土地の売り出し
「よし、じゃあ血の楔の条件はこれで決まりだな。あとは、この新バルカ街に住民たちを受け入れていこう」
一般人に対する条件付けと、兵士向けの条件付け。
スーラからも認められたそれらの条件について、再度他の者たちとも話し合い、微調整を行った。
ただ、あれもこれもと意見を出し続けてもきりがない。
基本的には新しく作った街が情報漏洩をなるべく防ぎつつ、ある程度きちんとうまく回るだろうというところで決定とした。
実際にそれがうまくいくかどうかは後になってみないとわからない。
が、まあ血の楔なしよりはあったほうが数段ましだろうということで話はまとまった。
「受け入れについては、すでにこちらに申し入れしてきている者もいるようですよ。バルカ村が村から街へと生まれ変わるという話を聞いて、移住したいと言ってきています」
「へえ、耳が速いな」
「バナージ殿に計画書を提出したことでもありますしね。それに、ゼンという傭兵がオリエント国で話を広げている影響もあるでしょう」
「いいね。最悪、孤児たちみたいに貧民街から人を連れてこようかとも思っていたけど、自分から来たいって言っている人のほうがいいしね。ただ、まずは金を持っている奴らから入れよう」
「金持ち、ですか?」
「そうだ。新バルカ街は内壁の中に魔法陣関連の施設を残す。で、その内壁と外壁の間の土地に病院を置いている。その病院の周りの土地を金を持っている商人に売りつけよう。今ならお買い得ですよって言えば、買う奴もいるだろう」
「……いますかね?」
「いるよ。というか、こっちから積極的に声をかけるか。オリエント国で不治の病を治した時に、金持っている連中と知り合えたからね。そこから話を広げてもらおう」
新しく作りつつある街はまだ完成しているわけではない。
が、教会に安置している吸氷石の像の影響がそれなりの範囲に広がるために、冬でも工事は続けられるだろう。
そこで、そろそろ人を入れていくことにした。
だが、最初に土地の住人となる者は選ぶことにした。
それは、金を持っているかどうかが判断基準になる。
それをいうと、エルビスなどが少し驚いたような顔をしていた。
もしかしたら、さっそく傭兵たちを受け入れて訓練でもする気だったのかもしれない。
が、ちょっと今回の工事で金を使いすぎているというのもある。
いくらレンガを魔法で作り出せるといっても、レンガだけで街づくりができるわけではない。
それなりに必要な物というのはあり、資材を買い集めながらの街づくりとなっていたのだ。
そのために、結構な金額がすでにバルカ村の財政から出ていっていた。
それを少しでも補う必要がある。
そこで、目を付けたのが土地の売り出しだった。
今後、この新バルカ街は人が増えていくことになる。
だが、今はまだ誰も住んでいない。
今ならば、都市国家であるオリエント国の土地よりも安く、しかし将来性のある土地が買えると話を持ち掛けて金持ち連中に売ろうという考えだ。
そのための伝手なら既にある。
俺がオリエント国で治療を行った連中がそうだ。
不治の病と言われた呪いに侵されていたのは、比較的富裕層の女性が多かった。
そういった人を相手によく治療していたし、その中には商人もいる。
そのときの商人に土地を購入してもらって、できればオリエント国にある商会の支店でもいいから出してもらおうというのが、俺やクリスティナの考えだったのだ。
声をかけた全員が興味を示すとは限らないが、目ざとい者たちの中には実際に金を出して土地を買うものもいると思う。
少しでも資金が入れば、こちらとしてもうれしい。
「では、病院回りの一等地ともいうべき場所は高く売るということで。しかし、傭兵はどうしますか?」
「もちろん募集する。ただ、そいつらは数次第だな。もしかすると、こっちが求める以上の数が移住を希望するかもしれないし」
「……どの程度してくるでしょうか?」
「わからない。ってか、貧民街の奴らなら、とりあえず手を上げるんじゃないか。うまくいけば仕事にありつけるうえに、住む場所もあるんだから」
商人などに土地を売り、支店を出してもらうように交渉するのと並行して傭兵ももちろん集めるつもりだ。
だが、こちらは今一つ予測がつかない。
どの程度、バルカ傭兵団に入りたいという者がいるだろうか。
意外と多いかもしれないし、少ないかもしれない。
こればかりはやってみないとわからないだろう。
ただ、一応受け入れのための準備はしている。
そのための新しい兵舎なども作っているので、それ目的に来る者もいるかもしれない。
それがだめだというわけではないけれど、あんまり貧民街の連中ばかりに来てもらってもという思いはある。
だって、あそこの連中って基本的にガリガリで弱いし、治安の悪さに慣れたものばかりだからだ。
血の楔を行う予定にしているが、それでもなるべく犯罪に走りそうな奴には来てほしくはない。
「傭兵の募集は試験日を設けてもいいかもしれないな。こちらが提示した日に集まってもらって、そこに来た連中を試験する。で、それに合格すれば新バルカ街に住む傭兵として認める、とかどうかな?」
「ふむ。いいかと思いますよ。無制限に受け入れられるわけでもありませんし、あとからあとから人がやってくることになるよりもいいかと思います」
「よし、それじゃ一月後くらいに試験日を設けよう。オリエント国にも告知でも出してみようか。その間に商人との交渉だな。あとは、まだ終わっていない工事は引き続きする。うん、忙しくなりそうだね」
来年に向けての街づくりが急速に進められていく。
今回の話し合いの後、すぐに土地の売買が行われた。
これは思ったよりもうまくいった。
どうやら、商人たちもここの街づくりにはもともと興味を示していたようで、土地を売るという話が出たら次々と手を挙げたからだ。
なるべく店を出すという条件とともに、購入金額の高さなども判断基準にして人を入れていく。
そして、それからしばらくしてから、傭兵志望者たちの試験が行われることになったのだった。
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