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網の目

「ふーむ。なるほどなぁ。樹形図じゃなくて、網の目状ってことになるのか」


「はい、現在調べさせた限りではそのようになるかと思います」


「なるほどね。ありがとう、エルビス。なんとなく、現状が理解できたよ」


 東方での魔法の広がり方について。

 それをできる範囲でだが調べてみることにした。

 といっても、バルカ傭兵団はよそとの接点が少ないので、基本的には商人などから話を聞き取るくらいでの推測できる範囲でだけど。

 それでも、おおよその流れが分かってきたように思う。


 東方、特に近年小国家群で広がり始めている名付けによるつながりは、フォンターナ連合王国のある西とは大きく様変わりしているようだった。

 というのも、やはり教会があるかないかという違いが大きいようだ。


 西では教会が名付けを行い、貴族や騎士の上下関係などもすべて把握し、管理している。

 一般人は生まれてから一定年齢になればたいていの人が教会で命名の儀を受けて、教会の神父などと魔力的なつながりを得る。

 が、この一般人に関しては継承の儀を行わないし、生活魔法以外は使えない。

 生活魔法以外を使うのは主に騎士以上の身分の者だ。


 騎士以上になると魔力によるつながりでの親子関係が複数できることになる。

 一つは教会とのつながり。

 そして、もう一つは自らの主である貴族や王との親子関係だ。

 教会とあるじの二人の親がいて、そのほかに自分が親となってその下に騎士がいる場合もあるだろうか。

 そんな魔力のつながりを騎士家の当主などは継承の儀を行って後世に残す。

 この時の魔力の流れは、わかりやすく言うと上から末広がりになる樹形図ということになる。


 だが、この小国家群ではそのような広がり方ではなく、網の目状になっているらしい。

 というのも、【命名】という魔法は必ずしも一度しか使えないというわけではないからだ。


 どういうことかというと、同じ人間が複数から名付けをされ、そして複数に対して名付けをしているらしい形跡があるという点が西との大きな違いだった。

 西では教会によって名付けが管理されていたが、そのような管理できる組織が存在しない東方では、無秩序な名付けが横行していたのだ。


 たとえば、一人の人間が誰かから【命名】されて魔法を授けられたとする。

 そして、その名付けを受けた人が誰か別の人に名付けをすると、魔法を使える人は増えていく。

 しかし、そこで終わりではなかった。

 すでに自分は名付けを受けて魔法が使えるにもかかわらず、ふたたび誰かから名付けを受けたり、あるいはすでに魔法を使える人間に名付けをしたりすることがあるのだそうだ。


 これはおそらく、【命名】のことを深く理解していないことから発生した事態なのかと思う。

 【命名】という魔法は名付けを受けると使えるようになる魔法だが、頭の中で理解できるのは「命名」と呟いた後に手のひらから出る魔法陣を相手に向けて名前を付けることで、相手に名付けができるということだけだ。

 つまり、魔力のつながりによる親子関係や魔力の流れの仕組みなどの理解がまったくないのだろう。


 何度やっても問題なく使えるし、特に不都合はないから、相手が魔法を使えるにもかかわらず再度名付けをしてしまう。

 そんなことが起こっているらしい。

 そして、それらは珍しいことではないために、複雑に絡み合った網の目のように魔力のつながりが成立してしまっている。

 それが現在の東方での現状だった。


「けど、これはこれである意味で利点もあるのかな」


「そうかもしれません。一人の相手から名付けを受けている場合、その名付け親が死んだ場合、魔法が即座に使えなくなります。が、複数から名付けがなされている場合、名付け親が一人いなくなっただけでは魔法が使えなくなるという事態にはならないからです」


「そうだね。そして、自分が死んだ後も同じか。自分が名付けをした相手が急に魔法が使えなくなることも防げている。偶然なのか、それともそういうことが実際にあったからなのかはわからないけれど、魔法を失うことを未然に防いでいるってことだね」


 この流れはおそらくは自然発生したのだろう。

 そして、それが現状ではうまくいっている。

 教会のないこの東方で魔法が広がり続けているのは【命名】の乱用による、複雑な魔力のつながりによるところが大きい。

 その結果、突然魔法を失う事態を避けることに成功はしている。

 が、それは逆に失うものもあることを意味していた。


 というのも、あまりにも複雑に絡まるように魔力のつながりが発生していることで、誰か一人が大勢から魔力を集めることにはなりにくいようだ。

 教会で言えば神様や教皇、枢機卿みたいな存在がいないと言えばいいのだろうか。

 自分の魔力がいろんな人に送られ、いろんな人から流れ込んでくることで、魔力量の平均化みたいなものが起きている可能性がある。


 いや、一概にそうとは言えないか。

 というのも、バナージなどはどんどん魔力量が増えていっているみたいだからだ。

 多分、高い地位にある人はある程度上位の存在になっているのだろう。

 魔法が使えるようになった一般人とは違い、気軽にいろんな人に【命名】をしていないし、されてもいない。

 ゆえに、東方で広がる魔力のつながりからの魔力流入が一部の人に起きている。

 その結果、ごく一部だけが魔力の総取りみたいになっているのか。


「ってことは、やっぱり鍵となるのはオリエント国の上層部かな? あそこが名付けの発生起点だから魔力量の多い人間が何人もいることになる」


「はい。オリエント国の議員などですね。このままの状態が続けば、彼らの魔力量がさらに伸び続けることは間違いないでしょう。それによって、弱国と呼ばれるオリエント国の力は増大する可能性があります」


「うん、それはありそうかも」


 雇い主であるオリエント国が伸びる可能性がある。

 そのことは朗報だろう。

 が、その伸びに対してバルカ傭兵団もついていく必要がある。

 こっちの力が小さいとなれば、扱いが悪くなる可能性もあるからだ。

 やはり、そうなるとバルカ傭兵団の実力をもっと底上げしていくことも重要かもしれない。

 東方での魔法の広がり方を調べながら、改めてそんなふうに考えることとなったのだった。

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