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思わぬ風評

「やっぱ、違和感がすごいな。俺の知っている村と全然違う……」


 戦場で知り合った傭兵ゼンがつぶやく。

 ゼンとその傭兵仲間を連れて、俺たちバルカ傭兵団はバルカ村へと帰ってきた。

 それは、ようやく見えてきたバルカ村を見て、ゼンが思わず漏らした言葉だった。


「今のバルカ村を見るのは初めて?」


「いや、一回だけ近くまで来たことがあるんですよ。ただ、入ったことはないですね。結構厳重にしているって聞いていましたから、遠くから眺めただけで帰りました」


「ああ、そうなんだ。まあ、うちは村に入るときの確認とか厳しいかもしれないね」


「ですです。というか、これはもう村とかじゃなくて砦でしょ。ここは用もなく入ろうと思える場所じゃないですよ」


 バルカ村の壁を見てそんなことを言われる。

 まあ、確かにそうかもしれない。

 村の周囲を囲っているのは【アトモスの壁】で作ったものだから、高さがとんでもなく高い。

 そう簡単には登れないし、近づくと日蔭の場所は結構暗くなるくらいだ。

 今まで、オリエント国の襲われた村などに何度も出向いたが、普通はこんな村は存在しない。

 あってもせいぜい木の柵くらいだろうし、一般的な村とは言えない状態だと思う。


「でも、最近はみんなこのバルカ村に興味津々みたいですよ。入ってみたいってやつも多いと思います」


「そうなの? バルカ傭兵団の活躍が広まってきて関心が高まったのかな」


「それもあります。けど、それ以上に、傭兵団が身請けした話を聞いたんでしょうね」


「身請けって、オリエント国の娼婦を身請けしたあの話か?」


「そうです。今、絶賛大活躍中の傭兵団。その傭兵団が大勢の高級娼婦を身請けした。普通の傭兵なんて、高級娼婦に一晩相手してもらうのも無理ですからね。羨ましいんでしょうね」


「へえ。戦場での活躍とかよりも、そっちのほうが話が広がっているのか」


「もちろん、戦場での話があってこそでしょうけど、やっぱり傭兵って男が多いですからね。だれだって興味を持つと思いますよ」


 なるほど。

 そう言われるとそのとおりだと思う。

 ただ、どうも誤解もあるみたいだ。

 どうやら、周りで広がっている話では、身請けした女性たちはこのバルカ村でも娼婦として働かされているのではないかというものだったからだ。

 オリエント国にある娼館ではなく、このバルカ村に新たに娼館もどきを作って、そこで傭兵たちが女遊びに興じている。

 そんな風に思われているらしい。


 実際にはきちんと結婚しているので、そうではないのだけれど、別にそれを広めているわけでもないからな。

 正しい情報ではなく、憶測での話が広がってしまったようだ。

 そのためか、男性からは羨ましいという意見がありつつも、世の女性からは厳しい目を向けられているとのことだ。

 女遊びをするために戦場に出て人の命を奪い、女性をお金で買って集めるとか確かに最悪だろう。


「本当はそんなことは全然ないんだけどな。けど、外部に情報が出ないように規制していたのがあだになったかな。断片的な情報だけをつなぎ合わせたら、そう思われるのも無理ないかも」


「……意外ですね。そんなふうに周りの目を気にしたりするんですか」


「ん? あんまりそういうふうには見えないかな?」


「そうですね。いや、実際はよくわかりません。だって、今もこんな小さな子どもが傭兵団の団長をやっていて、無茶苦茶強いっていうのもいまいち信じられないですからね。しかも、話していても全然子どもらしくないんで、正直、どんな人なのか掴み切れていないっていうか」


「子どもっぽくないってのはよく言われるかも。だけど、これくらいは普通だろうし、俺はまだそこまで強くはないよ。俺より強い人なんて、いくらでもいるだろうしね」


 前からそうだけど、こういうことはよく言われる。

 見た目と違って子どもらしくない、と。

 ゼンのように真正面から直接言ってくるのは少ないけれど、多分そう思っている人は多いと思う。


 ただ、これは多分魔力の使い方とかも関係しているんじゃないかと思う。

 魔力は使い方次第で割となんでもできる。

 それこそ、変わった魔法を使うこともできるし、単純なものなら身体能力を上げることも可能だ。

 で、そのうちの一つに、魔力を頭にある脳に集めると思考力が高まるというものがあった。


 魔力を脳に集中させていると、何もしていない時よりもはるかにいろんなことが高速で考えられる。

 【記憶保存】のように記憶力を上げることもできれば、カイル兄さんの使う【速読】のようなことだってできる。

 多分、さらに極めれば【並列処理】なんてのもできるのかもしれない。

 とにかく、そこまでできなくても、魔力操作に慣れてくると、頭の使い方が段違いによくなるのは間違いない。

 思考の高速化とは、大げさに言えば同じ時間を生きていても考えている時間が何もしていない人よりも長くなるということになるだろうか。


 そのためか、東方では生まれついて魔力量の高い王族や貴族出身の人間は、子どものころから大人びている人が多いと貴族院で聞いたことがある。

 俺は生まれついての魔力量は貴族たちには及ばないけれど、それでも今よりも小さい時からアイに鍛えてもらったおかげで、頭の使い方はうまくなったと思う。

 多分、それが関係してるんだろう。

 ゼンも貴族院に行けば、子どもっぽくない子が珍しくはないとわかるだろう。

 まあ、それでも子どもっぽいことを言ってくる奴は貴族院にもいたけどね。


 それはともかく、バルカ村やバルカ傭兵団に一般市民、特に女性からいい印象を持たれていないのはあまり面白くないな。

 それに、娼婦を身請けして強制的に傭兵相手に働かされているなんて話が広がれば、今後の身請けの話も進みにくくなるかもしれない。


 もうちょっと傭兵団の印象が上がることでもしてみようか。

 ゼンから聞いたバルカ傭兵団の印象の思わぬ悪さにそんなふうに考えたのだった。

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