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ガリウスの多忙

「武術会と並行しての準備は忙しいな。どうだ、ガリウス? 準備は進んでいるか?」


「進んでいるというか、なんというか。拙者が忙しすぎるでござるよ」


「悪いね。こればっかりは、ガリウスが頼られることになると思うし。なんせ、うちの男連中は女性にどういうものを贈ればいいかすらわかっていないからね」


 安心安全の武術会。

 それと同時進行で準備を進めているのが品評会だ。

 山暮らし出身の男連中がその力強さを見せつけて女性とお近づきになるのはいいが、さすがに相手が悪いかもしれない。

 バリアントとは全く違う都会でもあるオリエント国で、数々のお客を相手に接待してきた女性陣の気を引くには強さだけでは駄目だろう。

 そのために、強さ以外で男性陣の魅力を伝えるために行うのが品評会だ。


 もともと、このオリエント国では女性に対して男性が自身で作ったものを贈る習慣というのがあるらしい。

 なんとも、ものづくりが盛んなお国柄とでもいうべきだろうか。

 受け取った女性は送られた品の出来を見て、その将来性などを見極めるのだそうだ。

 造り手としてどれほどの腕をもっているか、あるいは贈り物としてのどんなものを作るかを選択する感性が問われるらしい。


 というわけで、それを大々的に行事としてやってしまうための品評会だ。

 男連中が女性に対して贈りたい品を自ら作って用意する。

 それを女性に贈る前に、全部集めて鑑賞しようというたくらみだ。

 これはどちらかというと、このバルカ村でのものづくりの腕前を女性陣に認識してもらう意味もある。

 脳筋集団でもある傭兵団だが、意外と腕のいいのがそろっていますよと知ってもらうのだ。


 これは結構意味があることだと思っている。

 というのも、普通に考えて傭兵なんて仕事はまともな仕事とは言えないからだ。

 金で雇われて戦場へと赴き、武器を手に取り、命のやり取りを行う。

 それを日常的にやるのだ。

 五体満足でいられる保障などどこにもない。


 もし、そんな傭兵と結婚したらどうなるだろうか。

 働き盛りの夫がある日突然死ぬかもしれない。

 いや、言い方が悪いかもしれないが、死ぬのならまだいいほうかもしれない。

 大けがを負ってしまって、戦うどころか普通の仕事すらできない状態になるかもしれないのだ。

 そして、そのようなことがなく傭兵稼業を勤め上げたとしても、いつかは戦場に行けない日が来るだろう。

 そういうときに、どんな仕事ができるかというのはどうしても考えざるを得ない。


 このバルカ村へとやってきた女性が気になるのはやはりそこだろうとはクリスティナの言葉だ。

 その不安をある程度払拭させるためにも品評会を行う。

 いざというときには、ものづくりでも食っていける実力がある、ということを知ってもらう。

 実際に、技術だけならなんとでもなる。

 【見稽古】を用いて短期間で一定程度の技術を習得できる傭兵たちの現状を知ってもらう。

 それこそが品評会の狙いでもあった。


 だが、それを行うにあたって一番負担がかかっているのがガリウスだった。

 品評会を行うという情報が知れ渡ったとき、多くの男性がガリウスのもとへと殺到したからだ。

 女性に対する贈り物。

 しかも、相手はお金を持つ相手を客として、これまでにさまざまな品物をもらってきたであろう経験がある女性ばかりだ。

 相手の気を引くためにはいったい何を用意すればいいのかわからない。

 なので、それを知るために、ものづくりの指導もかねてガリウスに聞かねばならなかった。


 そういった流れで、どんな贈り物をすればいいかという質問とともに、実際にそれを目の前で作ってくれとせがまれるガリウスは大忙しになった。

 なにせ、どんなにいい贈り物であっても、全員が似たようなものを贈るのはまずい。

 それでは意中の相手の心に響かない。

 なので、できれば自分以外は誰も作っていない、けれど相手にとって気に入ってもらえる、しかも高級な品はなにかとガリウスは問い詰められていたのだ。


 宝石や貴金属の加工。

 身に着けるきれいな首飾りや指輪、腕輪など。

 あるいは、高級なお皿や湯飲み。

 きれいな仕立ての服などなど。


 ほかとはかぶらないようにといろんなものをガリウスは作らされていた。

 そして、ガリウスはグラン同様にそれらの多岐にわたるものづくりができてしまった。

 できるがゆえに、忙しさは半端ないものになった。

 おかげで、今は疲れた表情で休む羽目になっている。


「けれど、これはこれでいい機会だったのでござるよ」


「ん? どういうこと?」


「今までは主に魔道具に使えるもののみを教えていたのでござる。もちろん、それはこの村にとって必要なことでござる。けれど、今回の品評会をきっかけにして、いろんなものを作れるようにしておいたほうがいいのは間違いないでござるよ。いざとなったら、魔道具以外にも物を作って売れることにもなるでござるからな」


「ああ、そういうことか。確かにそうかもしれないな。今はガリウスが死ぬほど忙しいけど、一度教えこめば、あとは教えた連中が手本となって【見稽古】で覚えていくこともできる。結局のところ、バルカ村全体での技術力の底上げにもなるのか」


「そういうことでござるよ。とくに衣食住、とりわけ衣である服は需要が尽きることもないでござるからな。間違いなく、今後のこの村にとっていい影響があると思うでござるよ」


 そう言われるとそうだな。

 結婚話をまとめるために行った今回の騒動だが、意外といい面もありそうだ。

 そんなことをガリウスと話しつつ、ほかにも次々と出てくる問題に対処しながら、ようやく武術会と品評会の開催にこぎつけることができたのだった。

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