉を発する。
「……話を続けよう。試験はいくつかの種類を行おうと思っている。傭兵団に求める人材は強いことも重要だけど、ほかにもいろんな要素があるからね。それらはここにいるエルビスなどに任せることになる。が、最初の試験だけは団長である俺が直々に行おう。いいか、よく聞け。これから俺が行う試験を見事突破した者は、傭兵団に即入団だ。気合いを入れていけ」
この場にいる全員に間違いなく聞こえるように、俺は声を響かせた。
そして、その内容が予想外だったのだろう。
そのことを理解した連中が、思わず声を出してざわつき始める。
それらの動揺を無視して、俺は話を続ける。
「では、始めよう。俺からの試験を合格する者がいることを期待しているよ」
そう告げた瞬間に、俺は【威圧】を発動した。
いつものあれだ。
なんだかんだで一番よく使っているんじゃないかという俺の魔術。
魔力を鋭い針のように尖らせて相手に突き立てる単純な魔力操作。
だが、それを受けると弱い者は動けなくなる。
それを集まった全員に対して行った。
こうして、バルカ傭兵団に入団するために集まったむさくるしい男たちは意識を失い、次々と大地に口づけするように地面へと倒れていったのだった。
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