病院
「まずは、病院でも作るか」
ローラとの話し合いで今後のことも考えてバルカ村を少しずつ改良していくことにした。
そのために、まずは病院づくりでもしてみることにする。
「あの、私が言い出したことですが大丈夫なのでしょうか? お医者様がこの村にはおられるのですか、アルフォンスくん?」
「医者はいない。けど、治療ができる人間はいるよ」
「それはどなたなのでしょうか?」
「怪我はエルビスが治せる。で、それ以外の病気のことについてはアイが知識を持っている。それを使おう」
とりあえずの暫定的な処置として、大けがはエルビスに任せようと思う。
といっても、【回復】を使うだけだけれど。
魔力量の増えたエルビスは【回復】という呪文を使えるようになっている。
一言発するだけで怪我が治る優れものの魔法だ。
ただ、エルビスはこの【回復】を本当の意味で使いこなせていないらしい。
というのも、【回復】を使えばたいていの傷は治せるらしい。
が、例えば腕が無くなるといった欠損などは治せないらしい。
これはエルビスの知識不足からきているものだ。
医学書を読み解いてしっかりとした知識を持っていれば、同じ【回復】という呪文でも欠損治療ができるはずなのだ。
実際に、アルス兄さんはそれができるため、イアンの体を治したこともあるという。
とはいえ、この【回復】という魔法に頼る気はあまりない。
というのも、この魔法は使用する魔力量がかなり多いからだ。
それこそ、貴族の当主が使えるという当主級の魔法を使える位階にあっても、【回復】は使えないというくらいだ。
一発の魔法でとんでもない魔力を使わないと治せない。
それをそう簡単にエルビスに使わせることはできないだろう。
実際に、西にある聖光教会では【回復】はあまり使われていないらしい。
もし使うときがあるとすれば、貴族が教会に対して高い喜捨をしてやってもらうくらいなのだ。
そうそうあるものではない。
これは、いざというときに【回復】が使えなかったら困るからでもある。
常に最悪の事態を想定して、余力を残しておく必要があるというわけだ。
と、いうわけで、このバルカ村に作る病院の基本的な担い手はアイになるかと思う。
一応、これまで孤児たちを教育していたアイだが、女性陣が新たに子どもたちの教育に参加したことで少し余裕がある。
今ならば、アイの一体を病院においておくのも可能だろう。
とはいえ、アイに頼り切るわけにはいかない。
やはり、アイ以外にも病気の治療ができるようにしておいたほうがいいだろう。
助手をつけて勉強させようか。
そういえば、今のバルカ傭兵団には衛生兵というのはいなかったなと思った。
アルス兄さんが作ったフォンターナ軍では、兵科を分けて軍を運用していたと聞く。
騎兵や通信兵、工兵なんかに分けて軍を使っていた。
その中に、衛生兵というのもあったはずだ。
この衛生兵は基本的には傷の手当などをまず勉強させる。
生活魔法の【洗浄】があれば、どんなに汚い状態でもあっという間にきれいにできる。
傷口をきれいにした後に、折れた骨をゴキンと動かして元の位置に戻したり、包帯を使って傷口を巻いたりする。
それだけでも、その後の治り方に違いが現れるようだ。
あとは、傷に効く薬の知識でもあればいい。
今のバルカ傭兵団はそのような兵科を分けて作っていない。
そのために、衛生兵なんてものもいない。
が、衛生兵くらいは用意しておいてもいいのかもしれないと思った。
傷口を治療したり、整復したりというのはそれなりに短期間で覚えられるはずだ。
それを病院でアイに指導してもらうとしようか。
ただ、子どもの病気を診る、となるとまた話は変わってくるかもしれない。
いや、子どもに限らず病気そのものが難しい。
基本的には病人から話をきく問診でどのような病気かを見つけ出さないといけないからだ。
目に見えてどこがケガをしている、というのが分かりにくい分だけ大変だと思う。
そんな病気への対応は、治療者が知識を持っていることが重要になる。
基本的に脳筋ばかりの傭兵たちにそんなことができるだろうか。
難しいかもしれない。
あるいは、孤児や娼婦たちの中から医者志望の者を病院で働かせてもいいのかもしれない。
ちゃんとした医者をある程度確保できる状態にするのは時間がかかるかもしれない。
少なくとも、人体の解剖図と病気の知識は覚えてもらわないと話にならない。
それも単に【記憶保存】で覚えるだけではなくて、きっちりと自分の頭で理解しておく必要がある。
そうでなければ、未知の病気について対応できなくなってしまうし。
「それならば、不治の病から治った子たちはどうでしょうか?」
「ん? どういうこと、ローラ?」
「この村に来た女性の中に、何人かアルフォンスくんの治療を受けた人がいたでしょう? 心臓の病気で苦しんでいた子が。で、アルフォンスくんの治療を受けてからはそれがすっかりとよくなって喜んでいます。そして、こう言っている子がいるのです。自分もアルフォンス様のように人を治してみたい、と」
「へー、そうなんだ。じゃあ、あとでその人にお願いしてみようかな。医者になる気があるんなら、厳しい勉強が待っているかもしれないけど病院で働かないか勧誘してみよう」
「お願いします。きっと喜ぶと思いますよ」
とりあえず、衛生兵も必要だし、男女同数くらいでアイに病気のことを教えさせようか。
同じ病院内で一緒に仕事をしていれば、そいつらがくっつくように結婚するかもしれないし。
こうして、急遽病院用の建物と診察台などが作られて、バルカ村に新たな施設として病院が誕生したのだった。
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