動きの狙い
「……それをする狙いはなんですかな?」
「狙い?」
「そうです。アルフォンス様の言うように病院を外に向けて門を開く、というのは別にかまわないと思います。が、なぜそうせねばならないのか、もう少し理由が知りたいのですよ」
「さっき言ったのは理由にならないかな。身請けした女性の扱いについて、実際のこととは違った話が広がっているのを正していきたいとは思っているんだけど」
ゼンたちがバルカ村を出て、オリエント国へと帰っていった。
その後、俺はゼンと話して考えたことについて、みんなに説明をした。
そこへ、スーラから突っ込みが入った。
「ふむ。それ自体はまあよいのです。ただ、何のためにその間違った話を正す必要があるのか、というのが気になるのですよ。こういってはなんですが、別にその噂を放置しても、それほどアルフォンス様にとっては不都合はないのではないですかな」
「なるほど。そういうことね。クリスティナとかも、スーラと同じでそう思うか?」
「そうねえ。確かにスーラさんの言うこともわかるかな。別に女性の扱いについては誤解を解くだけならほかにも方法はあると思うもの。たとえば、ローラたちに手紙でも出して近況報告してもらったら、よそで思われているような悪い生活ではないってわかってもらえると思うしね」
「ほかには? ガリウスとかはどう思う?」
「ふーむ。拙者の意見でござるか? 拙者としては病院の運営が可能なのかというのも気になるでござるかな。医薬品を作って売るという話も急に出てきたでござるし、薬を扱って集めた大勢の患者たちを治療していく体制が整っているのか疑問でござるよ」
バルカ村での主要な者たちを集めての話し合いで、それぞれの意見を聞くと、どうやら俺の意見に対してみんな思うところがあるようだ。
主な意見としては、ほかにも方法があるんじゃないかというものと、そんなことができるのか、というものだった。
いい機会なのかもしれない。
今まではなんとなく目の前のことに対処するという形でいろいろとやってきた。
ただ、ここらで全員の考えを統一しておくほうがいいのかもしれない。
いや、違うか。
俺の考えを話すのが先だろうか。
「わかった。じゃあ、ちょっと改めて俺の考えを伝えておこうか。俺はバルカ傭兵団を作って、ここにバルカ村を作った。で、そのバルカ村はこれからもっともっと大きくしていきたいんだ。そのためには、変な噂はないほうがいいと思っている。だから、それの対処のために病院を使っていこうと思ったんだ」
「バルカ村を大きく、ですな。そのために、女性陣についての噂話を払拭する、と。そういうことで間違いないのですな」
「そうだよ、スーラ。正直に言うと、このバルカ傭兵団はまだまだ弱すぎる。俺はもっと傭兵団を強くしたいんだ」
「弱い? ちょっと待って、アルフォンス君。このバルカ傭兵団は頑張っているじゃない。連戦連勝でオリエント国内での評価も高まってきているわよ?」
「それは違うよ、クリスティナ。たしかに、オリエント国内ではそれなりに評価されている。けど、それだけなんだ。オリエント国を出たら、それこそ俺たちは弱者に分類されるくらい弱いんだよ」
そうだ。
現状のバルカ傭兵団は弱い。
この傭兵団が今の評価を得ているのは、ひとえにイアンの存在があるからだといってもいいだろう。
アトモスの戦士イアン。
こいつがいるおかげで、傭兵団としての実力は相当上方修正されている。
だが、もしもイアンを抜くとどうだろうか。
そもそもだが、このバルカ村で今いる戦力はかき集めても二百足らずだ。
しかも、それは戦える数の上限の話であって、実際には村を維持する者や魔道具作りに残る者を差し引くと、要請を受けて戦場に出陣できるのは五十から八十くらいの数でしかない。
そして、その中でまともに戦えるのはイアンとエルビスくらいだ。
俺を含めて、ほかの傭兵は雑魚と言っても問題ないだろう。
「アルフォンス君が弱い? 冗談でしょう? そんなに強い子どもなんてそうそういないでしょう」
「いや、そんなことはないよ。世の中は広い。それに、貴族くらいになると俺以上の実力を持つ奴なんてそこらにいるんだ。実際に貴族院でそういう人を見てきたしね」
どうもみんなが誤解していることの一つに、俺の強さがある。
俺は自分でも結構鍛えているとは思う。
そのおかげで、今までもそれなりに戦えてきている。
が、俺は自分のことを決して強いとは思っていない。
間違ってもそうは思わない。
理由は単純明白だ。
俺より強いやつはこの世にわんさかいる。
それを今まで実際に見てきていたからだ。
身近な存在で言えば、俺の兄たちはみんな俺よりもはるかに強かった。
そして、そんな兄と同じように強い存在だったのがブリリア魔導国の王子でもあるシャルル様だ。
あの人も無茶苦茶な魔力を持ちつつも、普段から肉体を鍛えて、そして、実戦にも出ていた。
王族は誰もが高い魔力をその身に備えている。
そして、それは王族に仕える貴族たちもそうだ。
よっぽどの末端貴族や騎士でもない限り、この東方では代々の婚姻によって生まれつき高い魔力を備えたうえで幼いころから教育してきた者がいる。
もしも、そんな強さを持つ者が相手の軍に一人でもいればどうなるだろうか。
今の現状ではイアンか、あるいはエルビスがいなければまともに相手もできないだろう。
たった一人の相手に傭兵団が壊滅させられる可能性もある。
そうでなくとも、騎士一人がいるだけで傭兵たちが負ける可能性もある。
もちろん、そうであっても俺は負けるつもりなんてない。
誰が相手だろうと、正面から戦って勝つ。
が、そうは言っても、数が少ないというのは問題だ。
一人ひとりの質を伸ばすための訓練をしていくのはもちろんのこと、頭数もそろえなければ戦場でまともな作戦一つできはしない。
というわけで、今後の俺の目標としてはバルカ傭兵団の強化がある。
つまりは、質とともに量を増やしたい。
そのためには、バリアントから若い男を集めるのもいいが、この周辺からも男手を集めて仲間にしたいのだ。
そして、そんなふうにして大きくなるには条件がある。
オリエント国の連中が俺たちを受け入れて、そして協力してくれることだ。
なんせ、傭兵なんてしているからには食べ物が大量に必要だ。
食料を売ってくれる人がいなければ困るだろうし、それ以外にもいろんな物資が必要だ。
そして、それを賄うためにはオリエント国内で仕入れることになる。
塩草でバルカ村の土地の塩害はだいぶ改善されてきたとはいえ、大量の食糧確保はまだ難しいし、薬草も育てたい。
そんなときにいい印象がない傭兵団だと売買の交渉もしづらいだろう。
なにより、この辺の人間が仲間になってくれないかもしれない。
「というわけで、傭兵団を大きくするためにも人に与える印象は良すぎて困るなんてことはないんだ。病院の方針変更についてなにが狙いだって言われると、傭兵団の強化が狙いになるのかな」
「ふぉっふぉっふぉ。なるほど。そこまで考えておられたのですな。わかりました。そういう理由がきちんとあるのであれば納得です。病院の件は今後のことを考えてというのに嘘はなさそうですな」
「ああ。噂話の払拭と医学情報の検証、衛生兵の勉強にもなるし、病院を通してこのバルカ村で傭兵として働きたいっていう奴が出てくるかもしれないからね」
どうやらスーラは俺の説明を聞いて納得してくれたようだ。
そして、ほかの面々もそれは同様だった。
目的はバルカ傭兵団を強くすること。
そのための、病院活用についてさらに意見を交わしていったのだった。
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