組織化
領地持ちの騎士というのは本当に一国一城の主と言える。
領地内のことに関しては基本的に徴税権や裁判権を持つため、割と自由に統治できるのだ。
だが、権利があれば義務もある。
俺の立場はフォンターナ家に仕える騎士となり、フォンターナ家当主であるカルロスには忠誠を誓うことになる。
忠誠を誓うというのは、大雑把に言えばカルロスの言うことを守るということであり、俺が徴収した税からフォンターナ家に税を納めなければならないし、招集がかかれば兵を集めて馳せ参じることになる。
この兵を集めるということは常に頭の片隅においておかなければならない。
このあたりは長らく動乱が続く地域だ。
というのも、もともと一つの王家が各貴族をまとめ上げて王国としていたのだが、王家の力が衰退したために各貴族の力が強まり、暴走を抑えきれなくなったという歴史がある。
力のある貴族家が他の貴族家に戦争を起こして領土を奪い、それに対抗する勢力が反撃し、というのを繰り返しており、それを止めるものがいない状態なのだ。
幸か不幸か、他国からの干渉が起こりにくい土地柄だったためか、こんな有様でも侵略されたりはしなかったのだが、そのせいで戦乱が続いている。
こういう情勢にあるがゆえに、俺が徒党を組んで立ち上がったときも他の貴族から軍が出てくることがなかったというのもあったらしい。
他家から見ればフォンターナ家が無事に暴動を押さえれば問題ないし、何かの間違いでフォンターナ家が負けたとしてもそのすきを狙って領土を奪えばいい。
そんな考えだったようだ。
いつ何時戦争が起こるかわからない。
こんな状態なために、貴族は常に出動できるように準備をしておかなければならない。
そして、それは配下の騎士にも当てはまる。
主家であるフォンターナ家が一声かければ即座に人を集めて戦場へと行かなければ、それを理由に領地を奪われることにもなりえるのだ。
せっかくうまい具合に自分の領地を手に入れられたのだ。
これを維持していくためにもいろいろとやっておかないと。
そして、今一番俺に必要なのはなにかというとお金である。
命名を勝手にしていたことへのつけで俺はすっからかんになってしまっている。
仮にこんな状態で招集がかかればすぐに食料を用意する資金すらなくなって、俺の部隊は食料を求めてうろつく盗賊集団に早変わりしてしまうことだろう。
だが、金を稼ぐといっても俺個人が稼ぐ方法からは離れないといけないだろう。
仮に俺が領地から離れてもお金を生み出すシステムを作り出す。
ようするに、早急に内政できる組織を作り出す必要があるということだ。
※ ※ ※
「はい、注目。今からバルカ騎士領における人事を発表したいと思います」
俺が城に主要メンバーを集めて声を上げた。
俺一人ではどう頑張っても領地経営などできそうにもない。
なので使えそうな連中はすべてこき使ってやることにしたのだ。
一応、ここにいるメンバーは俺がバルカ姓を与えたやつらばかりだ。
これは言ってみれば領地持ちの騎士である俺が、自分の配下として騎士へと取り立てた者たちであるということにもなる。
つまりは、俺がフォンターナ家に忠誠を誓ったのと同じように、彼らも俺に忠誠を誓い働いてもらうことを意味する。
ちなみにおかしなことをしでかしたら、俺の裁量でさばいてもなんの問題もなかったりする。
「まず、行商人のおっさんことトリオン・バルカ。おっさんは俺と一緒に内政担当だ」
バルカ姓を与えた連中の中でも特に貴重なのが文字を書ける人材だ。
だいたいの農民はまともに文字の読み書きができない。
このおっさんは読み書きができるだけではなく、計算までできるのだ。
開拓地に店を出すという約束をしていたような気もするが、店よりも領地の経理部門についてもらおう。
「次、バイト兄とバルガスは俺の下で部隊長をしてくれ。農民連中を定期的に集めて訓練するように」
本当は常備兵がほしいが、常に人を雇っているのはお金がかかりすぎる。
現状、常備兵を確保しておくのは無理だ。
なので、今回の闘争でも十分活躍してくれたバイト兄とバルガスを兵のまとめ役にして、農作業の傍らに訓練をつけてもらうことにした。
「次、父さんは警備を頼む。とくに攻撃魔法を日常生活で使ったやつは問答無用でしょっぴいてくれて構わないから」
対して、常に人を雇うと決めたのは治安維持に関してだった。
俺が魔法を授けたやつのなかには、やはりふとした時に魔法をぶっ放して人を傷つけるやつもいる。
そういうやつを取り締まる機関はどうしても必要だった。
一応、仏の顔も三度までというこの世界で通じないであろう考えを持ち出して、2回目までは許しても、3度めは許さないという基準だけを作ることにした。
大変な作業だろうが、頑張ってほしい。
「次、マドックさんと村長2人は俺と一緒に裁判官になってもらう。これからは決まりごとを明文化するから、そのつもりでよろしく頼む」
お次は裁判についてだ。
何らかの理由によって当事者同士では問題解決ができない場合、それを解決するために裁判という方法を取るというのはこの世界でも一般的だ。
だが、問題は法律などがないという点にある。
基本的に揉め事は権力者が当事者から話を聞いて、「よし、ではこれで手を打て」と裁決を下すのが裁判のやり方で、両者が納得できる判決を出すのが腕の見せ所なのだそうだ。
しかし、ぶっちゃけわかりにくい気もする。
ならば、俺が法律を作ってしまおうというわけである。
といっても、俺が前世の感覚を持ち出して法律を作ると間違いなく失敗するだろう。
なので、これまでの生活でも揉め事を解決してきた経験があるであろう2つの村の長とマドックさんをあわせて合議制の裁判にすることにしたのだ。
これまでの前例を出してもらって、そこから最大公約数を出すように法律をつくれたらなおよしだろう。
「次、グランは引き続きものづくり担当だ。なにか必要なものがあったら相談するからよろしく」
グランについてはこれまで通り、いろんなものを作ってもらうつもりだ。
ただ、あまり人をまとめて組織的に何かをするというよりも、好きなものを作っていたいというタイプのようだし、そばに人を付けておくことにしよう。
「で、残りのお前らは俺のところで雑務をしてほしい」
あとは、俺の目に止まった人何人か直接雇用することにした。
彼らは城造りや道路造りのときに目をつけていた連中だ。
道路を作ったりしているとき、基本的には魔法でほとんどの作業をやっていた。
だが、例えば道路を真っ直ぐにひこうとしているときに、「こうしたらやりやすいのでは」みたいなことを言っている人が何人かいたのだ。
ほとんどの人は人に言われた指示を聞いて作業するだけだったが、自分で考え、こうしたほうが効率がいいとかうまくいくという意見を言える人物。
おそらく、文字は書けなくとも頭がいいのだろう。
ならば、そいつらはこき使ってやらなければ。
バルカ姓を持つ以上、【瞑想】という疲労回復の魔法が使えるのだ。
過労死する心配はない。
ブラック企業顔負けというくらいに働いてもらうことにしよう。
こうして、俺の領地経営はスタートしたのだった。
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