住民登録
「次、ローラさん」
「はい。わたくしがローラです」
「初めまして。先ほど説明したように、あなたにもぜひバルカ村へと来てほしいと考えています。ですが、あくまでも強制ではありません。先ほどの説明にあった内容で気になる点などがあれば聞いてください。もし、身請けを断るというのであればそれでもかまいません」
少年とは思えないしっかりとしたアルフォンス様が私に対してそう言いました。
すでにこの会話も別の方へと投げかけられているので何度も聞いているのですが、それでも一人ひとりに対して同じように問いかけています。
今回のお話は無理やり女性をバルカ村へと連れていくというものではなく、あくまでも私たちに決定権を持たせてくれているようです。
アルフォンス様は集まった私たちに対して、しっかりとした説明を行いました。
それによると、身請けをするのはアルフォンス様ですが、別にこの少年と夫婦の契りを結ぶわけではないようです。
バルカ村へと移住し、そこで生活をする。
新たにできたその村は男性ばかりのようで、そのために女性を欲しているとのことでした。
仕事は村の少年少女に対する教育などがあり、そしてできれば傭兵団の殿方と夫婦になってほしい。
そういうものだと言います。
話を聞いたこの場にいる女性たちは、多くが困惑していました。
私と同じようにてっきりアルフォンス様のもとに嫁ぐ必要があるのだと思っていたのではないでしょうか。
それに、傭兵と結婚というのも気になります。
今までにいろんなお方を見てきましたが、やはり普段戦場で力を振るう傭兵という仕事をなされる方はどうしても力に頼りがちです。
もしかしたら、女性に対しても同様に暴力を振るうかもしれない。
そう考えるとためらう気持ちがないわけでもありませんでした。
ただ、私はこのお話を受け入れようと思います。
それはバルカ村に知り合いがいるとわかったからです。
昔馴染みでもあるクリスティナさんがこの場にいたからです。
聞くところによると、彼女はもともと商人として働いていましたが、アルフォンス様と知り合い、今はバルカ村で生活しているようです。
その村での生活についてお聞きすることができたので、そう悪くなることはなさそうだと思えたため、思い切って今回のお話を受ける決断ができました。
「バルカ村へ参ろうと思います。どうぞよろしくお願いいたします、アルフォンス様」
「ありがとう。では、こちらを受け取ってください。それを腕にはめてもらえますか?」
「はい。こうでよろしいですか?」
「結構です。じゃあ、頼むよ、アイ」
「かしこまりました」
私がお話を受けると答えると、アルフォンス様は腕輪を渡してきます。
金属製のきれいな意匠の腕輪です。
この感じはどこかバルカ霊薬の容器と似ているので、造り手はガリウスという職人によるものでしょうか。
磨き上げられたその腕輪には、見たところ魔石が組み込まれているように見えます。
そして、その周りには魔法陣が描かれている。
ということは、この腕輪は魔道具の一種なのでしょう。
それを左腕にはめると、アルフォンス様の隣にいた女性が私へと近づいてきました。
アイ、と呼ばれた女性です。
恐ろしいほどきれいな方です。
この場にはオリエント国を代表するといっても過言ではないほどの高級娼婦としての実績のある者が多数います。
が、その方々と比べても遜色ない、むしろ、さらに上をいく美貌を持っているといってもよいのではないでしょうか。
そのアイさんが、私に対して触れるか触れないかの距離まで腕を伸ばしてきました。
「登録、完了いたしました」
「ありがとう、アイ」
「あの、これはいったいなんなのでしょうか?」
「これですか? これはバルカ村で使っている識別票みたいなものですよ。これをはめることで、だれがいつどこにいるかがアイにはわかるようになっています」
「アイさんに、ですか?」
「そうですよ。もともとはこっちの精霊石で作った腕輪がもとになっているんですけど、うちでは精霊石って手に入らないので、その簡略版みたいなものです。村への出入りなどでは必要となりますから、無くさないようにお願いします」
左腕にはめた腕輪はどうやら不思議な効果があるらしいですね。
居場所がわかるということは、おそらく勝手には村から出ていけないということでもあるのでしょう。
ある意味で自由が無くなるということを意味しています。
が、もともと娼館からも仕事以外でほとんど出ることもありませんでしたし、身請け先によっては家からも出ることなく一生を終える可能性もあります。
あまり変わらないと言えば変わらないため、そこまで気にする必要はないでしょうか。
それにしても、この場にはほかにも魔道具がたくさんありました。
最近、議員のバナージ様がおつくりになっているという魔道具があり、それがオリエント国内で普及しているとは聞いています。
ですが、それと同じ質で、しかし、今までに見たこともないような魔道具がいくつかこの部屋には用意されています。
そして、それもまた腕輪に見られる意匠と同じく、ガリウス製であることが見て取れました。
もしかして、バルカ霊薬だけではなく魔道具も作っているのでしょうか?
そんな雰囲気を感じてしまいます。
そして、それと同じことをほかの方々も感じ取っていたようです。
最初はバルカ村へと行くことをためらうような感じを見せていた女性たちも、この場に用意された魔道具の数々を見て興味を示したようでした。
アルフォンス様の言葉を受けて、数名が身請けを辞退したものの、それでもほとんどの方がお話を受けるという意思を示して腕輪を身に着けています。
こうして、私たちはバルカ村の住人の一人であるという登録をされ、村へと向かうことになったのです。
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