計画と許可
「と、言うわけでこれが新バルカ街の計画書です」
「……村から街に? なにやらとんでもないことになっているでござるな」
「駄目ですか、バナージ殿。駄目じゃないですよね? だって、もともとあそこは廃村を俺の土地として自由な裁量が与えられているんですし。人数の上限も決まってなかったはずですよね」
「う、うむ。そうでござったな。わかったでござるよ、アルフォンス殿。このように計画書まで用意して、自分たちの力で街を作ろうというのでござる。議会には拙者からきちんと話を通しておくでござるよ」
新しい街へとバルカ村を変えていく。
そのための計画を建て、そして工事を始めた。
が、完成する前に一応話を通しておこうということで、俺はオリエント国へとやってきてバナージと面会していた。
さすがにバナージも驚いたのだろう。
食い入るように計画書を読んで、俺にいろいろと質問してきた。
それに一つひとつ答えていくと、最終的には決して思い付きだけで始めた街づくりではないということを理解してくれたようだ。
よかったよかった。
ここで駄目だと言われたらどうしようかと思っていたからだ。
「しかし、傭兵の街でござるか。本当に大丈夫なのでござるな?」
「大丈夫かって、どういうことです?」
「アルフォンス殿に言うのはちょっとためらわれるのでござるが、一応言っておくでござるよ。傭兵というのは金次第で誰のもとででも戦う者たちのことでござる。そのためか、基本的には自分の気に入らないことは嫌がる性質を持っているのでござるよ。傭兵が主体の街を作って、うまくまとまってくれるのかという疑問は当然出てくるはずでござる」
「ああ、確かにそうかもしれませんね。ゼンっていう若い傭兵に声をかけて、バルカ傭兵団に入りたい傭兵がいたら紹介してもらおうかと思っているんですよ。そういう今まで傭兵として暮らしてきた奴の中には、自分勝手な奴もいるかもしれませんね」
「かもしれない、というよりは絶対にいるでござる。きちんと手綱を握っていてもらわなければまずいでござるよ、アルフォンス殿。もしも、傭兵の街が問題を起こしたとなれば、議会でアルフォンス殿に責任を追及する声が上がるかもしれぬでござる。そうなった場合、拙者では押しとどめられない可能性もあるのでござるよ」
まあ、そりゃそうか。
傭兵ってことは、基本的には武器を持った連中だもんな。
武器を持って戦闘訓練に明け暮れている集団が街を作って、まともにそこを運営できるのかどうか。
もしかしたら、大きな問題を起こすのではないか。
そんな心配はあってもおかしくない。
そして、その心配を一番誰がするのかと言えば、議会の連中だろう。
オリエント国の近くにある場所で暴力集団が発生しつつあり、それが制御できなかった一番困るのはそいつらだからだ。
もしも、その街の長である俺が、きちんと統率をとれていなかったらと考えざるを得ない。
「……わかりました。それなら、俺がきちんと傭兵たちの統率をとれるというところを証明すればいいってことですよね?」
「うむ。そうでござるな。それができればいいでござる。が、そんなことができるのでござるか?」
「大丈夫です。地元のフォンターナ連合王国でやっていた軍事演習を披露してみようかと思います」
「軍事演習? なんでござるか、それは」
「フォンターナ連合王国ではフォンターナ軍は厳しい訓練を日々受けています。で、その軍がどれほどの実力を持ち、実戦で動くことができるかを披露する行事があるんですよ。フォンターナ王の見ている前で一致団結して動く軍の姿を見せる。それをここでもやってみたらいいかと思って」
「ほほう。なるほど。軍の動きを見せる、と。それで統率がある程度とれていることが分かれば、議員たちの心配も取り払うことができるかもしれないでござるな」
「はい。ただ、そのためにはどうしても訓練する時間が必要です。なので、街を作ってすぐにってわけにはいかないかもしれません」
「うーむ。だが、議員たちの心配を取り除くのであれば早いほどいいのは間違いないでござるよ」
「なるべく早く、か。分かりました。なら、来年の冬が終わった時期にでも議会の人に見せられる程度には訓練をつけておきます。それなら、街が出来上がる前にお披露目できると思うので」
「かたじけないでござる、アルフォンス殿。拙者もその軍事演習とやらを見られるのを楽しみにしているでござるよ」
「わかりました。期待していてください」
……大丈夫かな?
まあ、いいや。
急いで新しく加入する傭兵を集めるとして、そいつらをなんとか訓練してみよう。
最悪の場合は、名付けでもして【見稽古】を使って剣聖の動きをまねできるようにしてしまえばいいだろう。
全員がまったく同じ剣の腕前を同時に披露でもすれば、見ている人も楽しめるだろうし。
こうして、バナージから新バルカ街を作る許可をもぎ取り、本格的に人を集める準備も始めていったのだった。
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