東方での魔法の広がり方
「けど、改めて考えると、今後この東方では魔法ってどうなるんだろうな」
「どう、というのはどういうことを言っているのですか、アルフォンス様?」
「継承権のことだよ、エルビス。フォンターナ連合王国なら教会があるだろ。そこでは、継承の儀をして自分の子どもに継承権を残せる。けど、こっちではそうはいかない」
「そうですね。一応、この村にも結婚式のために小さな教会を建てましたが、あれは形だけの建物ですからね。いえ、アルス様の姿を象った吸氷石の像を安置しているので、決して建物だけではないですが、それでも神父がいません。継承していくのは無理でしょうね」
「だろ? ってことはだ。この東方では今いる人間が死んだら、魔法が使えるやつっていなくなっちゃうんじゃないかな?」
バルカ村での結婚騒動。
それが一区切りついたことで、ふと考えたこと。
それは、この東方での魔法の広がり方についてだった。
アルス兄さんが作った【命名】という魔法。
命名の儀でも使われる魔法陣が手のひらから出て、対象に名付けを行うことができる魔法だ。
これを使うことで、人から人へと魔法を授けることが可能で、東方では徐々にそのつながりが増えていっている。
が、しかしだ。
【命名】はあくまでも名付けを行うだけだ。
本来の教会では命名の儀以外にも、継承の儀というのがある。
これがあるおかげで、はるか昔にいた魔法使いの魔法を貴族家が代々受け継ぐことができているのだ。
そんな継承の儀はこの東方では使えない。
それができる教会関係者がここには一人もいないからだ。
ならば、この小国家群で広がっている魔法の使い手たちは今後どうなるのか。
そのことについて、エルビスと話しあった。
「親から子に魔法が受け継がせることができない。これは、魔力のつながりもそうだ。誰かがものすごい数の人間に名付けをしまくって魔力量を上げたとしても、それをそいつの子が受け継ぐことはできない。あっているよな?」
「そうですね。そのとおりだと思います」
「で、だ。もしそんなことがあった場合、そいつが死んだらどうなるんだろう? たとえば、一人で千人に魔法を授けた奴がいるとする。そいつが死んだら、その千人は魔法を失うことになるんじゃないのかな?」
「はい。そのはずです。名付け親が死に、その継承権を持つ者がいなければ、名付けをされた者は魔法を失うことになります」
「やっぱりそうだよね。ってことは、鍵となるそいつがいなくなれば勢力圏は大きく変わることになるってことだよな。いや、それだけじゃない。オリエント国にはもっと肝心の奴がいるだろ」
「バナージ殿ですね?」
「そうだ。バナージ殿はアルス兄さんに魔法を授かった。これは東方では数少ない人間なんだろ? もし、バナージ殿が死んだらどうなる? 小国家群で広がっている魔法ってほとんどが消滅するんじゃないのか?」
そうだ。
改めて考えてみると、結構危険なことなんじゃないだろうか。
魔法の影響力は大きい。
生活魔法も便利すぎるし、【整地】や【土壌改良】なんてものも一度使ったらもう二度と手放せないものだと思う。
それがある日を境に突然になくなってしまう可能性があるというのは危ういことなんじゃないかと思った。
「アルス兄さんはこのことについてどう考えているんだろう。アイはなにか知っているか?」
「はい。答えは、無関心です」
「無関心?」
「はい。アルス・バルカ様は東方での魔法の広がりについて、さほど気にしておられないと考えられます」
「……そうなの? でも、魔法を広げるために【命名】を作って、バナージ殿に名付けしたんじゃないの?」
「そのとおりです。おそらくは、その時点では東方での魔法の広がりによって、自身の魔力量が増大することを利点として考えていたのでしょう。ですが、現時点では違います。天空王という王位につき、俗世から離れて鎖国を行った現状では、東方から流れ込んでくる魔力量についてはあってもなくてもよい、と考えているのです。ですので、東方での魔法が広がり続けようと、廃れようとあまり気にしない。つまり、無関心なのです」
「ははは。アルス様らしいですね」
「いや、笑い事じゃないんだけどさ。けど、確かにアルス兄さんはあんまり気にしてないのかもしれないね」
アイの言うとおりなのかもしれない。
東方という社会でこれだけ影響力のあるものを広げておいて、アルス兄さんはほとんど気にしていない可能性がある。
もしも、気にしているんならもう少しこっちに顔を出してもよさそうだし。
けど、そんなことは全然ない。
東方にいる俺に対しても、アイを通して、好きに生きろ、としか言ってきていないし。
けれど、魔法についてはもう少し考えておいたほうがいいのかもしれない。
そういえば、小国家群の中のほかの国ではどんな風に魔法は広がっているんだろうか。
ちょっと気になったので、もう少し調べてみることにしたのだった。
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